ばけばけ☆アイノス しゃーしーえー
割と挿し絵祭りかもしれません(笑)
──ちゃぽん。
「ふぅ……」
柄にもなく、艶のある溜め息が出ます。
どうにも……警戒心が麻痺してしまいます。
体の傷が恐らく全て消え、
贅沢にも、湯に浸かっているからでしょうか。
私たちのような、
犯罪紛いの稼ぎ方をするクランが、
このような豪華な湯浴みをする事など……、
まず……夢物語のようなことです。
どの宿屋も……私たちなど泊めはしない。
私たちの鎧は、悪目立ちが過ぎます……。
いつもは野外で見張りを立て、
身体を拭く程度。
ですが、今は。
6人同時に、ちゃんと湯に浸かる。
……本当に久しぶりの事です。
「……──」
──ちゃぽん。
私がヘマをして左目を失ったのは、
もう、五年前になります。
傷の無くなった、手のひらを見て。
「両目とは……こういう、感じだったわね……」
──たぽぽぽ……。
湯をすくう両手は、先ほどまでと、
まったく違うように見えました。
……不思議な感覚。
なので。
隣の客人にも、
冷静に対処できたと思います。
『 ニョロリン 』
「……」
もちろん他の5人も、すぐに気づきます。
私は──" 待て "の合図をしました。
よもや……、一緒に湯に浸かってこようとは……。
『 ニョロニョロ。ニョロニョロニョロ── 』
耳袋つきの緑の帽子を被ったゴーストが、
湯に浸かりながら、
いっしょう懸命、何かを描いています……。
ううむ……間違いなく、
コイツが、"おえかきゴースト"でしょう……。
メーチとケーファが特に慌てていますが、
攻撃の意思は無いようです。
今は鎧が無いのですよ……。
ほら……早く湯に戻りなさい。
『 ニョロニョロ〜〜♪ 』
しかし……。
"おえかきゴースト"とは、
よく言ったものね……。
不気味で不衛生な魔物を想像していたのですが、
現れたのは、茹で卵のようなプルプル肌の、
子供向けの絵本に出てくる、
実に絵に描いたような"お化けさん"です。
それは、マイ・スケッチブックですか……?
どうやら絵を嗜むようですね……。
──バチャバチャバチャ──!!!
『 がががるるるんんん──っ!!! 』
『 ニョ、ニョロリィィィ──……!?!? 』
──バチャバチャバチャバチャチャ──!!!
"ガルン"と呼ばれていた小さな魔物が、
湯面を浮くように泳いできました。
怒っているようです。
ゴーストに、しっちゃかめっちゃか、
お湯をかけ始めました。
ゴーストは濡れないように、必死に、
スケッチブックを庇っています。
まぁ、死んではいるでしょうが。
……。私たちは、
スリやら盗みのプロだと思ってくれて構いません。
興味もあります。
私は、ゴーストのスケッチブックを、
音もなく、スり取りました。
──── ─ ─ すっ 。
『 ──ニョ、ニョロ……っっ!? 』
「……ハルコ、今です」
──── ゴ ッ ・・・!!
『 ロォ、ブッ── ─ ─ 』
──ドォオオオンン・・・!!
ハルコのヒザは、
綺麗にゴーストに決まりました。
まさか、本当にケリが有効だとは……。
普通なら、白魔法が必須です。
蹴ったハルコ本人も複雑な表情で、
大浴場の柱にめり込んだゴーストを見ています。
ぺったんこですね。
『 がるがるぅ──♪♪♪ 』
どれ……奪い取った、
幽霊のスケッチブックを見てみましょうか。
こ、これは──……。
み、見事なラフ・スケッチですね……。
皆も、後ろから覗いてきて、
様々な感想を漏らしています。
……。
私たち全員の絵とは、また稀有なお宝ですこと。
一応、いただいておきましょうか。
──。
晩餐は、本当に用意されていました。
しかし、何やら緊急事態が発生したとの事で、
クルルカンとオクセンフェルトの少女は、
すぐに退室します。
……。
私たち……暗殺職クランとは、
ようするに……盗賊クランの中でも、
一番厄介な存在だと……認識されるべきです。
誰もいない豪邸の食堂に、
放置する感覚が、わかりませんね……。
メニューは、
野菜とお肉のポタージュのようでした。
この、潰れた小さな実は、なんでしょうか……。
食器が銀でした。……。
だから、盗賊クラン系列のトップなんですが……。
あきれます……。
盗んだら、後が怖いですね。
毒味は……今日は、良しとしましょう。
潰れた実は、トマトでした。
泣きそうなくらい美味しいポタージュでした。
──。
宛てがわれた寝室は、
貴族の屋敷としては……確かに小さいのでしょう。
昔、クズ貴族の根城に盗みに入った時、
これより大きい部屋を荒らし回ったものです。
ですが……個室でコレとなると、
もちろん私たちには……豪華過ぎます。
だから……私たち、ほぼ盗賊なんですけど……。
個室とか、普段なら盗み放題ですよ……?
