18話 魔物討伐演習⑥ 言葉足らず
緊張感でやっと保っていた意識が、戦闘が終わったことにより、先程まで感じていなかった猛烈な痛みが左足を襲う。
うめき声を出して、左足を抑える。
すると、紫色に腫れた足にイーサンが近づいてくる。
そして、局部に触れて「ヒール」と唱えた。
みるみる足の痛みが引いていくと共に、段々と変色した足が普段通りの色へと戻っていく。
「ありがとう」
イーサンは返事もせず、今度は腹を押さえて痛がっているジルベールの元へと行く。
イーサンはジルベールの服を脱がせると、こん棒に叩かれてその部分が丸く紫色へと変色した腹部に「ヒール」と唱えた。
エレノアの左足のように、痛々しい腹部も治っていく。
あんなに痛がっていたジルベールの顔が和らいでいく。
「ありがとう。イーサン」
「まだ行けそうだな」
「え?」
失礼だと分かりつつもそんな声を漏らしたのは許してほしいぐらいだ。
こんなにも命がけで戦った二人に、そんなことを言うのだから疑問を浮かべても仕方あるまい。
「少し休憩を挟ませてくれ」
「もちろんだ」
ジルベールはやる気だ。
エレノアも負けじとイーサンに言おうとしていた文句を引っ込めた。
三人は少しの休憩を取った。
その間、イーサンはトロールの魔石を取っていた。
イーサンは休憩が終わるとすぐにCランクの魔物を見繕うためにすぐに走り出してしまった。
「Cランクの魔物二匹倒すようにって言われてないよね?」
「イーサンのことだから、言っていなかった、ということだろう。実際、僕も弱っている魔物一匹倒したぐらいじゃ、万全のCランクの魔物を倒せるとも思ってないよ」
「次はさっきより弱ってない魔物だったりして」
「あり得るな」
こんなことで笑い合えるようになるほど、二人の仲は深まっていた。
エレノアとジルベールの予感は当たっていた。
片目を潰してあるオークをイーサンは連れてきた。
エレノアとジルベールはトロール戦よりも苦戦したが、30分の格闘の末、倒し切る事ができた。
オークはトロールより少し小さめだが、トロールより知能があり、少しすばしっこい。
トロールのようにこん棒を持つことはなく、素手で戦う。
大きなパンチや足を使ってエレノアとジルベールに攻撃をしかけてくる。
じりじりと攻撃を続けていき、潰してある右目の背後を取って、最後に心臓に人刺しだ。
トロール戦のような強烈な一撃をもらうことはなかったが、切り傷など些細な傷が今度は目立った。
「今日の予定は終わりだ」
イーサンの言葉に二人は安堵した。
全身の力が抜けていくのを感じる。
動けなくなった二人の代わりにイーサンがオークの魔石を取る。
そして、その魔石をエレノアが持つグループ用の魔石袋に入れた。
エレノアは2つの大きな魔石の重みを感じた。
三人はテントを張り、ご飯を食べるとそのまま眠りについた。
魔物討伐演習三日目。
このサバイバル演習と鬼畜な予定にも慣れてきたエレノアとジルベールは、今日起きる二人でのCランクの魔物討伐を行うことに対しての緊張が湧いてきていた。
そんな二人を気にすることのないイーサンを見ることで、逆に二人はその緊張感が和らいでいるのを感じていた。
「まず、前にも言っていた通り、サポートはしない。命の危機に瀕したと判断した時のみ、助けに入る」
イーサンの注意にエレノアとジルベールは頷いた。
「俺は魔物が気付かない範囲に待機する。二人は俺のことは気にせず、魔物の討伐だけに気を割いてくれればいい」
「了解」
「ああ」
「じゃあ、行くか」
「行く前にみんなで喝入れない?」
エレノアの発言に緊張感が走っていたグループ内に笑顔が咲いた。
エレノアが両手でグーを出すと二人もグーを出した。
三人で囲む形でグータッチをする。
「Cランクの魔物倒すぞ!」
「ああ」
「イーサンは倒さないけどな」
「俺はもう倒したぞ」
イーサンのいきなりの告白に、エレノアとジルベールはふっと笑ってしまう。
イーサンはそんな二人を見て居心地悪そうに口を曲げていた。
こんな時でも息の合わない三人のこの空間にエレノアは居心地の良さを感じていた。
「行くぞ」
「うん」
「ああ」
三人はCランクの住まう森の奥深くへと足を踏み入れた。




