慈悲ありッッ!? さーしーえー
やばい。
まずい。
マジえぐい。
「……お久しぶり、ですわよね?」
「くゆーっ?」
カンクル、ちょっと静かにしてて。
「……っ、やれやれ……"反逆の花"。まさか、あなたまで共にいようとは……」
「にょきっとぉ??」
あ? え? えと……?
う、神官ねぇちゃんの名前、なんだっけ。
『────分析完了。
────アマロン・グラッセ。
────職業:神官となっています……。』
あ、それだ。
栗毛のチャーミングな神官さん……。
正真正銘、唯一。
私を"鑑定"した事のある神官さんだ────。
「あ、アマロン様……??」
「なんだ……? "尊主サマ"……? "反逆の花"……って、何だ……??」
……っ! すぐ隣にいる、
少年神官さんと、騎士さんの存在が、怖い……!
何が恐ろしいかっつったら、
ここで……誰かに、私の。
本当のファミリーネームを聞かれる事だわ。
人の噂に、バリアは張れない────。
「あ、 わ……、ぁ…… 」
「あ……アンティ! しっかりして……!」
「……、……やはり、ですか」
あんな、いっとう珍しいスキルの魔無しっ子を、
慈悲なき神官さんが忘れるハズが無い。
うぁ、名前バレた。
もうダメだ。
「────…… 」
スっ──……。
──ひっ!
アマロンさんが手を伸ばしてきたので、
私は肩をビクッとさせて、固まってしまった!
────……、
──ぐんぬっ。
「にょわっ!?」
──……えっ。
「ふふふ……よぉしよぉし……♪」
「にょにょ、にょきっとな、にょきっとな!」
う、うさ丸が、奪われている……?
うさぎの勇者は、
アマロンさんの乳に押し付けられ、
超、ヨシヨシされている……!
そのままアマロンさんは、
隣の少年神官さんに話しかけた。
「確かあなたは……ショータさん、と言いましたか?」
「はっ、はい! ホールエルから応援に来ている、新人神官のッ、ショータ・アイアンと申しますっ!」
ホールエル……!
王都の東にある街だ……。
王女様の誕生日会だから、全ての街から、
神官さんが集まってきているのかな……。
「……この御二方は、何故こちらへ?」
「あっ、はい! オルシャンティア王女殿下の誕生祝賀会の受付に……」
「──!? しょうたい、されていると……!?」
「にょむっ!」
アマロンさんが、うさ丸を抱きしめながら、
ビックリしている。
そりゃそうだ……。
この人は、私がカーディフという、
ちっこい街の出身だという事を知っている……。
王女様のパーティの招待状を、
街娘が受けるイミが、分かんないはずだ……。
「……ショータさん、"鑑定"はもうしてしまいましたか?」
「……っ! ……///」
「……ショータ・アイアン?」
「は、いっ!? いや、いえっ! "鑑定"は、まだこれからですっ!!」
「……っ! そぅ──……」
アマロンさんは表情を殺し、
うさ丸を確保したまま、私たちを見る。
「──……この方たちは、私が"鑑定"します。
ショータさん? あなたは引き続き、
この場所で受付をお願いします」
なっ……!?
「──えっ!? あ、あの……? アマロン、様……?」
アマロンさんのナゾ発言に、
神官ショータくんは「?」マークを浮かべる。
目線が鋭くなったアマロンさんは、
キッ、と睨み、言い放つ。
「────察しなさい……!
あなたには、荷が重い御相手でしてよ──!」
「なっ!?」
「……さぁ、御二方。私と共に、こちらへ──」
「「……! ……、……」」
アマロンさんが私たちを、
建物の奥へと促す。
ど、どういう事なの……?
「さぁ……ご案内いたします」
「にょきっと……!」
あっ……! うさ丸は、
ガッチリとアマロンさんの乳に捕獲されている……!
うぅ……ダメだ。
とにかく、ついていくしかない。
「そ………それ、では……」
「っ、失礼、します……」
「え、えと……はいっ!」
「あ、あぁ……またな?」
きん……きん……!
ぎん……ぎん……!
少年神官さん&騎士さんに会釈し、
私たちは、アマロンさんの背中を追うのだった。
「……なぁ、ショータくんよぉ。……"尊主サマ"と"反逆の花"ってのは……ナンだ?」
「わ、わかりません……。そ、そんなことよりも! あぁ……アマロン様に、名前で呼んでもらえた! やたぁー!」
「……こんの、色ボケぼうずぅ」
トコトコ。にょきにょき。
きん、ギンギン。
「──……」
「にょきっとなぁ〜〜」
「「……」」
前のアマロンさんが、全然しゃべんなぃ……。
くっそ高い天井の──シュッとした石の廻廊を抜け、
黄緑の芝の上に出た。
地面に埋め込まれた石の道を進む。
建物が近づいた時に……、
──ガッ! っと腕を掴まれた!
