挽歌
古来より、【言葉】には【魂】が宿っていると信じられてきた。
古代日本人は、【魂】の宿った【言葉】を歌として残した。
特に日本最古の和歌集である〖万葉集〗の全ては、人々の【魂】が宿った歌である。
〖万葉集〗は、三つに分類される。
〘挽歌〙〘相聞歌〙〘雑歌〙である。
〘挽歌〙は、『死』を悼む歌。
〘相聞歌〙は、『情』を表現した歌。
〘雑歌〙は、〘挽歌〙〘相聞歌〙以外の歌。
これから、古の人々の【魂】を詠った歌を僅かではあるが伝えたいと思う。
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〘挽歌〙
『挽』とは、「棺を引く」という意味である。
中国では、棺を載せて引く車のことを挽車と言った。
葬列の際、挽車を引きながら『挽歌』という歌を歌った。
中国の『挽歌』は、『亡くなった人をあの世へ送るための歌』であった。
飛鳥時代(593年~710年)、中国から日本に『挽歌』が伝わった。
しかし日本では、『挽歌』は『亡くなった人をあの世へ送るための歌』ではなく、『亡くなった人を悼む歌』となった。
日本の〘挽歌〙は、亡くなった人を偲び、亡くなった人の【魂】に呼びかける歌である。
『磐白乃 濱松之枝乎
引結 真幸有者 亦還見武』
有間皇子
岩代にある浜松の枝を結んで、その枝にわたしの魂を結び付けよう。
もし無事に還って来ることができたなら、またここに来て浜松を見よう。
『磐代乃 崖之松枝
将結 人者反而 復将見鴨』
長意吉麻呂
岩代の岸にある松の枝を結んだという人は、無事に還って再び松を見ることができたのであろうか。
『鳥翔成 有我欲比管
見良目杼母 人社不知 松者知良武』
山上臣憶良
皇子の魂は天空を翔け通いつつ、自身が結んだ松の枝を見ているのであろうか。
それを人は知らない。
しかし、松は知っている。
『天原 振放見者
大王乃 御壽者長久 天足有』
倭大后
広々とした大空を仰ぎ見ると、大君の御命は長く、天空に満ち足りていらっしゃると思う。
『青旗乃 木旗能上乎
賀欲布跡羽 目尒者雖視 直尒不相香裳』
倭大后
あの方の魂が、青々とした樹々が茂る木幡山辺りを行き来しているのは目に見えるのに、直接お逢いすることができないなんて。
『人者縦 念息登母
玉縵 影尓所見乍 不所忘鴨』
倭大后
人はいつか、亡くなったあの人のことを忘れてしまうかもしれない。
しかし、わたしは、あの人の面影をどうしても忘れることができないのです。
『如是有乃 豫知勢婆
大御船 泊之登萬里人 標結麻思乎』
額田王
このようなことになると分かっていたのなら、あの世へ向かおうとする天皇の御船が泊まる港に標縄を結んで、船が出発できないようにしておいたのに。
『八隅知之 和期大王之
恐也 御陵奉仕流
山科乃 鏡山尓
夜者毛 夜之盡
晝者母 日之盡
哭耳呼 泣乍在而哉
百磯城乃 大宮人者 去別南』
額田王
畏れ多いことです。
御陵としてある山科の鏡の山には、あまねく國土を治められた我が大君が眠られている。
宮中の役人達は、夜は一晩中、昼は一日中、声をあげて泣き続けていたのに、今はもう去って行ってしまう。
『神風乃 伊勢能國尓母
有益乎 奈何可来計武 君毛不有尒』
大来皇女
神風の吹く伊勢の國にでもいれば良かった。
どうして都に戻って来てしまったのであろう。
あなたはもう、この世にはいないのに。
『欲見 吾為君毛
不有尓 奈何可来計武 馬疲尒』
大来皇女
会いたいと思うあなたはもう、ここにはいないのに。
何のために、ここに来たのであろう。
ただ馬が疲れるだけなのに。
『天地之 初時
久堅之 天河原尓
八百萬 千萬神之
神集 々座而
神分 々之時尓
天照 日女之命[一云 指上 日女之命]
