実直なるロメオの学習 上 さーしーえー
チキンツイストの挿し絵を
増やしてたりします(笑)(*´艸`*)。
──" 酒場おふざげぇと " にて。
3人の冒険者が、
テーブルを囲んでいた。
「──だぁ、かぁ、らぁ!
コイツは実直すぎるんだってばぁあー!」
「む……そ、そうだろうか?」
「ガハハ! まぁ、
それがロメオの良い所でもあろう!」
ニャン族の軽鎧の娘っ子。
ヒト族のガッシリした男性。
ドワーフの、斧使いである。
酒は進み、
何故か、ヒト族の男が、
ケモノっ娘に説教される構図となっている。
「おめぇーの性根が真っ直ぐなのは……! そりゃ、私も認めるけどよぉぉー……でもにゃぁ! それだけじゃダメな時って、あるだろおぉぉー?」
「ど、どのような時だと言うんだ……?」
「ガッハッハッハッハ・・・!!」
ドワーフの斧使いが、美味い酒で笑う。
ふたりを、過去から知るが故である。
東のドロボウ猫──つまり女コソドロだった、
かつてのスリーティアを捕まえたのが、
当時より街の治安を任されていた、
この"実直なるロメオ"、その人なのだ。
──ロメオ・ホアン・カーン。
貴族の五男という、
権力争いから離れた立場ゆえ、
冒険者の道へと進んだ、
変わり者の男。
その真っ直ぐな男が、
昔、自らが捕らえた元・女コソドロに、
タラタラと文句を浴びせられていた──。
「──あああ! さっきの報酬なんてよぉ……綺麗に三等分にしなかったら、すっげぇ価値があったんだ……! 新しい鎧の材料になったろーにィィ、お前がバカみたいに、ハンマーでカチ割るからぁぁ……!」
「報酬を等分するのは、道理だと思ったんだ……」
「ガッハッハ……!! イエローマッドクラブの甲羅も、あそこまで綺麗に割れては、酒代と消えるにいたる!」
ロメオは少々、頭の固い男であるが、
その実直さは、この街の憲兵も認める所である。
冒険者でありながら、
この区画の治安維持を任されている事からも、
高い信用を得ている事は明白だ。
"バカ正直のロメオ"、"実直のロメオ"は、
"ホールエルの正義の鉄槌"
の、ふたつ名も持つ、冒険者なのだ・・・!
「あぁ……アホォ。ロメオのあほぉぉー……きらいだぁ……」
「す、すまなかったと思う。だから、
今日の酒代は、私が持つと言っているだろう……」
「ワシは今日と言う日に感謝しているがのぅ〜〜♪」
「ノム爺は、酒飲めて嬉しいだけだろぉぉー……ふにゃにゃぁァー……」
とく、とく、トク──。
テーブルに突っ伏して酒瓶に抱きついている、
スリーティア・キャッツベルも、
本気で彼のことを嫌っている訳ではないだろう。
彼女が今、弓使いの冒険者となっているのは、
あわれに思った過去のロメオが、
自ら保釈金を積んだからである。
盗賊のスキルに目覚めつつあった幼き彼女が、
アロー系のスキル系統に鞍替えしたのは、
ロメオに感謝の念を抱いたからに他ならない。
なんだかんだ、ブツクサと言いつつ。
頭の固い男とパーティを組み続けている事実が、
何よりの証拠であった。
牢屋から出た彼女の鎧と弓をこしらえたのが、
今、酒を煽っているドワーフ、ノムノムである。
3人は、それからの仲となっている。
"が──はっはっは……!"
"チョット! どこ触ってんのよ!"
"エール追加だァ! 追加ぁー!!"
ガヤガヤと賑やかな酒場に、
黒猫の乙女は眉をひそめた。
「うるせぇなぁ……なんでこんな昼間っから、呑んべぇが湧いてやがるんだよぅぅー……」
「クエストの十分な準備ができずに、やむ無く、なだれ込んでいるのだろう……。薬草の価格高騰は深刻だ。マナポーションも品薄になってきている。回復職が多いこの街だからこそ、今まで何とかなっていたが……最近の補助系クランは、何処も疲弊気味だと聞く」
「まぁのォ……! あんなにポーション系が値上がりしては、やってられるか、と酒場に逃げ込みたくもなるじゃろうて! オマケに、昔のスリーティアよりタチの悪そうなモンまで湧いてくればのぉお! ……ととと」
「むむむにゃっ……!」
──パタパタパタパタ──!
ノムノムが酒を注ぎながら叩いた軽口に、
スリーティアは漆黒のネコ耳をはためかせ、
ムッとする。
ノムノム爺は、気にせずに続けた。
「ロメオよ、盗賊関連の情報は入ってこぬのか? この前、憲兵の奴らと喋っていたじゃろう」
「いや……まだ、何もわかってないに等しい。人死にが出ていないことは幸いだが……もう、ポーションの融通は厳しいと言われてしまった」
「……! マジかよぉぉ……! "実直のロメオ"の後光も、とうとう品切れかぁぁー……」
「これは、いよいよワシらの回復アイテムも底が見え始めてきたのぅ……やれやれじゃ。──ぐびっ……!」
賊の討伐や、ゴブリンの巣の排除、
クラン同士の揉め事の仲裁など────。
数々の治安維持に貢献してきたロメオ達だからこそ、
憲兵に融通してもらっていたポーションも、
もはや、風前の灯火である。
無い袖は振れぬ、という事に他ならない。
「このままでは……ホールエルの街から、
"冒険者ばなれ"が、始まってしまう……」
「にゃうー……」
「ふむ……」
ロメオ・ホアン・カーンは、
心を痛めていた。
冒険者の立場だからこそできる、
街の守り方がある──。
そう、かつての彼は確信したのである。
だが、回復薬が手に入らない街に。
いつまでも冒険者達が、滞在するだろうか──?