「──さぁ! はやくこちらへ!」
「ちょちょちょちょちょ!」
「ま、まって……!」
コツコツコツコツコツコツ────!!!
キンギンキンギンキンギン────!!!
堅牢な建物の、
階段の下の死角に連れ込まれる。
うさ丸はアマロンさんの後頭部に、
しがみついている……!
そっそれ、神官さんに馴れ馴れしすぎない!?
「だ、誰もいませんね? いませんねっ!?」
アマロンさん、超キョロキョロ周囲チェック。
そして、ギロリとこちらを向く!!
き、きたぁぁあああ……!
「──さぁ、アンティさん!!
なんでこんな所にいるんです!?
招待状もってるって、本当ですか!?」
「あばばばばば、あ、アマロンさん……! あの、そのね、これにはワケがあって……!」
「いいからっ! いますぐ見せなさいっ!!」
「ぅ、あうぅ……」
「アンティ……」
ナススベがにゃい……。
しょうがにゃしに、招待状を見せる。
──パラ……。
「……! な、なんて事……! ほ、本当に……招待されたのですか!? あなた、いったい何をしたんです!? 四ヶ月前まで、ただの街娘だったでしょうに……」
私にも、よく分かんないんですよぉぅぉぉお……!
「それに、その格好……! あぁ……あなたがそうだと、もっと早くわかっていれば……!! 前期のチャリティーイベントで、"お嫁さん探し軍資金"の調達がぁあああ……!!」
「「……ん!?」」
よ、よくわかんないけど……!
この神官ねぇちゃんとは、いちおー知り合いだわ!
ある意味、この人から私の冒険が始まったとも言える!
こ、こーなったらぁ……!
何とかアマロンさんを丸め込んで──……!!
「あの、アマロ──……!」
「ま、まぁそれは、いいんですっ!! アンティさん!!」
がしぃ……っ!!
か、肩つかまれたで!?
「──誰かに……あなたのスキルの事は、話しましたか……ッッ!?」
「 えっ・・・? 」
な、ん……?
アマロンさんの顔が近づき、
声が小さく、しかしよく聞こえるようになる。
「……"歯車法"のこと、誰かにしゃべっちゃいましたかって聞いてるんですよっ!? 正直に教えてくださいっ!!」
「「──っ……!!」」
頭に、何人かの顔が思い浮かぶ────。
父さん、母さん。
キッティ、ヒゲイドさん。
バババばーちゃん達は、使ってるトコ見てるし……。
えーっと、ヒキ姉や、ユータ達もそうなるかな……?
──でも、どうしてそんな事を聞くの!?
「……アンティの秘密は、私が守る……、
……アンティの敵には、容赦はしない……!」
「ぁ……、げっ!」
ま、マズイ!
今のアマロンさんの言葉を聞いて!
マイスナが、ドえりゃー殺気立っている!
しかし、アマロンさんはマイスナの殺気をスルーし、
意外な言葉を紡ぐ────!!
「──"敵"ですって!? む、むしろ逆ですっ!
私たちは、"運命共同体"ですよっ──!?」
「「へっ……!?」」
ど………どゆ事よ??
キレかけていたマイスナにも、
「???」のマークが浮かんでいる。
「あぁ……! その様子だと、あなたも"歯車法"のこと、知っているのね……。うぐぐ、マズイわぁ……。バレたら、大変よぉぉ……!」
「「……???」」
「にょきっとな?」
「誰もいないわよね……?
後ろにいないわよねぇ……?」
アマロンさん……?
なんでこんな、人目を気にしてるの……?
またもや、すっっごいキョロキョロしてから、
アマロンさんは静かに言う。
「いいこと……? よく聞いてください? お願いですから……」
「「……??」」
アマロンさんの顔が、
私たちに、うんと近くなる。
そうっ、と────。
「──裏で……" マザー・レイズ "が動いています」
「「……──っ!?」」
まざー……、れい、ず……?
『────マイスナの:名付け親の名称と一致。』
……!!
それって……確か!!
パートリッジの街の地下研究所の、
デブ助の飼い主さんの日記に出てきた……あの!?
上手く頭が回らないまま、
しかし。
アマロンさんの言葉は続く────。
「……マザー・レイズは"歯車法"に関する情報を……全て、揉み消しています! アンティさん……あなた、いったい何をしでかしたの……ッッ!」
「──ッッ!?!? な、なん……ッッ!?」
ど……、いぅ事よっ!?