天乎婆 所知食登
葦原乃 水穂之國乎
天地之 依相之極
所知行 神之命等
天雲之 八重掻別而[一云 天雲之 八重雲別而]
神下 座奉之
高照 日之皇子波
飛鳥之 浄之宮尓
神随 太布座而
天皇之 敷座國等
天原 石門乎開
神上 々座奴[一云 神登 座尓之可婆]
吾王 皇子之命乃
天下 所知食世者
春花之 貴在等
望月乃 満波之計武跡
天下[一云 食國] 四方之人乃
大船之 思憑而
天水 仰而待尓
何方尓 御念食可
由縁母無 真弓乃岡尓
宮柱 太布座
御在香乎 高知座而
明言尓 御言不御問
日月之 數多成塗
其故 皇子之宮人 行方不知毛
[一云 刺竹之 皇子宮人 歸邊不知尓為]』
柿本人麻呂
天と地が初めて開かれた時、彼方にある天の河原に八百万一千万という多くの神々がお集りになり、それぞれの神が統治される國を分けられた。
天照大神〔空へさし昇る日女の神〕は、天をご統治なさることとなった。
そして葦原の瑞穂の國を天と地が接する極みまでご統治なさる神として、八重に重なる天雲をかき分けて〔天雲の八重雲を分けて〕、光り輝く日の御子が地上に降り立たれた。
神々が遣わされたは御子は天皇として、飛鳥の浄御原の宮にて瑞穂の國をご統治なされた。
そして、瑞穂の國は代々天皇がご統治なさる國として、日の御子は天の石門を開いて神として天上にお昇りになられた〔神としてお昇りになられた〕。
その後、我が大君である皇子の命が瑞穂の國をご統治なされば、春の花のように貴いことであろう、満月のように満ち足りるであろうと、天の下〔國中〕に住む人々は、まるで大船に乗ったかのように希望をもって、天の恵みの雨を待つように心待ちにしていた。
しかし、何を思われたのか、縁も所縁もない真弓の丘に柱をお建てになって殯宮をお築きになられた。
朝、皇子からお言葉を賜ることも無くなってしまった。
そのため、皇子の宮にお仕えした人々は、途方に暮れている〔皇子の宮の人々は、途方に暮れている〕。
なぜ、こんなにも早くお隠れになったのですか。
『久堅乃 天見如久
仰見之 皇子乃御門之 荒巻惜毛』
柿本人麻呂
遥かなる天を見るが如く仰ぎ見ていた皇子の御殿が、朽ちてしまう。
見ているだけで、わたしは何もできない。
心が苦しい。
『高光 吾日皇子乃
伊座世者 嶋御門者 不荒有益乎』
舎人
高く光り輝く日の皇子がいらっしゃれば、島の御殿もこれほど荒れることはなかったであろうに。
惜しまれてやまない。
『外尓見之 檀乃岡毛
君座者 常都御門跡 侍宿為鴨』
舎人
関わりのないものと思っていた真弓の丘も、君がおられるというのであれば、永遠に身も心もお仕えいたしましょう。
『吾御門 千代常登婆尓
将榮等 念而有之 吾志悲毛』
皇子尊宮舎人
我が天皇の御殿は、千年の後まで栄えるであろうと思っていた。
そう信じていた我が身が哀しい。
『毛許呂裳遠 春冬片設而
幸之 宇陀乃大野者 所念武鴨』
舎人
狩りの季節を楽しみに待たれ、狩りにお出かけになった宇陀の大野のことは、いつまでも忘れることはないであろう。
『朝日照 佐太乃岡邊尓
鳴鳥之 夜鳴變布 此年己呂乎』
皇子尊宮舎人
朝日の照る佐田の岡辺で鳴く夜の鳥のように、わたしも、この一年は泣き続けた。
『多篭良我 夜晝登不云
行路乎 吾者皆悉 宮道叙為』
皇子尊宮舎人
皇子のために墓を作る者達が夜も昼も行き来する道を、わたしたちは知らぬ間に宮仕えの道にしている。
『挂文 忌之伎鴨[一云 由遊志計礼抒母]
言久母 綾尓畏伎
明日香乃 真神之原尓
久堅能 天都御門乎
懼母 定賜而
神佐扶跡 磐隠座
八隅知之 吾大王乃
所聞見為 背友乃國之
真木立 不破山越而
狛劔 和射見我原乃
行宮尓 安母理座而
