ウォッチング・ユー
勇者が復活するまで(●´ω`●)
「によきっとにょんやぁ……」
「くゆくゆ♪」
「ひゃわわわわわぁ……。ふあっ、アンティさん、マイスナさん、おかえりなさい! 初めてのダンジョンはどうでしたか?」
「……、……」
「……、……」
キン……キン……キン……。
ギン……ギン……ギン……。
だっらぁぁぁ…………。
「い、いやぁぁ……。歩き方が……怖いですってば、お二人とも……。口を半開きにしながら両手を垂らして向かってくるのやめてもらっていいです? ゾンビ? ゾンビかな? ギルマスぅぅ〜〜! ヘルプですぅぅ〜〜!!」
「にょ、にょんや……?」
「くゆー?」
「……」
「……」
「ほ、ホントどうしたんですか。目に生気がないですよ……おーい、聞こえてますー? あ、うさ丸さんは今日、調子わるいみたいでこの通りですけども」
「にょ、にょきっとなん……」
「くゆー」
「……ちゅ」
「……ぁい」
──スっ、
──ドバトぼべちょべちゃああでぽでぱっっッ!!!
「 ひ ぃ い ッ …… !!? 」
「──にょんぎゃあああああああああぁ──っっ!!!」
「くゆぅぅうう……!?!?!?」
……でろでろろん。ぶちゅわーん。
「いこ……」
「うん……」
キン……キン……キン……。
ギン……ギン……ギン……。
「 ぁ、ぁわわ、わ わわぅあぅあぅあ……っ!? 」
「 にょん……………、──ガクッ…… 」
「 か、かんかぁ──ん!! 」
ギシィ……ギシィ……!!
ギィ────……!
「──ぅおいキッティ、お前のしょうもない助けを求める声が聞こえたかのような気がしないでもないが、何か起こったの、…………なんだこの、うさぎヨーグルトは……」
「……………ぶくぶく、にょ……」
「くゆゆーっ!」
「ま、ま、マイスナさんが……マイスナさんがッ、手から白濁色の液体を出すゾンビに……ッ!?」
「そんな怪物の侵攻を許した覚えはない。この清涼感のある独特の揮発臭は……ポーション系だろう。うわっ、なんだこの濃度は、エリクサーか? カウンタの下まで垂れとるではないか、勿体ない……」
「にょぷっぷ」
「く、くゅ……」
──ドス! ──ドス!! ──ドス!!!
「──ぐ、ぐぉおお、おも、てぇ……! ちょ、コラ、嬢ちゃんズ! ちっとは手伝わねぇか!」
「あっ、ゴリルさんだ」
「ゴリルよ、なんだその重そうな荷物は」
「ちょ……っと、ここ、にッ、置かせて貰うぜッッ……と。ふぅー! あーのギラギラコンビ、もうちっと先人をいたわれってんだぁ! んおっ!? ……なんでうさ丸は汁まみれなんだ?」
「にょぷっとなー」
「くゆー? ……ぺろぺろ……くゆーっ♪♪」
「薬も過ぎれば、というやつだ。ゴリル、ドンドン炭鉱からの帰りだな?」
「やぁー、ヒゲイド……ありゃヤバいぜ。ちょっと中で話さねぇか?」
「……! …………キッティ、お前もこい」
「え、こっ、この荷物どうします? あ……お願いします」
コツコツ……、
ドスドス……、
ギシィギシィ。
ギィ────……バタン。
ドゴン。
「……で、どうだった」
「アイツら単騎で、国が落とせる」
「……はいぃ?」
「……。マイスナの方もか?」
「いやーっ、ごっはっは! もう笑うしかねぇんだけどよ……。結論から言うと、ありゃあ近距離型と遠距離型、互いにどっちにもスイッチできる万能型だぜ」
「……! 俺はアンティと一度だけ組み手をした事があるが……魔法のほうも間近で見れたのか?」
「ヒゲイド。あのクルルカンの嬢ちゃんは、ヤバいぜぇ……」
「……具体的に頼む」
「なんつったら良いか、魔法もだがよォ……。まず、アイツのパンチは"無駄"がねぇ」
