24話 剣舞① 提案と辞退
長かった二か月間の夏休みは終わりを告げようとしていた頃、領地へと帰っていた生徒たちが学院へと帰ってきていた。
帰ってきたパトリシアたちと、久々の団らんを楽しんでいたが、あっという間に夏休みは終わりを告げた。
「今年も剣舞の季節がやってきました。皆さんには男女三組、残った男性十五人は各々剣舞の型を踊ることになります。エレノアさん、パトリシアさん、ジゼルさんは花形として好きな男性を誘ってください。もちろん、好きな相手でも友達でも結構です。ただ、首席のイーサンさんは男女で剣舞を踊ることになっているわ。さあ、皆さん!楽しみましょーう!」
浮足立っている剣舞担当の先生であるマリー先生はそう言いながら踊っていた。
剣舞を踊るのはラントレー貴族学院の騎士学部特待生のみである。
そのため、この時期の騎士学部特待生は、剣舞のために一日の大半を剣舞の練習に当てている。
特待生女性陣は互いに顔を見合わせる。
この状況で相手を見繕うというのは、恥ずかしいに決まっている。
だが、先に一歩前に歩き始めたのはパトリシアだった。
まっすぐセザールの元へと向かっている。
「セス、お相手お願いできる?」
「もちろんだ」
にかりと笑ってパトリシアの手を取るセザール。
婚約者同士の二人がペアを組むのは自然なことだった。
残ったエレノアとジゼルはどうしようかと並んでいるクラスの男子たちへと目をやる。
すると、ジゼルも勇気を出して、同じクラスの生徒を誘った。
残されたエレノアはどうしようかとクラスを見渡した。
すると、ジルベールが手を挙げた。
「どうぞ、ジルベールさん」
先生に発言を許可されたジルベールは、手を下げて口を開いた。
「エレノア嬢の剣舞の相手に立候補します」
その発言に皆がざわついた。
残ったエレノアはイーサンの相手になるだろうと予想していたからだ。
エレノア自身もジルベールの発言には驚きを隠せない。
これは立候補制だっただろうかと、エレノアはマリー先生へと目をやる。
だが、マリー先生は、なぜか目を輝かせて、エレノアの様子など気にもしていない。
「そして、エレノア嬢の相手にイーサンを推薦します」
エレノアは思わず生唾を飲み込んだ。
ジルベールの言っている意味が分からなかった。
先生の言いぶりだと、男女でやる剣舞は二人一組でやるものだ。
というかエレノア自身もそう認識している。
だが、ジルベールはエレノア、イーサン、ジルベールの三人での剣舞を所望したのだ。
あまりにも奇想天外な提案である。
こんなことをしてジルベールになんの利があるのだろうとエレノアは思う。
ジルベールはちらりとイーサンを見た。
イーサンは特段驚いていない様子だ。
いつもの仏頂面を浮かべている。
「さ、三人での剣舞ということかしら?」
マリー先生は動揺しながらも、ジルベールに聞いた。
「ええ」
ジルベールの返答に、マリー先生は唸っていた。
すると、そんなマリー先生のことなど待たないとでも言いたげにジルベールがある条件を付け足す。
「ただし、イーサンがエレノア嬢と踊るというのなら僕は辞退します」
「え?」
エレノアが情けない疑問の声を浮かべるのも仕方がなかった。
「ん?どういうことかしら。ジルベールさん」
ジルベールは三人での剣舞を所望しながらも、イーサンがエレノアと踊るなら辞退すると言った。
それをすることでなんの意味があるのか、この場にいる全員が理解していなかった。
「大丈夫です。先生。まずは、イーサンの意見を聞きましょう」
マリー先生の発言を一蹴したジルベールは皆の視線をイーサンへと集めた。
逃げられない状況を作ったジルベールは目を細めてイーサンを見つめた。
「俺は、三人の剣舞でいい」
ジルベールが笑顔でイーサンのことを見ていた。
エレノアにはそんなジルベールがイーサンに対して苛立っているように見えた。
「そ、そう。でも、三人の剣舞なんて」
「私は踊る人をまだ決めていません」
話を進めようとしているマリー先生にエレノアは言う。
マリー先生も、はっとしている。
マリー先生もジルベールのペースに呑まれていたみたいだ。
エレノアは一度も三人で踊るとは言っていない。
ただ、相手を選ぶ必要はあり、エレノアと関係の深い人物の中の二人ではあるが、この状況で二人を選んで良いものかと悩む。
ジルベールが何を考えているか分からないというのに、安直に了承していいものか。
エレノアはリュカを見る。
リュカは首を横に振った。
イーサンの説得に断られてしまった。
こんな雰囲気では、リュカの肩身は狭く、名乗り出てもくれないだろう。
エレノアはため息をついた。
相手を選ぶなら、気の知った気心の知れた相手であるイーサンかイーサンとジルベールの二択だ。
普通ならイーサンを選ぶべきなのだろうが、三人でいいと言われているのに、わざわざ誘う気にもなれない。
どちらを選ぶべきか、この状況でエレノアが結論を出せるはずがなかった。
三人でいいと二人が言っているこの状況で、イーサンを選ぶ勇気は、エレノアにはなかった。
「いえ、私も三人の剣舞でいいです」
そう答えるしかあるまい。
「そう?でも、三人の剣舞なんて型に当てはまるかしら」
剣舞は三学年合同で特待生クラスの全員が参加する。
ダンスホール全体を使って行われる剣舞は、中心を三年生が、その周りを二年生、そのまた周りを一年生が踊る。
そのため、型のある剣舞では、端の一年生が目立つというのは、少しまずい。
先生の疑問も最もだ。
「ジルベールさんは立候補を取り下げるということはできないのかしら」
そのマリー先生の質問で、エレノアもはっとした。
ジルベールが立候補を取り下げれば、このような問題など起きないのだ。
「無理です」
そう簡単に言いのけた。
そして、エレノアのことを見て、にこりと笑った。
何を考えているかは分からないが、とりあえずエレノアはジルベールに笑いかけた。
すると、ジルベールは、そのエレノアの反応に小さく苦笑していた。
「そう。エレノアさんとイーサンさんも三人の剣舞でいいのね?」
マリー先生の確認に二人は「はい」と答えた。
マリー先生は困ったように頬に手を当てた。
「そうねえ。イーサンさんには、魔剣祭でのこともあるし、このぐらい許容範囲かしら」
マリー先生は小さくそうぼやいた。
マリー先生も特別措置で、イーサンの魔剣祭への出場が一度きりになったことに対して、何かしら申し訳なさを感じているようだ。
しばらく考えた末、マリー先生は納得したように頷いた。
「他の先生方にも聞いてみるわ。三人の剣舞は保留として、皆さん、剣舞の型を教えますから、よく見てくださいね」
マリー先生は剣を持って生徒たちに踊り方をレクチャーしていく。
扱いが保留となった、エレノア、イーサン、ジルベールもそのレクチャーを見て型を覚えていった。