天下 治賜[一云 掃賜而]
食國乎 定賜等
鶏之鳴 吾妻乃國之
御軍士乎 喚賜而
千磐破 人乎和為跡
不奉仕 國乎治跡[一云 掃部等]
皇子随 任賜者
大御身尓 大刀取帶之
大御手尓 弓取持之
御軍士乎 安騰毛比賜
齊流 鼓之音者
雷之 聲登聞麻■
吹響流 小角乃音母[一云 笛之音波]
敵見有 虎可■吼登
諸人之 恊流麻■尓[一云 聞惑麻■]
指擧有 幡之靡者
冬木成 春去来者
野毎 著而有火之[一云 冬木成 春野焼火乃]
風之共 靡如久
取持流 弓波受乃驟
三雪落 冬乃林尓[一云 由布乃林]
飃可毛 伊巻渡等
念麻■ 聞之恐久[一云 諸人 見惑麻■尓]
引放箭 之繁計久
大雪乃 乱而来礼[一云 霰成 曽知余里久礼婆]
不奉仕 立向之毛
露霜之 消者消倍久
去鳥乃 相競端尓
[一云 朝霜之 消者消言尓 打蝉等 安良蘇布波之尓]
渡會乃 齊宮従
神風尓 伊吹惑之
天雲乎 日之目毛不令見
常闇尓 覆賜而
定之 水穂之國乎
神随 太敷座而
八隅知之 吾大王之
天下 申賜者
萬代尓 然之毛将有登[一云 如是毛安良無等]
木綿花乃 榮時尓
吾大王 皇子之御門乎[一云 刺竹 皇子御門乎]
神宮尓 装束奉而
遣使 御門之人毛
白妙乃 麻衣著
埴安乃 門之原尓
赤根刺 日之盡
鹿自物 伊波比伏管
烏玉能 暮尓至者
大殿乎 振放見乍
鶉成 伊波比廻
雖侍候 佐母良比不得者
春鳥之 佐麻欲比奴礼者
嘆毛 未過尓
憶毛 未不盡者
言左敝久 百濟之原従
神葬 々伊座而
朝毛吉 木上宮乎
常宮等 高之奉而
神随 安定座奴
雖然 吾大王之
萬代跡 所念食而
作良志之 香来山之宮
萬代尓 過牟登念哉
天之如 振放見乍
玉手次 懸而将偲 恐有騰文』
柿本人麻呂
畏れ多いことではありますが〔憚り多いことではありますが〕。
言葉で申し上げることも、まことに畏れ多いことです。
明日香の真神の原に荘厳な宮をお定めになられ、今や神として岩戸にお隠れになられた大君。
國をご統治なされた我が大君がお治めになる北の方、真木が生い茂る美濃の國の不破山を越えて、和射見が原の行宮に神々しくもお出ましになり、天下をお治めになられて〔掃い浄められて〕、國を平定なさろうと、鶏の鳴く東の國の軍勢をお召しになり、荒々しい人々を鎮めよ、服従しない國は統治せよと〔掃い浄めよと〕皇子に委ねられた。
大君がご任命されたので、大君の代わりに皇子は太刀を佩かれ、御手に弓をお持ちになり、軍勢をご統率なされた。
叱咤激励する鼓の音は雷鳴の如く、吹き鳴らす角笛の音も〔笛の音も〕敵を見た虎が吼えているのかと人々が怯るほどである〔聞き惑うほどである〕。
兵士が捧げ持つ旗が靡くさまは、まるで冬が終わって春になると野に立つ野火が〔冬が終わって春の野を焼く火が〕風と共に広がるようである。
兵士が持つ弓の弭が靡くさまは、まるで雪が降る冬の林に〔真っ白な木綿の林に〕旋毛風が吹き荒れるようで恐ろしい〔人々は見て惑うほどに〕。
兵士が放つ矢は激しく、まるで大雪が乱れるように飛んで来ると〔霰のように来ると〕、従わずに立ち向かって来た者どもは露や霜のように消えるのなら消えてしまおうと、我先にと立ち向かって来た〔朝霜が直ぐに消えるように、命懸けで立ち向かって来た〕。
その時、渡会の神の宮から吹く神風によって敵軍を吹き惑わせ、呼び寄せられた天雲は太陽の光を遮って地上を真っ暗に覆い隠した。
このようにして瑞穂の國を平定され、これから國をご統治なさろうと我が皇子が奏上されたので、万の年の後まで大君の世は続くであろうと〔このようであろうと〕思われた。
真っ白な木綿の花のように栄えている時であったのに、まさか我が皇子の御殿を〔刺し出る竹のような皇子の御殿を〕御霊殿としてお飾り申すことになろうとは。