「無駄?」
「今日見てて、よーくわかったぜ。アイツらは"魔物から報酬を得る"っつー常識が、欠落してんだわ……」
「……」
「"魔石"、"素材"、"名誉"──。そんなモンを度外視して、今までやってきたツケだよ、ありゃーな……」
「……?? ゴリルさん、よくわからないのですが……」
「──急所を……"即座に潰す"のだな?」
「!」
「あぁ、まさにその通りだぜ。"魔石"は貴重な素材であると同時に、魔物の最大の"弱点"でもあるからなァ……」
「……アンティがゴーレムを倒すのに、何ビョウかかった」
「アイツが近づいたら、相手さんの胴が無くなった」
「いぇぇ……!?」
「……速さと、威力……。それほど、か……うぅむ」
「マイスナの方も似たようなスタンスだったぜ。金銭の見返りを求めないかわりに、敵さんに手加減がねぇ。いや……手加減はしてるだろうが、とにかくはえぇんだわ……!」
「そんなに凄いんですか……」
「こう言っちゃ悪いけどよ……アイツらのやり方は、結果だけ見ると"視認即殺"だ。50体、10フヌくらいで消し飛ばしやがった」
「そ、それって"出逢えば最期"ってことですよね……」
「はぁ……やれやれだな……」
「二人とも、近接もめちゃくちゃ得意だ。アンティの方は打撃、マイスナの方は爪みたいなもんで裂く。どっちも天才的だが、義賊の嬢ちゃんの方が若干、力のコントロールがうめぇ」
「魔法はどうだ?」
「マイスナの方は氷魔法と雷魔法を使ってやがったぜ。あの魔法の攻撃範囲はやべぇわ……広すぎるって。俺が生きてきた中でダントツだ。しかもよ、顕現する氷が普通じゃねぇ。キッティ! 空のコップあるか? 硝子のがいいんだけどよ」
「えっ、えぇ……、はい、どうぞ」
「あんがとよ! ……実はマイスナちゃんの作った氷な? ひと欠片くすねて、空のウトイスの実に拝借してきたのよ。……見ろよ──」
「「!」」
トポポポ──……カラン。
「ま、この暑さだ。当然、ほとんど氷は溶けてるけどよ……なんか気づくだろ?」
「……っ! 水が、なにかキラキラしてますね?」
「……"銀"か」
「──えっ!」
「ごははっ、俺もそう思うぜ。なァ……あの狂銀ちゃんの作る氷に、全てミスリル銀の粒子が入ってるとしたら、どーだ?」
「──!? えぇ……と……?」
「……、……。これと、"電撃"か……」
「っ! まさか……」
「ミスリル銀の剣は、特に雷魔法と最高に相性がいい。銀系統は、よぉーく電撃を通すからなァ……。こんなもんが混入した氷で動きを止められて、あのカミナリ様が一斉にドカンと落ちてくんだぜ……?」
「っ! ……ごくっ」
「……そこまで、自在にコントロールできているのか?」
「あぁ……光の森みたいだったぜ」
「ひえぇ……」
「…………アンティよりも魔法は強そうか?」
「それがよォ……。あれはいけねぇよ、ヒゲイド……」
「見たか」
「ああ。嬢ちゃんの火の魔法を、初めてな……」
「あ……そか、アンティさんって、ゼルゼウルフを……!」
「手からな? 真っ直ぐ出るんだ」
「……」
「やべぇぞ。で、通り道にいるやつぁ、なくなる」
「そ……」
「……」
「眩しすぎて、数フヌくらい目がおかしくなったぜ……」
「……想像つきません……」
「……あの、目立ちたがり屋め……」
「ごっははは……。いやー、すげーよ。マジで絵本から出てきてるんじゃねーかと思うくらいだかんなァ!」
「なんか……私が思ってるよりも、ハンパないんですね、あの二人……」
「あ、それでよ……コレも危ねぇわ」
「……! この荷物か。何が重いのだ?」
「そりゃ重いぜ、なんせ──」
──ドォンっっ!
