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真実を照らす月 さーしーえー

さしえ追加(●´ω`●)+





 ──転。





 夜に映える、蒼の城と成りぬ。


 常人、見つけることも叶わぬ。


 血族の術を、見やぶれはせぬ。



 ──されど。


 全の(ことわり)に、


 異は存在せり。




   コツ……、


    コツ……、


     コツ……。




 音が反ずる、石積みの廻廊が。

 静夜の森で、月の蒼光を成す。



「 ……、…… 」



 その光の蒼、城の主の髪に似て。

 彼歩く道、ついに出迎えあらず。

 進みゃ────。




   コツ……、


    コツ……、


     コツ……。




 廻廊、(さら)し道となる。


 彼に迫りくる、暗黒(かたど)る城。


 月。


 ()の恐怖より、深()(あお)が勝つ。


 光景、切り絵の(ごと)く。


 石の道、畑を裂き続く。


 両の側に茂る、見渡せば小金瓜(トマト)の影。


 陽のような鮮血の実も、


 ひっそりと、夜に眠れ。


 昼は紅にて。


 夜は蒼にて。


 二つの色持つ、小さな城じゃ。 


 彼は美しくは思う。




   コツ……、


    コツ……、


     コツ……。





(でも……ここに、ふたり暮らしってのは、さびしいよなぁ……)




 ずけずけと城に近づき、


 扉の(かたわ)らの小魔石が、


 ひとりでに、鈍く、灯りゃ。



 ……ポワっ──……。




「ふぅ……失礼しま──っっ!!! …………っす」




 (うるさ)森精種(エルフ)は、


 夜分に少々、遠慮せり。




 ────ぎ、ぎゐゐゐゐゐゐゐィィィ──……。




 門扉、触らずとも。


 


   コツ……、


    コツ……、


     コツ……。




 部屋で(あるじ)は見返りて。

 蒼髪、くるりと弧。




「……ごきげんいかが、ミラーエイド」


「はいっー!!! 今晩は!!! 来ちゃいましたよぉー!!! あははーっ!!! それと、あのですね!?! そろそろファーストネームを呼んでくれませんかぁーっ!!?」


「ょ……ようこそお越しを、ユユユ・ミラーエイド様。こちらからお呼びだて致しましたのに、お出迎えにあがらず、誠に申し訳ございません……」


「ああそんな!!! いいんですよぉ──!!! ちょうどヒマな時期だったんでぇ──!!!」







 至高の(プレミオムズ)回復職(ヒーラード)

 "ユユユ・ミラーエイド"に返礼したのは、

 青い髪を持つ少女と、その執事の青年である。


 館の主が起きているとわかった騒音エルフは、ドカリ、と、いつも背負っている大きな肩掛けカバンを床に下ろし、その肺活量を発揮する。



「いやぁぁぁ────!!! 夜分遅くにすみませんねえええ──!!! アオカさんからの呼び出しなんてめったにないんで、つい気が焦ってしまいましてぇぇ──!!!」



 キ────ィン…………。


 人でなくても、この声量はキツい。

 いま深夜。



「こ……、こほん。いっ、いいのですよ。夜食は何かお召し上がりになりまして?」

「ご要望でしたら、こちらで御用意させていただきます……。いつも通り、トマト料理中心になりますが……」


「え────!!! いいんですかぁぁ────!!!