皇子にお仕えしていた御殿の人々も白い麻の喪服を着て、埴安の御殿の広場に昼は一日中鹿のように腹這いになって伏し続けた。
そして夕方になると、遠くから御殿を見ながら鶉のように這いまわってはお仕えする。
しかし、いつまでもお仕えすることはできない。
春鳥が鳴くように嘆いているのに、未だにお慕いする心は失っていないのに、百済の原を通って皇子を神として葬り申し上げねばならず、城上の宮を殯宮として高々とお造り申し上げ、皇子は神のままお鎮まりなさった。
けれど、我が皇子が万の年の後までもとお考えになって建てられた香具山の宮は、いつまでも無くなることなどないであろう。
天を仰ぎ見るように、皇子をお慕い続けよう。
畏れ多いことではありますが。
『久堅之 天所知流
君故尓 日月毛不知 戀渡鴨』
柿本人麻呂
あなた様は、天を統べる方になられてしまいました。
あれから、どれだけの月日が流れたのでしょうか。
どれほど時を経ても、わたしはただ、お慕い続けるだけです。
『去年見而之 秋乃月夜者
雖照 相見之妹者 弥年放』
柿本人麻呂
去年見た秋の月が今年も変わらず輝いているのに、共に見た妻は今、隣にいない。
年月は、少しずつ遠ざかっていく。
『妻毛有者 採而多宜麻之
佐美乃山 野上乃宇波疑 過去計良受也』
柿本人麻呂
せめて、ここに愛しい妻がいれば、一緒に摘んで食べることもできたのに。
佐美の山の野に生える嫁菜を食べさせたかった。
もう、嫁菜の季節は過ぎてしまった。
『妹之名者 千代尓将流
姫嶋之 子松之末尓 蘿生萬代尓』
河辺宮人
愛おしいあの方の名は、千代万代に末永く語り継がれることであろう。
あの方の名に相応しい姫島の小松が、大きくなって梢に苔むすまでに。
『石上 振乃山有
杉村乃 思過倍吉 君尓有名國』
丹生王
石上の布留山にある杉林のように、あの方を忘れ過ぎることなどできはしない。
『隠口能 泊瀬山之
山際尓 伊佐夜歴雲者 妹鴨有牟』
柿本人麻呂
泊瀬の山の間をいざよう雲は、亡き妻の魂であろうか。
わたしとの別れを惜しんでいるように、離れようとしない。
『山際従 出雲兒等者
霧有哉 吉野山 嶺霏霺』
柿本人麻呂
山の間から立ち上る霧。
あの霧は、亡くなった出雲の娘子を焼いた煙なのであろうか。
彼女の魂が、吉野の山の嶺に霧となってたなびいている。
『八雲刺 出雲子等
黒髪者 吉野川 奥名豆颯』
柿本人麻呂
雲が幾重にも重なる出雲の娘子の黒髪が、吉野の川に漂っている。
『加座皤夜能 美保乃浦廻之
白管仕 見十方不怜 無人念者
[或云 見者悲霜 無人思丹]』
河辺宮人
風の激しい美穂の浦に咲く白い躑躅を見ると、寂しさがこみ上げてくる。
この世にいないあの方を思い出してしまうから。
『世間者 空物跡
将有登曽 此照月者 満闕為家流』
よみ人しらず
世の中は、空しい。
そう語るように、月は満ちたり欠けたりしている。
『吾妹子之 見師鞆浦之
天木香樹者 常世有跡 見之人曽奈吉』
大伴旅人
嘗て妻と共に見た鞆の浦のむろの木は常世にあるのに、妻は今、ここにはいない。
『白細之 袖指可倍弖
靡寐 吾黒髪乃
真白髪尓 成極
新世尓 共将有跡
玉緒乃 不絶射妹跡
結而石 事者不果
思有之 心者不遂
白妙之 手本矣別
丹杵火尓之 家従裳出而
緑兒乃 哭乎毛置而
朝霧 髣髴為乍
山代乃 相樂山乃
山際 徃過奴礼婆
将云為便 将為便不知
吾妹子跡 左宿之妻屋尓
朝庭 出立偲
夕尓波 入居嘆會
腋挾 兒乃泣毎
雄自毛能 負見抱見
朝鳥之 啼耳哭管
雖戀 効矣無跡
辞不問 物尓波在跡
吾妹子之 入尓之山乎 因鹿跡叙念』
高橋朝臣
「白妙の袖を交わし、寄り添って寝たこの黒髪が真っ白になるまで、二人は新しい氣持ちで共に生きよう、二人の仲は絶えることはない、妻よ」と誓った。
