25話 剣舞② お手本
「三人での剣舞が許可されたわ!」
次の剣舞の授業で、マリー先生は、きゃっきゃと喜びながら報告した。
どうやら、前代未聞の三人の剣舞が余程嬉しいようだ。
「そして、なんと!三人は、三年生のエリアで剣舞を披露することになったわ!」
あまりの驚愕の事実にエレノアは声を失った。
三年、二年、一年と外側になっていくのは、年功序列もあるが、それよりも剣舞の巧さがある。
二年連続で剣舞を踊っている三年生の方が見栄えがいいのは確かだ。
そのため、三年生は一番真ん中で踊る。
マリー先生は机の上にダンスホールの全貌が書かれた設計図を広げた。
小さい円、それを囲むように中くらいの円、それを囲むように大きな円が、ダンスホール全体を使うようにしてペンで描かれている。
そして、ダンスホールを囲むように二階席があり、そこから剣舞を両親である貴族や生徒たちが見守る。
マリー先生はそのダンスホールの小さい円。
三年生が剣舞を踊る範囲を指した。
「あなた達は、三年生に混ざって剣舞を踊ることになるわ。中心の剣舞を踊る男女は踊りが違うのよ。だから、あなた達には特別授業と三年生との合同授業が待っているわ!」
喜ばしいことだと言うように、マリー先生は嬉しそうに拍手をした。
エレノアはジルベールを見た。
ジルベールも流石にここまで大事になるとは思っていなかったようで、片手でごめんと手を立てた。
ここまで来たからには三人でやるしかないだろう。
「三人に特別授業をしてくれる先生がもうすぐ来てくれるはずよ」
すると、ガチャリと扉が開いた。
初老と言ってもいい年齢のクールな女性が優雅に部屋に入ってきた。
そして、三人の前でゆっくりと足を止めた。
イーサンと同じくらいの背の高さで、女性にしてはやや高く、少し怖そうな雰囲気を纏った先生だ。
「三人とも、こちらヴァレリー先生よ。三年生の剣舞の担任でもあるわ」
「ジルベールさん、イーサンさん、エレノアさん。はじめまして。私はヴァレリーと言います。男性二人、女性一人で踊るという剣舞はラントレー貴族学院でも初めての行いです。それを提案した三人にはキツイレッスンが待っています。三年生と肩を並べて踊るのですから、見劣りしないようにきっちりしごきますからね」
「はい」
三人が同時に返事をした。
ヴァレリー先生はそれを確認すると、口元に弧を描いた。
「ついてきなさい」
ヴァレリー先生の後ろを三人は着いていく。
「今日は三年生の男女剣舞を行う生徒との合同授業となります。三年生も型の違う中心での剣舞は初めてです。基礎は圧倒的に三年生の方が出来ていますが、あなた達も十分な剣舞をできると期待しています」
「はい」
微笑みを向けたヴァレリー先生に三人は返事をした。
三年生との合同授業の部屋へと三人は足を踏み入れた。
五組、総勢十人の男女がそこにはいた。
男性陣は、三人より背の高いものばかりで、年齢の違いがはっきりと分かる。
三人はヴァレリー先生に誘導されて、先生の横へと立っていた。
「こちらが、一年生の三人剣舞をする左からイーサンさん、ジルベールさん、エレノアさんです」
「よろしくお願いします」
三人が頭を下げると、三年生は拍手をした。
「じゃあ、三人はあちらへ」
先生は手のひらで三年生のいる方向を指した。
三人は三年生のいる場所へと合流をした。
「中心で行う男女剣舞は、今まで皆さんがしてきたものとは全く違うものです。今回が初めての男女剣舞という人もいるでしょうが、今までの男女剣舞の有無は今回の男女剣舞とはそこまで関係がないと私は思っています。皆さんがしてきた剣舞はすべて、中心にいる男女剣舞を目立たせるためのものですから。そして、今回、貴方方がするのは、中心の男女剣舞です。気を引き締めて、剣舞のその日までレッスンに励んでください」
ヴァレリー先生が皆へと喝を入れる。
「そして、今回、中心剣舞の副担任として、ロニー先生に来てもらいました」
メガネをかけた少し癖っ毛の男性の先生の紹介がされた。
姿勢がよく、ヴァレリー先生同様にとても優雅な振る舞いだ。
「中心剣舞の副担任のロニーです。よろしくお願いします」
ロニー先生の紹介に皆が拍手をする。
「ロニー先生には主に、男性の振り付けを教えてもらいます」
「よろしくお願いします」
ロニー先生が生徒たちへ笑顔を向けて、挨拶をした。
ロニー先生へ生徒たちから、拍手が送られた。
「では、まずは私とロニー先生で男女剣舞の見本を踊ります。よく見ていてください」
ロニー先生が蓄音機から音楽を流し始めた。
ヴァレリー先生とロニー先生が剣を構え、二人の剣は少しも当たることなく、当たらないぎりぎりの間隔を保ってその場で剣を構えながら一周した。
そして、両者が後ろを向いて、剣を振っていく。
体を振り向いて互いに向き合う形になった二人が、ヴァレリー先生は踊るようにして剣を振り、ロニー先生はヴァレリー先生の周りをゆっくりと剣を振っていく。
そして、剣を持った二人が交わるように何度もゆっくりと剣を振って、二人はまるでダンスをしているかのように、舞いながら踊っていく。
緩急つけたその剣舞はお手本として最高な出来だった。
そして、最後は相手と剣を交わせ、その剣を鉾におさめる。
剣を収めると同時に、音楽が途切れた。
剣舞の終わりと同時に拍手が起きるのは自然なことだった。
拍手が終わると、扉が開き、別の先生が姿を現した。
そして、口元を押さえて「遅かったかしら」と気まずそうに部屋の中に入ってきた。
「こちらは、もう一人の副担任のブリジット先生です」
「ブリジットと言います。皆さん、よろしくお願いします」
丁寧な所作でブリジット先生は、挨拶をした。
ブリジット先生にも拍手が送られた。
「ブリジット先生には主に、三人剣舞のジルベールさん、イーサンさん、エレノアさんに踊りを教えてくださいます」
「三人とも、よろしくお願いしますね」
「はい」
エレノアたちはブリジット先生に頭を下げて挨拶を交わす。
「三人剣舞のために剣舞の踊りを用意しました。お手本として、そちらも私、ロニー先生、ブリジット先生と踊ります。ブリジット先生が女性役を、私とロニー先生が男性役をやることになります」
すると、ブリジット先生が両手に剣を持ち出した。
ロニー先生が、蓄音機から音楽を流す。
双剣を構えたブリジット先生は剣を構えた。
ブリジット先生が構えた剣に、ロニー先生とヴァレリー先生が剣を添わせて、その場で一周をする。
三人が後ろを向いて三角形の形を作り、剣を振るっていく。
体を振り向いて向き合う形になった三人。
ブリジット先生が、真ん中で踊るように両手に持つ双剣をゆっくりと振り、ロニー先生とヴァレリー先生がその周りで剣を振るう。
ブリジット先生が器用にロニー先生とヴァレリー先生の剣に這うように剣を交わせた。
ブリジット先生が舞うように双剣を持ってロニー先生とヴァレリー先生の相手をしながら踊っていく。
そして、最後は三人で剣を添わせて、剣を鉾におさめると音楽と共に剣舞が終わった。
その剣舞に、ヴァレリー先生とロニー先生が踊った時以上の拍手が起きた。
そして、エレノアは覚悟をしたと共に、後悔した。
安易に三人剣舞を許可しなければよかったと。