 嬉しいなぁぁ────!!!!!」


「ほ、ほほほ……」

「で、では……」


 穏やかなる夜。

 その天敵たる騒音エルフに、

 思うところがないわけではない青の姫と、その執事である。

 が、いつも世話になっている身として、

 無下にすることは有り得無い。



「アオカさんっっ!!! 体調は如何ですかッッ!!!」

「え、ええ……。別に健康を損なっているわけではありませんから……」

「確かに!!! 顔色は良く見えますねぇー!!! 相変わらずの可愛らしさですっ!!!」

「ふふふ、畏れ入りますわ」

「おやぁ──!!? 何か嬉しいことでも、ありましたかぁ──!!?!?」



 静かに笑う青。


 少女と同じ種族の執事は、


 音もなく厨房へ消えている。



「ミラーエイド殿……。お食事を御用意する合間に、ぜひ見ていただきたいものがあるのです」

「へぇ……!!! 本当に嬉しそうですねー!!! なんでしょー!!!」

「ふふ……こちらへ」



 笑みを噛み殺せぬ青の少女の表情は、

 しかし、まるで悠久を生きてきたかのような落ち着きがある。

 青く伸びた髪が、宝石のように煌めく。


 騒音エルフは、歳上の彼女に追従する。



   コツ……、


    コツ……、


     コツ……。



 足音は、彼の物しかしない。




 ──月光の射し込む部屋に、それはあった。



「………………、……」

「ふふふ、貴方が黙り込むなど、余程の驚きなのでしょうね」

「……、……」

「純度100パセルテルジの"精霊花(トレニアイズ)"です。貴方も目にするのは初めてではなくて?」

「……人生で、二度目ですよ」

「あら、それは残念」

「根が……あるのですね」

「ふふふ、お花ですから当然ですわ」

「どう、やって手に入れました? 自生しているのですか?」

「だいたいの場所は特定しましたが……やはり私はたどり着けませんでした。魔物の感覚を阻害する効能は伝承通りのようです」

「……では、どのように?」

「! ふふふ……そうですね」



 アオカ・ミラ・ブルーレッドは、

 そう、浮かれていたのだろう。

 目の前のエルフの声量の、普通さ(・・・)に。

 それは、異常な(・・・)事だと。

 この時のアオカは見逃した。


 机に小さなお尻を置き、

 ドレスから伸びた足をパタパタとさせ、

 述べる。



「ふふ……とある絵本の君(・・・・・・・)から、譲っていただいた(・・・・・・・・)のですよ。私への花束として、ね♪」

「 」

「とても驚きました。まさか──」

「──彼女に危害を加えましたか?」

「、はい?」

「彼女に、危害を加えました?」

「え……? な!? ちょ──ッッ!?」



 ……──ガっっ……!!


 ぐいぃ……!


 ──ドンッッ……!!


「──んぅっ!?」



 永くを生きたはずの吸血姫は、

 机に押し倒され、彼の警戒の高さを知る。

 

 回復職(ヒーラード)とは、もちろん後衛職である。

 が、彼はその規格には収まらない練度を放っていた。


 彼は机に乗り出し、彼女の両脚の間に片(ひざ)を立て、

 青の髪の傍に手を付き、のぞき込むように言う。



挿絵(By みてみん)

「え……ぁ……」

「……ボクは彼女を気に入っていていましてね。無理矢理奪ったっていうなら、お仕置きが必要かな……?」

「あ……なた……は……27年と……言ってるけど、嘘、でしょう………名前と、いい……そんなはず……」

「ははは、ボクの歳は関係ないよね。アオカさん? 彼女に危害を、加えましたか?」

「……、っ……」



 ごくり、と。


 優しい少年の笑みには、まるで殺気がない。

 月明かりにそれが美しく、逆に恐ろしい。

 青の少女は、物理的に生唾を飲む。



「で……どうなんです?」

「本当に……い、いた、だいたのです……。私が、オールドトレントに襲われていた時、あの方に助けていただいて……」

「襲われていた? オールドトレントに? アオカさんが?」

「助けていただいた後……私が頼み、譲り受けました……」

「……、……。アンティさんは、何か言ってましたか?」

「ぜ……"絶対に、悪用するな"……と」

「!」



 驚きを照らす月光。



「…………はは、ははは」

「……!」

「………はは、ははははははははは!!!」

「……っ!?」



 ギシリ……。



 わらう。

 小さなエルフの少年は笑う。


 哂う。 呵う。 咲う。



「ははは、くくくっ、しっし……ぜっ、善意でっ、あげちゃったのか……! くっく……!」

「……、……ミラーエイド、殿……」

「な、なんです、か?」

「その……大笑いは、レディを押し倒している時は、御遠慮を……」

「ああ!!! これは失敬っ!!!」



 ギ、し……!!



