16話 魔物討伐演習④ 盗み聞き
「ごめん。私のせいで」
エレノアは、この状況の責任は自らにあると思っていた。
「俺とジルベールの問題だ。エレノアが気を揉むことはない」
突き放すようにそう言い切り、イーサンはテントへと戻っていこうと立とうとした。
エレノアはその時、イーサンの服の裾を掴んだ。
イーサンは顔をしかめることはなく、離せとも言わなかった。
そして、何も言わずに座り直した。
「私がいらないことを言ったのは事実だと思う」
イーサンは否定せず、隣で聞いているだけだけだった。
エレノアの隠していた本心をイーサンだけが救ってくれる。
その思いで行動していたが、結局いい方向に向かったとは言えなかった。
むしろ、イーサンとジルベールの仲はよくない方向に向かっていったかもしれない。
心の中が絡み合ってどうしたらいいのかも分からないこの思いをイーサンにぶつけたかった。
目頭が熱くなっていく。今ここで泣くべきではないと必死にこらえて話を続ける。
「私ね、イーサンがずっとサンドリーヌ様が好きでそのために命を放り出してまで、最後までサンドリーヌ様のために死んでいったんだと思っていたの。だけど、なんか不安になっていたみたい。みんなにイーサンがサンドリーヌ様のこと嫌っているって言われて。そうじゃないって心の中で納得できていなかった。今回の魔物討伐はジルベール殿下にも手伝ってもらって、その話を聞くために組もうって話になったの」
笑顔を絶やさずにエレノアは、イーサンに包み隠さず自らの本音を零していく。
エレノアは深呼吸をした。
「だからね、これ以上は聞かないよ。イーサンのこと分からないままでいいって思ったから。不純な動機だけど魔物討伐は最後までやるから!安心して」
「ああ」
淡々と返事をするイーサンに逆に安心すらした。
すると、がさがさとテントの方から音がしてきた。
エレノアがテントの方へと目をやると、テントの前で立っているジルベールの姿あった。
ジルベールが寝ていると思って、話していたエレノアの表情が青白くなっていく。
「いや、ジルベール殿下。これはなんというか、そう。演技で」
苦し紛れな言い訳を連ねていくエレノアのことをジルベールはちらりと見もしなかった。
ジルベールはまっすぐイーサンの方へと向かっていった。
「僕も謝るよ。叩いてすまない」
ジルベールは90度に腰を曲げて、イーサンに謝った。
ジルベールはイーサンから返事をもらうまで頭を上げるつもりはないようだ。
イーサンは怒っているのだろうかと返事のないイーサンをエレノアはちらりと見た。
表情は暗くてあまり見えないが、怒っているようには見えなかった。
「俺の方こそ」
イーサンが一言そう零すと、ジルベールがやっと顔を上げた。
仲直りが成功した二人に安堵しつつ、エレノアは二人の仲が少し深まった気がした。
「それで、イーサンが姉君のために死んだだって?」
やっとその話題に触れてきたジルベールに、エレノアは後ずさりをした。
先ほどのエレノアの発言を忘れていなかったジルベールからエレノアは顔を逸らした。
「いや、これは」
エレノアは目を泳がせた。
「エレノアはどうやら予言まがいのことができるらしい。これは俺の未来の話だ。信憑性はないに等しいかもしれないけどな」
言い渋っていたエレノアに対して、イーサンは二人の秘密だったはずのその未来を簡単にジルベールに話してしまった。
涙目で不敬で死ぬと覚悟したエレノアに対し、イーサンの時のようなジルベールの平手打ちはエレノアに飛んでこなかった。
「面白い予言だね」
嫌な笑みを浮かべたジルベールにエレノアは空を仰ぎたくなった。
イーサンがすべて吐き出してしまったこの状況では、嘘はもう無理だろう。
エレノアは笑うしかなかった。
そして、その笑顔を見たからにはすべて告白するしかなかった。
これは、エレノアが読んでいた小説の中ということ。
イーサンがジルベールの策略によって、パトリシア、セザール、リュカをスパイとして、おびき出されたイーサンはジルベールによって聖剣で殺されてしまったということだ。
「あり得ないと言い難いのが僕の結論だね。むしろこれを書いた小説家というのが僕は気になる。まるで、僕らの未来が固定されているようで嫌だなぁ」
イーサンと同じく、ジルベールの答えも同様だった。
その未来はあり得るとどちらも予想している。
「君の隠していたというのはこの事かい?」
「ええ、そうです」
もう逃げ切れないと判断してエレノアは素直に答えた。
「どうりで僕とイーサンの仲を取り持とうとするわけだよ。イーサンと僕が仲良くならないとまた殺すかもだからね」
ジルベールは顎に手を当てて、淡々と分析している。
「それで聞く。イーサンがこの未来を変えたいと言うのなら、僕は手を貸そう」
ジルベールはイーサンの方へと手を出した。
この手をイーサンが取れば、二人は協力関係になるということ。
イーサンが手を取らなければ、ジルベールがイーサンに手を貸すことはない。
「俺は‥‥分からない」
イーサンの答えはイエスノーではなかった。
曖昧な答え。
だが、エレノアとジルベールには自らの考えを持たないイーサンのほんの少しの成長に思えた。
「まあ、いいさ。時間はまだある。手を取りたくなったらいつでも取るといいよ」
ジルベールはふっと笑って答えた。
「ああ」
イーサンの返事を聞いてジルベールは立ち上がった。
「もう夜も更けた。明日のためにも今日はもう寝ようか」
三人はテントへと各々入って眠りについた。




