ホールエルの街と、東のウワサ。さーしーえー
さしえ足したん♪( ๑>ω•́ )۶
──東の王凱都市、ホールエル。
街に入って。
初めてわかる事って、ある。
ひとつは、"坂道の街"だって事。
もひとつは、歩いてる種族が多様だってこと!
「こんな……斜面の真っ只中にある街なのね!」
「あ、アンティ! ワニみたいな人いるっ!」
「んぇ?」
マイスナが珍しくビックリした声をあげた。
見てみると、リザードマンの冒険者らしき人たちが、
談笑しながら、こっちに歩いてきた。
「──参っちまったな、ポーションの価格見たかよ!」
「──あれはねぇぜ。ツイストが二本も食えちまう」
「──ははは! そうだよなぁ」
ドスンドスン、ギシ、ギシ。
おぉ……!
しっぽにもヨロイ、付けるんだね……!
何事もなく、すれ違う。
マイスナは目をまん丸にして、
しばらく後ろ姿を追っていた。
「……ドニオスでも、たまに見るわよ?」
「そ、そうなの? 魔物かと思っちゃった……」
こらこら、怒られるわよぉー。
でも、そーいや北のパートリッジの街では、
リザードマンの人って、見た記憶ないかも?
「──にょっき! にょっきにょっき!」
「ん? どした」
次はうさ丸が騒ぎ出したので、
赤いグローブが指さす方を見ると、
……なるほど。
ウサ耳のお姉さんが前から歩いてくる。
「──あら。キュートな、お連れさんね♪」
「にょおー♪」
「ふふふ、じゃあね。ByeBye──!」
あはは……。
……すれ違いざまに、ウサ耳お姉さんに、
もっくそ手を振られてしまった。
軽装鎧と弓を身につけてたから、
たぶん軽技職の人かな……?
「こりゃ、うさ丸。あんま目立つでねぇっぞ?」
「にょっきにょき♪」
「ふむ、そうね。耳、生えてたわね!」
同じような耳を見て、
ちょっと嬉しくなっちゃったみたいだ。
『────エルフもかなりの数が確認できます。
────他の街とは異なる種族構成比率です。』
『>>>全ての亜人や獣人を合わせれば、人族の方が少ないんじゃないかぃ……? 凄いな……。昔じゃ、有り得ない光景だったんだよ……。良かったなぁ……』
「……目の前の平和な光景については、先輩も一枚噛んでんじゃない? ──ね? "エルフの救世主"さん?」
『>>>──! ふふ……何かご褒美をもらうべきかな?』
「あら、可愛いお嫁さんだけじゃ不服?」
『>>>なるほど、十分だ』
『────ちょ:ちょっと……///。』
しっかし、さっきのリザードマンの人も話してたけど、やっぱりポーションが高くなっているみたい。
原材料の薬草が不足しているからだ、という事は、食堂娘の私にだって容易に想像がつく。
受付嬢のキキさんは、
"街より東側の森では薬草が採れない"と言っていた……。
私たちが届けた薬草も、
この大きな街にとっては、
わずかな量でしかないと思う。
東で、何かが起こっているのかな……?