そう誓ったのに、わたしはそれを果たすことができなかった。
妻はわたしの腕を解いて、親しみのあった家を出て、泣く幼な子をも置いて、朝霧のように姿は薄れながら、山背の相楽山の山あいに姿を消してしまったので、わたしは何といえば良いのかわからなく、ただ、妻と共に寝た妻屋で、朝は外に出て妻を偲び、夕方は中に入って座り嘆き、脇に抱える幼子が泣くたびに、男らしくもなく背負ったり抱いたりしながら、朝鳴く鳥のように妻を恋い慕いながら泣く。
しかし、何をしても何も変わることはない。
物を言わぬ山ではあるが、妻がいる山を寄る辺として、亡くなった妻のことを思うしかない。
『父母賀 成乃任尓
箸向 弟乃命者
朝露乃 銷易杵壽
神之共 荒競不勝而
葦原乃 水穂之國尓
家無哉 又還不来
遠津國 黄泉乃界丹
蔓都多乃 各々向々
天雲乃 別石徃者
闇夜成 思迷匍匐
所射十六乃 意矣痛
葦垣之 思乱而
春鳥能 啼耳鳴乍
味澤相 宵晝不知
蜻蜒火之 心所燎管
悲悽別焉』
田辺福麻呂
父母が順序の通り生んでくださり、二本の箸のようにわたしと並んで育った弟は、朝露のように儚い命であったのか。
神の思し召しに抗うことができず、葦原の瑞穂の國に帰って来る家がないと思っているのか。
遠い黄泉の國に一人で行ってしまったので、わたしの心は闇夜のように思い惑い、矢に射られた鹿のように心が痛み、葦垣のように思い乱れ、春の鳥のように声をあげて泣き続ける。
夜も昼も分からず、陽炎のように心を燃やしながら別れを嘆くだけである。
〘挽歌〙は、亡くなった人への【悲しみ】を詠った歌である。
しかし、それだけではない。
『亡くなった人を送るため』
『亡くなった人の安らぎを願うため』
『亡くなった人への募る恋しさに耐えるため』
『亡くなった人へ愛しさを届けるため』
『亡くなった人と繋がるため』
『亡くなった人を繋ぎとめるため』
『亡くなった人との絆を確かめるため』
『亡くなった人を忘れないため』
『亡くなった人の記憶を残すため』
『亡くなった人との思い出を振り返るため』
『亡くなった人へ呼びかけるため』
『亡くなった人との関わりを求めるため』
『亡くなった人の蘇りを望むため』
『亡くなった人との再会を願うため』
『亡くなった人と共に生きていることを告げるため』
『亡くなった人を生かし続けるため』
『命の儚さを嘆くため』
『孤独を埋めるため』
『亡くなった人の【魂】を呼び戻すため』
『亡くなった人の【魂】と結ばれるため』
『亡くなった人へ【心】を伝えるため』
『亡くなった人の【心】を受け継ぐため』
仏教伝来以前の古代日本人は、【死】とは【魂】が肉体から離れ、その【魂】が山や川、海などの自然へ還ることだと考えていた。
そのため、〘挽歌〙は自然へ呼びかける歌が多い。
自然を通して、亡くなった人と【繋がり】続けようとした。
【死】は、恐ろしい。
しかし、【死】を受け入れる。
たとえ【死】しても、【魂】が離れることはない。
大切な人との【心】の【繋がり】は、決して絶たれることはない。
人は亡くなれば、もう二度と戻ってこない。
肉体は滅び、共に悲しむことも、共に怒ることも、共に喜ぶことも、共に笑うこともできなくなる。
しかし、たとえ亡くなった人の肉体は滅びても、亡くなった人の【魂】と【心】はこの世に留まり続ける。
亡くなった人の【魂】を消さない。
亡くなった人の【魂】を継ぐ。
亡くなった人の【心】を忘れない。
亡くなった人の【心】を受け継ぐ。
【魂】から生まれた【心】を呼び覚ます〘挽歌〙は、亡くなった人の【魂】を【今】と【未来】に【結び】、【心】を【今】と【未来】へ【繋げる】ための歌である。