「アンティさん……っ! あなたは──、目をつけられている、と言っているんですよ……! あの方は、教会に属する大司教の中でも特別で……、兎に角! 一番権力を持っている御仁なんです!! 何故なら……、この国を育て上げた者の一人だから──……!」
あ、頭が……ついていかない。
「あの方は……ふたつ名で"貴族殺し"とも呼ばれている、恐ろしい方です……!! 資金を横領したり、よからぬ企てをした貴族を、一生……歴史上の表舞台から消し去る力を持っています……っ!」
「──ちょ、ちょ! ちょっと待って、アマロンさんっ!?」
思わず言葉をあげた!
「そんな……凄い、えらぁーい、神官の親玉さんがっ!
何故……ッッ! わ、私の"歯車法"のことを知っているの……っ!?」
「わ、私が聞きたいくらいですよぉおっ……!! あの方は、私があなたの"能力おろし"を担当した神官だと知り──わざわざ、直に脅しにきたんですよっ……!?」
「お………おど、し……?」
「ええ……。腕利きの護衛と御一緒に……私が教会に一人の時を狙ってです……! " 歯車法の事を絶対にしゃべるな "……と、釘をさされたわ! あ、あの時は……本当に……け、け、消されるかとっ、思いましたっ……!」
「「……」」
な、なによぉ、ソレぇぇ。
私のチカラのことを知ってて……、
それを秘密にしようとしてる人が、いるってコト……?
「けっして! 油断してはいけません……っ! あの方の護衛は腕利き揃いですし……! しかも、御本人も恐ろしい剣の使い手だと聞きます……! マザー・レイズには"貴族殺し"の他に、もうひとつ有名な"通り名"があってですね……?」
「「……」」
ご、ごく、り……。
「──"幻影聖女"──。
愚者の後ろに、いつの間にか立っている……という噂話から生まれた俗称です……! 片手剣と、幻影魔法を得意とすると言われていて……。背後に音もなく……知らぬ間に立っている、剣を持った仮面の聖女……! ほ、ほぉれ……! ゾッとしたでしょう!」
そ、こまでいったら、もう怖い話じゃないのよぉー!!?
アマロンさんは、うさ丸をブンブン振り被りながら、
涙目で言った!
「わ、わかりましたかぁーッッ!!? わたしは、あなたのヒミツをッッ、隠し通さないとッッ!! あの神官の皮を被ったバケモノにっ……!! くっ、首・チョン・パにされるんですよぉおおお──!!!」
「にょわーっ!!」
「そ、そんにゃ……!? 大袈裟なっ……!」
「ぶ、ぶるぶるぶるぶる……」
「くゆぅ??」
アマロンさんは、
うさ丸を押し潰すように抱っこして、
顔を真っ赤にしているわ……!
な、なんだコレ!
"ヒミツにして"と頼もうとしたら、
逆に、頼まれてしまった──!!
「なのに……ッッ! なんでこんな所にノコノコいるんですかっ……! ああああ、恐ろしやっ……! あの四つ目仮面が恐ろしくてっ、一日7時間しか眠れないっ……!!」
「じゅーぶん寝てんじゃないのよォー!」
「し、神官さんって、こんな人いるんだね……」
「私のベストブレイクは9時間です──っ!! 兎に角っ!! 私以外の神官に"鑑定"を使われるのだけは、何としても避けねばなりませんっ!! "歯車法"なんて、けったいなスキルがあるとバレたら、即! "うしろのレイズさん"ですよっ!」
「あっ! こいつ……! また、けったいな、って言ったぁあー!」
『────いらっ。』
「にょきー」
「いいですかっ! 今回、人手不足で全王凱都市から派遣されている神官は、警備のために王城の中にも配置されます! 妙な事をしていると、すぐに"鑑定"されますよ!!」
「まっ……マジでっ!?」
「あわわわ……」
「できるだけ近づかないか、出来る限り大人しくすれ違うか……兎に角! 細心の注意をはらってください!? あなた方も、そんなカッコしてるんです……"本名"はバレたくないでしょう!?」
「ぎ、ぎくっ……!」
「なぁー……」
偽名で冒険者登録してるの、
アマロンさんに、キッチリバレてるぽい……。
「にょきっと☆」
「あと……もうひとつ!」
「こ、これ以上、なんかあんの……」
「もう、いやです……」
「くゆゆー」
アマロンさんのバックから、
ゴゴゴゴゴ……、と音がしそうだ……!