家主の神経が、まるで……わかりません。
盗まれるのが……怖くないのでしょうか。
まぁ……"義賊クルルカン"といえば、
一番有名な盗賊の王様みたいなものですが。
ふむ……。
落ち着かないので、
夜の屋敷を探索する事としましょう。
下着と黒いワンピースを貸し与えられましたが、
ワンピースという性分ではありません。
動きやすい下着だけで十分でしょう。
従者用の、お淑やかなデザインです。
貴族の令嬢が好む露出の多いものではなく、
落ち着いた色で、ちゃんと……お腹も隠れます。
下もホットパンツのようなものです。
もちろん、
本当は銅の鎧を装備したい所ですが……。
まぁ、この堅牢な屋敷の中です。
トラップの看破も得意分野。
絵本の主人公たちに会わなければ、
何とかなる気もします。
部屋から出ると──、
メーチとハルコが待っていました。
彼女たちも、動きやすい下着のみです。
同じ腹づもりのようです。
他の3人は……疲れていましたし。
呼び出すのは遠慮いたしましょう。
────。
3人で探索して分かった事は、
ともかく、絵が多い屋敷だという事です。
それはまるで──。
窓の月明かりに照らされた、夜の美術館。
絵画は普通であれば、
一族の権威や、財力を現す趣向品です。
しかし……絵のモデルに、一貫性が無いですね。
背を向け合う、金髪と銀髪の男性。
ネコ耳族の、少年少女たち。
こっちの絵は……魔族の女性?
これは……、
あの少女たちの家族なのでしょうか……?
ですが、どれも……素晴らしい絵です。
生きているかような……表情豊かな……、
こちらに語り出しそうな、絵画たち。
私たちが……じっと前に立って、
見惚れるほどです。
売れば、一枚でも大きな稼ぎになるでしょう。
義賊と狂銀の強さを知っていなければ、
確実に持ち帰っていましたね。
「なぁ……あっち、気にならねぇか」
「あ、そうだね……」
「……構造的には貴重品などの保管庫は……この奥でしょうね」
数々の悪人から金銭をこそぎ取ってきましたが、
どの強欲な輩も、宝を隠す場所は、
だいたい決まっています。
職業病というやつでしょうか──。
恐らく、この奥が宝物系の格納です。
メーチとハルコが、
ざわつきはじめます──。
「……覗いていくか?」
「……! だ、大丈夫かな……」
「でも……治療の足しになるかも、だろ?」
「それは……。ね、考えたんだけど……あの二人に頼んでみたらどう?」
「……!? ……流石に、無理だろ……」
「でも、イヴの目は治ったよ?」
「……」
私たちは……。
何が何でも、
お金を貯めなくてはいけません。
私も、メーチの案は……考えました。
バカな神官をさらうより、
余程、現実的かも知れません……。
しかし……。
保険は、必要だわ。
「……行きましょう、か」
「──! 本気なの!? イヴ!?」
「……。お前が行くなら、付き合うぜ」
何が、何でも……。
何があるかは、把握しておかなければ。
可能性を、探さなければ。
だって────……!
「行きましょう」
「バレたら……怒られるよ?」
「このカッコだしな……はは、久しぶりに、おっかねぇ日だ……」
──すぐに、扉は、見えてきました。
「「「……」」」
ドアと隣の壁に、何本もの銀の杭が、
滅多打ちにされています。
そして、それを……ぐるぐる巻きにしている、
白銀の、鎖──……。
「……」
「これは……マズぃよ……」
「ああ……このふさぎ方は、狂気を感じるな……」
まさか──"ミスリル銀"の鎖……?
純度が……高い。
これだけでも、お金に────。
私は、ドアを、がんじがらめにする鎖に、
触ろうとしたのです。
そして────、
────しゃんら──・・・ ── 。
「「「 ──……っ!? 」」」
大きな、器を被った女が、
後ろに────立っていました。
( ……──ッッ!? )
( そんな……!? )
( 気配、なんて……!? )
< かんら、かんら……♪ >
肩が露出し。
笑顔を携え。
明るい髪と。
黄金色の簪。
体は、透け。
そして、唄った────。
< な ぁ に が >
< ね こ を >
< こ ろ し た か >
──── ボ オ ッ ア ッ ──・・・!!!
「「「 ──ッ!? 」」」
突如。
床から、噴きあがる、炎。
廊下は、赤に染まります。
「これはっ……!?」
「くっ……!?」
「なんッッ……!?」
炎の魔法……!?
でも、熱くは──……!?
幻、術……!?
しゃんら ──
しゃんら ──
しゃんら ──
しゃんら ──
しゃんら ──
しゃんら ──
しゃんら ──
< よ ぃ こ は ──
お ね む り ぃ …… ? >
…… ── フッ。
き、
消え、た………。
「「「 ──、…… 」」」
廊下の炎も。
大きな……白い器の帽を被った女も。
蒼い、月明かりの廊下だけが、
目の前に……続いています。
「……」
「……」
「……」
心臓に悪い。
ハルコに……、
ポンポンと、肩を叩かれました。
「な、なに?」
「……見ろよ、これ……」
「ぁ……っ!」
そばの壁に。
絵が、あります。
今の女が……描かれています。
その表情は──、
優しそうに……笑いかけて、きていました──。
「……ぃ、今のは、ゴースト……? 床の炎は……幻覚……?」
メーチに目で訴えられますが、
私にも、よくわかりません。
「おい、イヴ……やめとくか……。警告がよォ……露骨すぎんぜ……」
ハルコが冷や汗をかいています。
「……。ここ、やっぱり……お化け屋敷……なのかな……」
「知らねぇけどよ……。でも、やべぇだろ……?」
「え……?」
「今までの絵に描かれたヤツら……ぜ、全員……、化けて来てみろ……?」
「そっ……! そんっ、な、まさかぁ……!」
しゃんら ── ・・・
「……」
「……、……」
「……部屋で大人しく寝た方が、良さそうね……」
柔らかいベッドは、幸運にも。
夢を見せない眠りへと、誘いました。
久しく、自分が。
ちっぽけなものだと、
感じる夜です────。
よっしゃMHWIで麻痺の大剣つくんぞ(´・ω・`)