と、思っていると、
マイスナが東を指さした。
「見て、アンティ。坂道の上が、砦みたいになってるよ」
「……! 本当ね……!」
ホールエルの街は、
どうやら大きな丘の斜面にある街のようで。
西から東に向けて、緩やかな登り坂になっている。
外周の街壁からは、あんま見えないかんなぁ。
てっぺんの東側の街壁は、
マイスナが言うように、
ガッシリとした砦のようなモノが建造されている。
「……学校の授業で習った事があるわ。北東には昔、邪悪な魔物が住んでいて、それに対抗するために砦を造ったって……」
「……! あれが、そうなのかな?」
「どうだろ……そんなに詳しくは教科書に書いてなかったし……」
今の時代。
私たちの世界は、とても平和だ。
それが、教科書の情報量に影響してるんだと思う。
「うわぁ。アンティ、ここのレンガの道。けっこう急な坂道だよ」
「ホントねぇ……! さっきから馬車がほとんど見あたらないのは、そのせいかも……。うさ丸が転んだら、西側まで転がり落ちちゃうわよ!?」
「にょ、にょんやーぃ……(ぶるぶるぶるぶる……)」
「くゆぅー♪」
きん、きん、きん。
ぎん。ぎん。ぎん。
ふたりと、二匹で。
ローブ状になったマントを揺らしながら、
坂道を登っていく。
今回の調査は、
ヒゲイドさん……ギルドマスターからの依頼だ。
ちゃんと薬草不足の原因は探ってあげたい。
「さて……どうしようかな! 冒険者ギルドに聞きに行くのが、いっちゃん手っ取り早いんだろーけど……。正直、ちょっと後回しにしたい……かるいトラブルを起こす自信があるわ……」
「にょわー」
「まず、聞き込み、する?」
「かんくゅ!」
そうねぇ……冒険者の人とは、さっきから、かなりすれ違っているけど……。
初めての街で急に呼び止めるのって、なんか気が引けるわね……。
ちょっと尻込みしていると、
マイスナが提案してくれた。
「アンティ、あの人は?」
見ると、落ち着いた紺色のウロコが綺麗な、
リザードマンの男性らしき人が、
屋台をやっていた。
「──さぁーいらっしゃい! インディ印のコッコ鳥のツイストが帰ってきたよォ! ホールエルのソウルフード、ボルボンボコッコ鳥のツイストだぁ──!!」
「……ぼる?」
「きいてみよっ!」
「あっ──ちょ」
ギン、ギン、ギン──・・・!
「──あの、すみません。なんで薬草が不足しているか、知っていますか?」
「さぁ──いらっ・・・へっ?」
いきなりマイスナが聞いたので、
紺色ウロコのリザードさんは、面食らっていた。
あぁ、あぁ……。
追いついて、フォローしないと……。
きんきんきんっ──。
……!
とても、よい香りがした。
照り焼きのタレっぽいわね。
「──ハァイ! いきなり、ごめんなさい」
「……! 銀と、金の仮面……? 君たち、女の子かい?」
リザードマンの屋台の兄ちゃんは、
キョトンとした顔で私たちを見ている。
「あは、一応はね?」
「私、生えてないよ」
こら……マイスナ。
「あ、あぁ……。こんな真夏日に、よくそんな暑そうなローブを着込んでいるなぁ……」
あはは……。
まさかローブの下で、
異空間から冷風が噴き出してるとは思うまぃ……。
「にょきっとなー☆」
「くゆっー♪」
「おおっ……!? 最近の従獣職は、仮面を付けるのが流行っているのかい……?」
「あっはは……。ねぇ! さっきから、とてもいい香りね! 実は私たち、ホールエルの街に入るのは初めてなんだけど──……これ、ツイストって言うの?」
「っ! あぁ、そうとも!! コイツはコッコ鳥をペロリといくには、一番の食い方なんだ! どうだぃ!! ひとつ350イェルだ、食ってかねぇか!?」
屋台の魔石鉄板を見てみると……なるほど!
トルティーヤの生地に、鶏肉と野菜、調味料、
ソースなどをかけて巻いてある食べ物らしい!
ウチの定食に比べると、ちっと高い気もするけど、
屋台には屋台のルールがあるはず・・・!
何より、とても美味しそうだわ・・・!
「ジュルリ……」
「ふふ! お兄さん、ふたつちょうだい!」
「──まいどっ!!」
──チャリン……!
レモンイエローのツツの葉で巻かれたツイストを、手渡しされる。
かぶりつけばいいタイプねっ。
揚げたチキンと、野菜に絡んだソースが香ばしい……!
・・・がぷりっっ!
もぐ、もぐ、──・・・!!
「──!! これは……素晴らしいわねっ! コロモがもっと油っこいと思ったけど──全然そんなことないわっ! 揚げ方に……こだわってんのね。トルティーヤも薄焼きなのに、こんなにモロコシの風味がよくて……」
「んぐんぐ、めちゃくちゃうまぃ」
野菜はレタス、ニンジン、オニオン……!
ソースは照り焼きとマヨかな……!
この街にも、照り焼きソースがあるのね……!
──これで350イェルは、めちゃくちゃおトクだわっ!
「お、おいおい……! なんて仮面のお嬢ちゃんだ……!! ガッガ! ツイストを初めて食べて、そこまでわかるってのかぃ……!」
「モグモグ、うめぇ……」
「もがー。もっこほひぃ」
「ほぉぉ……! 嬉しいこと言ってくれるじゃねぇかー!!」
店主の兄ちゃんは喜んでいるみたいだ!