「……マザー・レイズは、明日……王城に立ち寄るはずです」
「 」
「 」
「……警備責任者の一人なので、パーティ会場には直接はこないと思いますが……。──もし、" 四つ目のミスリル銀の仮面の神官 "を見かけたら……、多少わざとらしくてもいいです。すぐにお逃げなさい」
「……、……」
「……、……」
「会ったら……直に消しに来るかもしれません」
……、……うせやろ…………?
「私が……何をしたぁ……!」
「ゃ、やだー……」
どうして……、こうなったの。
「もやだ……おうちかえる。ここくるんでしょ。外で宿屋さがす」
「アンティよしよし……」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。まさか今から、王城の外に出る気じゃないでしょうね?」
「なにがあかんねんな」
「夜にアンティよしよしする」
運命のパーティ前日でしょ。
ゆっくり寝かしちくり。
「あああああアホぉぉお! 一度出て、明日の入場の時に、私以外の神官に"鑑定"されたらどうすんのぉおおおお……!」
「 」
「 」
ソナコト、イウタカテ……。
「そっ、そこはアマロンさんが今日みたいに……!」
「私は明日は、内部警備なのよぉおおお!! 今日のあなたは世界一ツイてると思いなさいぃいいい!!! わ、わ、私がたまたま様子をうかがいに来なかったら、どうなっていたか……!」
「そ、そんなぁ……!?」
「お城から出れないなら、どうすればいいんです……?」
「お城で一夜を明かしなさい」
……ぅそでしょ。
「野宿でもなんでもいいから、お城の中に留まりなさい。あなた義賊なんだからそういうの得意でしょう」
こ……この神官……慈悲の欠片もにゃい……!
「ま、マザー・レイズってヒトが……ココに来んのに……。その場所で一夜を過ごせと……?」
「しょーがないでしょう。背におへそは変えられません」
慈悲のカケラもねぇぇえええ──!!!
「あ、アマロンさんの泊まってる部屋とか泊めてよぉ!」
「はっ、バカ言いなさいっ! そこらじゅう神官だらけですよっ!? 不審者代表のカッコしたあなた達なんて、秒速"鑑定"決定ですっ!」
うわぁぁああああああ!!!
「地面に穴掘ってでも泊まりなさい!!」
神官さんのセリフじゃねぇええええええええ!!!
「うわああああああ!! アマロンさんっ!! あなたも私のスキルぅ、バレたら困るんでしょお!? 何とか助けてよぉおおおお!!」
「バカおっしゃい! 私は出世街道から転げ落ちたくないんですよぉおお!! 使命もあるしっ!! 人生これからだしっ!!」
「にょきにょき」
「うわぁああああんんん!! マイスナぁぁああー……」
「アンティよしよし、よしよし♪」
「まったく、狂銀に慰められるなんて、情けないですよっ!?」
ぷるぁぁあああああああ!!!!
「……アマロンさんは神官じゃない、震撼です」
「何をワケのわからない事を……。あっと! 仕事仲間が来ました……! ほらっ、散りなさい!!」
ちっ、散り……。
「あぁ、うさ丸さま……? 私はこんな所で終わりません……! 必ずや、貴方様を、そこなくゆくゆに勝たせてさしあげます……っ♪」
「にょ、にょきっと……?」
「くゆぅーっ」
アマロンさんは、そっとうさ丸を私の頭の上に置いた……。
「ナンマンダブナンマンダブ……。ほらっ! 早くお逃げになって……! あ、あと、生きて帰れたら、ドニオスで教会に寄ってくださいな! 活動資金に余裕がないので、しばらくは街にいますから……!」
「ハハハ……、神の御加護を、ド畜生」
「あ、アンティ……いっぱい、同じ服の人くるよ……!」
え……うわっ!?
あの人たち、みんな神官っ!?
「ほらっ! ドロンっ! ハーリィ!」
──しっ! しっ!
マジかぁ……。
あっちいけジェスチャーMAXの、
神官アマロンさんいらぁ。
「教会に生きて来てくださったら、お茶くらい出しますからっ! 明日の希望のために、お逃げなさいっ!!」
「いや明日になんの希望も持てなくなったわよねぇ!?」
「うふふ♪ 神の御加護をっ(´>ω∂`)ちゅ♪」
オーライ……義賊と神官、相容れねぇ。
「覚えてろぉぉおー!! アマ神官ぅんん──!!!」
「あわわ、アンティ声おっきい……!」
「にょやぁ……」
「かんかーん!」
キンキンキンギンギンギンギン──ッッ!!!
────────。
「おや……アマロン様? どなたかと、いらっしゃったの?」
「あら……いいえ? うふふ、陽射しが見せた幻ではございませんこと?」
「まぁ……! アマロン様ったら♪」
(^_^;)アマさんや……(笑)