「……! "鉄のインゴット"ですか!」
「15本ある。俺に付き合わした詫びだそうだぜ」
「……マイスナだな」
「俺のすぐ目の前でよ、こんな純度の高い鉄をパッと固めやがった。狂銀の方も立派なピエロさんだったぜ! ごっはっはっは!」
「こ……れ! 不純物の浮きがまるで見えません……なんだコレ……すごいです……!」
「これは鉄だからまだいいけどよ……他の金属素材でも同じ事ができるなら、そりゃあ引く手数多だろぅぜ? ヘタしたら相場をわざと崩して、儲けようと画策するヤツも湧いてくるわなァ?」
「……やれやれ……」
「ごっははっ! 参るよなァ、ヒゲイド!! お前の気苦労がよくわかったぜ! アイツらを隠しておくのは俺も大賛成だわ!」
「……正直、ここまで底が見えないとは思っていなかったのだ」
「さっすが主人公と敵役ってとこだわなァ……。なぁ! お前とキッティはアイツらの素顔、見たことあんのか?」
「えっ? なんですか急に??」
「いいからよ。あんのかよ?」
「え……えっへへぇ〜〜ありますよぉ〜〜♪ アンティさんは信頼の証に見せてくれましたぁ〜〜! マイスナさんは、その、ここへ来た時にですね……」
「美人だったか?」
「へ?」
「顔」
「ご、ゴリルさん……ッ!! 奥さんと子どもがありながら……!?」
「バッキャロー。俺はサルサ一筋だっ!! で!? どうなんだ?」
「そりゃもー!! ダブルで、めっっっちゃくちゃ美人ですよっ!! ツリ目の天使と、タレ目の天使ですね!! 女でもお持ち帰りしたくなっちゃうレベルですよ!!」
「じゃ、最悪だな……」
「あぁ、最悪だ……」
「ええっ、なんでっ!?」
「いや、だってよ……。"護衛力"、"生産力"、"天使レベルの美少女"ときたもんだ。んで、どっちも歳、15くらいだろ? もう完全無欠だろォよ……なぁ?」
「野心のある俗物が、欲しがる要素が多すぎるのだ……」
「あっ……」
「オーライ、わかった、もういい。これ以上は長くなっちまう。今回のゴーレム消失マジックで、俺が言いたくなったのは"2つ"だ……」
「聞こう……」
……ぎしっ。
「──ひとつ。アイツらがもし戦ったら、ヤベぇ」
「……」
「もし、あの二人が絵本の通り敵同士ならよ……最後のページよろしく、ドニオスの街は真っ白に消し飛ぶだろうぜ……」
「……そっ、そこ、までは……」
「アイツらはゴーレム50体叩き潰して、汗ひとつかかなかったんだぜ? 本気でやり合ったら周りは持たねぇよ」
「あ……あの二人はッ、そんな事しませんよッッ!!!」
「わーってる。俺もアイツらのことは一等好きだ。だがよ……それだけのモンを、あのちいせぇ体にしまってやがんだ。敵味方同士の鎧を見て、ヒヤッとするレベルにはな……」
「……」
「で、ふたつめはよ……。あ、その紅茶もらっていいか?」
「もぅ!! なんなんですかっ!! ハイっ!!」
──ごくっ、ごくっ、ごくっ……。
──フゥ──……。
「──ふたつ。精神汚染系の攻撃には、マジで警戒するべきだぜ」
「……それは俺も思っていた」
「せ、精神汚染って……なんでですか……!」
「なぁ。アイツらの鎧って、脱げるんだよな?」
「あっ、当たり前です! どちらも中身は普通の女の子ですよ!」
「キッティ……ゴリルは、あの鎧の着脱時に、特につけいられる隙があるのでは、と言っているのだ」
「……!」
「俺も、なぁーんとなくアイツらの鎧が特別製なのは感じてんだ……。仮面ももしかしたら、すげぇアーティファクトかもしんねぇ。でも、生身の時はどうだ? 肉体的にも精神的にも、防御力が下がるんじゃねぇか?」