 "穢れし血族"と言われる者にも、心臓はある。

 その証拠に、ドクドクと胸は鳴り響いている。



「ははは、くっはははは……!」

「……ぅ……ん」



 自身の胸の音にクラクラしながら、

 机より身を起こした彼女。

 同時に、癒しのエルフはソファに腰かける。



挿絵(By みてみん)

「はぁ……すみませんでした。アオカさんは、何も悪いことをしていませんね」

「あっ……、当たり前です! 私の立場を良くご存知でしょう!? この身で積み上げてきた信用があるのです……! ぷ、プレミオムズの方に手を上げるなど……!」

「しかし、やれやれ……アオカさん、しでかしてくれましたねぇ……」

「……えっ!?」



 今のアオカには、彼の静けさの異常さ(・・・・・・・)がわかる。

 真実を照らす月が、こちらを覗いている。



「彼女は……ゆっくりとボクが口説き落とすつもりでした。あ、勘違いしないでくださいよ? ボクは歳上のお姉さんがタイプですから」

「……っ! あの"郵送配達職(レターライダー)"の方が"精霊花(トレニアイズ)"を持っていると、以前より知っていたのですね!? 何故……!! 私達に教えてくださらなかったのです!?」

「確証がありませんでした。そちらこそ、なぜ勝手に森に入ったのでしょうか?」

「そっ、それは……!」

「自惚れないでください。貴女方は吸血鬼の力を落としている代わりに日光の下を歩けるのです。そんな事は永年の生活でわかってらっしゃるでしょう」

「でも……! あの森の違和感は……! たどり着けない場所を特定すれば……! そのエリアが……!」

「……近くまで行き、そこで……あのクルルカンさんに出会ったのですね?」

「……そ、うですっ!」

「何故、アンティさんが貴女に花束を贈ったと思います?」

「え……?」

「"花が咲いている場所"に、近づけたくなかったからですよ」

「……──あ……」

「やれやれですねー。しっかりしてくださいよ、アオカさーん。ボクよりずっと歳上なんですからぁ……」

「あっ、貴方だって……!! 本当の年齢を隠しているくせに……!!」

「おやぁ──!!! あれぇ──!!? 何のことですかねぇ──!!?」

「こっ……!? この人はぁああ〜〜……っっ!!」

「それで……光は失われていないのですか?」

「……!! ……、……。今の所、枯れる様子は微塵もありませんわ。大幅に研究を進める事ができるやもしれません」

「……すごいな」

「え?」

「そんな物が咲き乱れているなら、エルフの国ができるよ……」

「あ、貴方……」

「……参ったな」

「……場所は、お教えしますから」

「ダメなんですよ。アンティさんは隠したがってる。ソコにボクがいきなり行ったら、アンティさんが困るじゃないですかぁー……」

「あ……貴方は……! 自分勝手なのか誠実なのか……ワケがわかりませんわ……!」

「あああぁー……やらかしてくれましたねぇーアオカさん……っ! そんな情報知らなかったら、何も気にせずに確認に行けたのにっ……!!!」

「なっ……! 行けばいいじゃない……」

「だからダメですってば。ボクはあのクルルカンさんが気に入ってるんですよ──!!!」

「なんなのよお〜〜!!! じゃあ、狂銀さんの方に貰えばいいじゃない!!! 服にたくさん生えていたわよ!!!」

「え……? "狂銀さん"って……どなたです???」



 シュバっ……!!



「……お嬢様、ユユユ様。ミート・スパゲッティが出来ておりますが……如何なされます?」




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