この、今が。
分岐点であると、ロメオは考えていた。
「このままでは、冒険者たちが……」
「わぁーった、わぁーった、
それは今、聞いたよぉぉー……」
「ふむ、また聞き込みをするかの?
怪しい奴など、そうそう見つからんじゃろうが……」
「えー! まだ、やんのかよぉぉ……。
盗賊が、街に入り込んでるワケねぇじゃんんんぅぅー……!」
「だが、もし薬草不足に……大規模な、
盗賊団が関係しているのだとしたら……っ!!」
少しでも解決への糸をたぐり寄せたい、
実直のロメオ。
黒猫の娘は、苦言を継ぐ。
「あのなぁ、ロメオぉお……!
さっきから私が言ってっけど、
おまえはその、真っ直ぐすぎる所をだなぁ──── 」
──からん、からん!
──────キィィ・・・ン!
─────ギィィ・・・ン!
「 ──……なん?」
スリーティアの黒いネコ耳が、
その音を捉えた。
彼女はドロボウ上がりの弓使いだ、
耳がいい。
つい、その甲高い音の方向に、
目線を向けてしまったのだ。
「……どうした、スリーティア」
「いや……ずいぶんと響く金属の音が、聞こえたんだよぉ……」
「金属じゃと?」
キョロキョロとする黒の猫娘は、
ふたりの人影に、目線をしぼった。
ローブを、頭からスッポリ被った、
小柄な二人組である。
「あァ……あの二人だぁ。足音かな?
ずっとキンキン、響いてる」
「足音じゃとぉ? そんな硬い金属製のブーツ裏なんぞ履いとったら、脚が痛くなってかなわんぞぃ?」
ドワーフのノムノム爺は、
鍛冶職の観点からの意見を言う。
今も、スリーティアは音を捉えていた。
「……うん、ぜったい足音だ。
私は鍛治はわかんないけど……。
二人とも、カッタそうな靴、
使ってんよなぁぁー……!
私は、ごめんだぜぇぇー……」
なんの気なしに、
足音を耳と目で追う、スリーティア。
ひじを付き、あごをダルそうに支えながら、
カウンター席に座った二人を見ていたのだが────、
「……見かけない風体だな……」
実直のロメオは、目を光らせた。
「ローブで、全てを覆っている……」
「……! お、おい、ロメオ……!」
「なんじゃい、気になるのか」
スリーティアとノムノム爺は、
パーティメンバーの剣呑に面を食らった。
「長く私はこの街にいるが、
あの二人は見た事がない」
「そ、そりゃあ、余所者もちょくちょく、
他の街から来るだろうよぉぉー……」
「気にしすぎではないか? 幼そうにも見える」
「こんな真夏日に、
店の中でローブを脱がないのは、
明らかに姿を隠したいからだ」
「「……」」
ふたりは、ロメオの言葉に言い返せなかった。
酒場は氷の魔石が効いており、
外の、うだるような日光から避難してくれば、
すぐにローブを脱ぐのが人の心理である。
確かに目線の先の二人は、
全くローブを脱ぐ様子がない。
「だ、だからってよぉぉ──……にぁぁー……」
「もしやすると、盗賊の一派かもしれない……。
もしやすると、なにか関連がある事柄かも……」
「にぁぁー……。ノム爺ぃぃ……。
これ、いつもの始まってんぞー……。
私は、知んねぇぞぉぉー……」
「ふむ……ロメオ、おい見ろ。
何か料理を頼んでおる。
ヌシの考えすぎではないか……?」
「……」
ロメオは、少し考えていたが、
「声を、かけてくる」
「……! お、おいっ、バカ……迷惑だって!」
「お前さんらしいのぅ。
じゃが、彼女のシンエルも信じてみては?」
「む……間違いなら、それでいい。
ただ、顔くらいは見ておきたいのだ」
実直なるロメオは、
澄んだ目で、仲間を見つめる。
折れたのは、ドワーフであった。
「……やれやれ。気の済むまで、せぃ!」
「ちょ、ノム爺ぃぃー……!」
「待っていてくれ」
ロメオは、落ち着いた様子で立ち、
テーブル席から、カウンター席までを突っ切る。
騒がしい酒場の中を進んだ。
この探究心こそが。
数々の街の問題を紐解いてきた、
彼の特異な能力のさきがけである。
だが、まぁ──。
黒ネコの忠告というのは───。
たまには、聞いておくものである────。
「──……」
ロメオは、フードの二人の後ろで、
そっと立ち止まり、
いつものように、真っ直ぐ言った。
「そこの、フードのふたり……。
──ちょっと、いいかな?」
「「 ──……、…… 」」
きぃん……ぎぃん。
────仮面のふたりは、ふり向いた。