いや、この紺色ウロコの兄ちゃんの店、
マジで当たりだわ。くそ美味い。
「ほかにも、たくさんツイストの屋台はあるけどよぉ……! ま、ウチのチキンツイストが一番だって、食い歩いて確かめてくるといいぜっ! 初めてホールエルに来たってんなら、オススメの食べ比べだぁ!! ガッガッガッガッガァ!!」
はっは! すげぇ自信だわ・・・!
ま、これ食べちゃったら、少し納得しちゃうわね!
「もぐもぐ、うまー!」
「こりゃヤミツキだわ……ホールエルでは、鶏肉が有名なの?」
「あーぁ、そうとも! "ボルボンボコッコ鳥"って言ってなぁー! ここいらの名産だぜッ!」
「ぼ、ぼるぼんぼ……?」
「ボ、がいっぱいだね」
「……普通のコッコ鳥と、何が違うの??」
「んぅ? いいかぁ? フツーのコッコ鳥は、"コケコッコぉぉー!!"──だろ? ボルボンボコッコ鳥は、"ボルボンボォォー!!"……だ!! なっ? わかるだろっ?」
「……、……う……ぅん?」
「……ぅゅ……?」
……それは、もはや"コッコ"鳥では無いのでは……。
「一時期は、まったく捕れなくなっちまってよォォ……。あんときゃ廃業しようか、本気で迷ったモンだぜぇ……!! つい、数ヶ月前の話さ! そんときゃあ、プレミオムズの人たちが食える川魚を見つけてきてくれてなぁ! 有難い話だぜぇ……! オレも干物以外の魚の屋台でも初めようか、ちと考えちまったよ! ガッガッガ!!」
「……っ! そ、そうなん、だぁー……! へ、へぇー」
「もぐもぐ、もぐもぐ……」
「でもよ! 最近はまた、よくボルボンボ市が開催されるようになってな!! いやぁー! 前より街寄りの森に生息地が移ったみたいだって、ボルボンボハンターの冒険者のお客さんが喜んで言っててなぁー!! なんでだろなー? いや、ま、オレはそれで逆鱗を撫で下ろしたワケよォ!! ガッガッガッ!!」
ぼ、ボルボンボハンターってお仕事があんのね……。
──って!!
私は薬草のこと調べにきて、
なァにを鶏肉について延々としゃべっとんねゃ。
「あ、あの、店主さん……」
「ん? インディでいいぜ!」
紺色のウロコのしっぽが、ブンブン鳴っている
「あー……、インディさん? この街で、薬草が採れなくなってるって聞いたんだけど、何か事情を知らない?」
「お? あぁ、それなぁ。けっこう長続きしてるぜ? オレはボルボンボショックの時と重ねちまっていけねぇ……」
ぼ、ボルボンボショック……。
「客の冒険者のみんなは、そりゃポーションが高ぇー高ぇー、言ってるぜ……! 治療薬が無いままクエストなんて、不用心にも程があるからなぁ」
「そりゃ、そうよねぇ……」
「──ごくん。お客さんは、薬草がない原因を言ってませんでしたか?」
「いやー、何が原因か、みんなわかんねぇって言ってたぜぇ? 街の西側の土地では、とうとう薬草畑を作ろうって話になったとか……でも、生えてくる量と消費量が見合わねぇし、何より値段がなぁ……?」
「にょんにょん……」
「くゆー……」
「それは……困りますね……」
「ケガできないもんねー」
「これ以上減ると、冒険者だけじゃなく街の一般人にも出回らなくなっちまう……。あのギルドマスターは薬草畑の補助金を出したはいいが、それ以外はノータッチらしいし──何より、もーひとつ厄介なウワサがひろまってるしよぉ……!」
……!
人に会わないという東のギルドマスターの話も気になるけど、もうひとつの厄介なウワサ、とは何だろう……?
「……そのウワサって、どんななんです?」
「あー。街の近くで、" 盗賊団 "を見た、っていう奴が、チラホラ出てきてんだよぉ……!!」
と、とうぞくだんんぅ〜〜……!?