「そ、それは……」
「俺が思うによ……アイツらが、アレだけのドデカい力を持ちながら普通に暮らせてンのは、一重に心の持ちようさ……。あんだけ皆がとっつきやすい性格だから、明るくいけてんだ……だろ?」
「……うむ」
「……はい」
「でも、その心になんかあってみろ。沈黙、混乱、狂化……催眠術やら身体操作とかも怖ぇな……後は……ヒゲイド?」
「……"隷属紋章"……」
「……っ!!」
「ま、イチバンは、それだわな……。奴隷制度が無くなって久しいけどよォ……まだ取引をしているアホは、必ず存在しやがる……」
「あの二人を奴隷にした者は、世界を書き換えるやもしれん」
「今日の俺じゃないと、ソレは笑ってたかもしんねぇ……」
「……、……いやです、そんなの……」
「あったり前だ。だから警戒しなきゃなんねぇ。なのに、アイツらは今日、俺の前でやらかしやがった! だから心配になってんだよ……!!」
「……! ゴリルさん……」
「ちょっと俺に強いって知られてたからってよ……、気を抜きすぎなんだよ全く……ッ! アイツらが、どう思って隠し続けてんのか知んねぇけどよォ、まずは"自衛の心"だろっつーの……!」
「……俺の監督不行き届きでもある。うぅむ、どう言ったものか……」
「……頼むぜ? 上手く"お説教"してくれよ? ただヘコましても気分がワリぃからよォ……。俺はこの街を明るくしてくれたアイツらのこと、かなり気に入ってんだかんなッ!」
「ぅう〜〜〜〜む……。苦手分野だ……」
「なんだよ、ごわっはっはっは!! ギルマスはたいへんだなぁー!!」
「こっ、こいつ……! いきなり他人事のように……!」
「あはは……えと、どうやってお二人に釘さしましょか……」
「う〜〜〜〜むぅ……。しかし、アイツらは月イチで里帰りするようだしな……そこで鎧は脱ぐだろう……」
「ん、じゃあ俺の話は以上だ! キッティ、このインゴットは買い取ってくれるのか?」
「あっ、はい。これは鉄のインゴットでは最高額の買い取りになりますね!」
「だろうなァ……。半額くらい、アイツらに回しといてやんな。さぁーて! パンジーの新しい服でも買うかなぁ〜〜!」
「あっ、親バカだ」
「コイツが父親になる日が来るとはなぁ……」
「おぉ、そうだ! あの嬢ちゃんらな? スターエメラルドを"待てドロ"だと勘違いしてたみたいなんだけどよォ……なんか知ってっか?」
「へっ、"待てドロ"ですか……? ゴーレムの顕現化報酬なんて、よっぽどのレア個体じゃないと有り得ませんよね……??」
「……あっ」
「えっ」
「……なんだよ」
「俺が……"たまにドロップするぞ"、という表現で伝えてしまったかもしれん……」
「あっ……言ってましたねー」
「いや、ぜってーそれだろ……。アイツら冒険者としては駆け出しなんだからよォ……"待てドロ"と"剥ぎ取り"の違いくらい、教えてやれよ……。ヒゲイド! お前のせいであの炭鉱には、無実のゴーレムが気体と一緒に漂ってんだぜ? ごっはっはっはッ!!」
「ゴーレムって……気体になれるんだ……」
「──今度、炭鉱で拝んどけよ? "ホントにゴメンね♪ ゴーレムさんっ!"ってなッ! 」
「いや、俺一応ギルドマスターなんだが……」
「にょにょにょ! にょっきぃぃ──♪♪♪」
「く、くゆゆぅ──♪♪♪」
「……このやるせなさ、アンティにぶつけます」
「えっ、ちょ、待って、きゃっ──!?」
勇者は蘇り、
夜の争いが始まる。
( ๑•̀ω•́๑)キリッ










