14話 魔物討伐演習② イーサンの狙い
魔物の住まう森へと足を踏み入れた三人がしたことは魔物の探知である。
人の歩く速度で魔物を探すというのは途方もない作業である。
そんな時に役立つのが探知魔法であった。
「一番魔力の多い私が探知魔法を使います」
エレノアが二人へと目を向ける。
「ああ」
「了解」
その返事を聞いてエレノアは無防備になった体をイーサンとジルベールに守護してもらうのを確認すると、探知魔法を展開した。
50メートル毎に円上に広がっていく探知魔法で感知した魔物の情報をイーサンとジルベールに伝達する。
「50メートル北東から魔物接近。こちらへと向かってきています」
早速魔物がこちらへと気づいて向かっていることをエレノアは二人へと報告した。
「探知魔法はそのまま続けろ。魔物は俺達だけで倒す」
魔物を倒すためにも一旦探知魔法を中止しようとしたエレノアを静止するようにイーサンが言った。
俺達と言ったことに対して臨戦態勢を取ったジルベールが近づいてくる魔物を倒すため、イーサンの補佐をする。
「魔物は三匹、一匹が先頭で、その左右に二匹が付き添う形で向かっています」
「了解」
イーサンとジルベールはエレノアの守護をする陣形のまま先頭と右のホーンラビットをイーサンが。
左のホーンラビットをジルベールが倒した。
「そのまま、探知魔法。近づいてくる魔物がいれば、その都度報告してくれ」
「分かりました」
まるで指揮官のようにイーサンが指示を出す。
エレノアはその指示に従い、近づいてくる魔物がいないことを確認して、探知魔法を使っていく。
「200メートル地点で発見。戦闘状態と見られます」
「七組もいるからね。しょうがないね」
戦闘をしている魔物の横取りはご法度だ。
そのため、探知魔法で戦闘をしている魔物と戦っているとみられる反応は無視することが多い。
「500メートル地点。北西で魔物の群れ発見。五匹ほどが固まっています」
「いいね。そこに行こう」
「分かった」
三人の統率が取れてきたことに、安堵していたエレノアはイーサンを先頭にして、たまに魔物が動いていないかも確認の末そのまま北西へと向かっていく。
魔物の群れは、ゴブリンだった。
こん棒を持ったゴブリンが歩いている。
「俺が前へと切り込む。二人はその補佐を」
「了解」
「了解」
イーサンが前へと切り込み、一瞬にして二匹を倒してしまう。
動揺したゴブリンはそのまま逃げようとしたところをエレノアとジルベールが一匹ずつ時間がかかりつつも倒していく。
その間、イーサンはもう一匹のゴブリンを真っ二つにしてしまっていた。
初めて魔物を殺した感情は、肉を斬る感覚が剣を通して直に伝わってくるのが少しの不快感を抱く程度だった。
「魔石を回収する。仕方は分かるか?」
「一応やり方は資料では分かっていますが」
「エレノア嬢、どうせならイーサンにお手本を見せてもらおうよ。」
イーサンは何も言わず、魔物の心臓とも言える魔石を小型ナイフで取っていく。
あまりにグロいその光景に吐き気を催しそうだ。
だが、綺麗に切断された局部を見て、エレノアは実践のため、イーサンのやった通りに魔石を取り出していく。
綺麗に切断したとは言えないが、取り出した魔石を配られた布袋へと入れていく。
この布袋は自らが倒した魔物の魔石を入れるために配布されたものだ。
三人で倒したのであれば、リーダーの持つグループの魔石袋へと魔石は入れられる。
「リーダー、この後はどうする?」
イーサンのいきなりの声がけに、エレノアはびくりと肩を震わせた。
先生の言っていた低ランクの魔物討伐は終わった。
だからこその提案だ。
このまま低ランクの魔物討伐をするか。
それとも、Cランクの魔物討伐のために動くか。
イーサンはそう聞いているのだ。
リーダーになったエレノアに迫られる決断に、エレノアは冷や汗をかいていた。
魔物討伐演習ではCランクの魔物討伐の達成と共に、早期帰還が許されている。
つまり、今日このまま魔物討伐をなし得てしまえば、折角用意した二人きりで話す場が取れなくなってしまう。
私情を挟むことはだめだと理解している。
だが、このままではイーサンの力だけでCランクの魔物討伐がなされたと言っても過言ではない。
それほどの力を彼は有しているし、今のイーサンであれば、Cランクの魔物など倒せてしまうのだろう。
それほどの力量差が二人とイーサンの間にはあると確信している。
イーサンは先程あの一瞬で、ゴブリン五匹を全滅させることなど出来たとしばらく共に過ごしてきたエレノアなら理解できた。
なのに、なぜエレノアたちに補佐など頼んだのか。
エレノアたちに活躍の場を与えるため?
そんなことイーサンがするだろうか。
イーサンはこの魔物討伐演習などが無意味なほど自分の能力を理解している。
それなら、エレノアたちはお荷物でしかない。
なら、なぜ自分たちに補佐など頼んだのか。
魔石の取り方を手取り足取り教えてくれたのか。
まるで、それは教師が生徒に教えるようなものだった。
つまり、それが意味することは、一つ。
イーサンはエレノアとジルベールをこの魔物討伐演習で育てようとしている。
二人でCランクの魔物を討伐するために。
「イーサン様、一つ聞きたいことがあります」
エレノアは自らの想像を事実なのか確かめるためにイーサンに聞くつもりだった。
「なんだ?」
イーサンは表情が変わらないままエレノアの方へと目をやった。
エレノアは深呼吸をした。
「イーサン様は、私とジルベール殿下だけでCランクの魔物討伐をさせるつもりですか?」
エレノアの言葉に一番衝撃を受けていたのはジルベールだった。
イーサンは驚くこともなく、ただエレノアをじっと見つめていた。
それこそが、エレノアの想像が事実なのだと決めつけていた。
「ああ、そうだ」
その言葉に衝撃を受けたのはジルベールだけでなかった。
エレノアも「嘘だと言ってくれと」と言いたくなった。




