パイロッターズ さーしーえー
『>>>どうだい?』
『────よい調子です。』
クラウンちゃんの体の規格が変わったので、
新しいボディスーツをふたりで設計してみた。
前は"はぐるまのドレス"みたいだったけど、
今回のは"パイロットスーツ"って感じだな。
カラーリングは、けっこう後輩ちゃんの鎧に似てる。
手と足が金色、胸と胴が白っぽい。
む……少しボディ・ラインを出し過ぎたかな……。
『>>>あ──……、ぼくが接続すると、表示されるウインドゥが透明から金色になっちゃうな……。見にくくないかぃ?』
『────提示情報に誤りがなければ:問題ありません。』
『>>>回線速度は? 少し手の接続路をいじってしまったけど』
『────良いですね。
────指を使うのではなく:直接流路入力するゲインは大きい。
────流石です:カネト。』
『>>>何だか申し訳ないな……』
前のミトンみたいなお手手も可愛かったけど、
明らかに演算できる情報量が上がってるからなぁ。
クラウンちゃんの手は、直接コンソールに、
木の根が張るように展開している。
キーボードと手が一体化してるって言ってもいい。
『>>>"囚われのお姫様"──……』
『────カネト。
────あなたが後ろに座った感触を確かめたい。
────着席してください。』
『>>>あ、うん……』
クラウンちゃんのボディ改修に伴い、
"幻影のコックピット"も少々改造した。
が、基本コンセプトは変わっていない。
言うならば……"密着複座式"だ。
『>>>……ぼくのスーツも作る必要、あったか?』
『────私だけは:ずるいですよ。』
『>>>……あれ、もしかして恥ずかしいの?』
ぼくも、かなりピッタリとしたボディスーツを着ている。
クラウンちゃんとお揃いで作らされた。
別に、この黄金の義手だけ露出していれば、
サポート行動に問題ないと思うんだけどなぁ……。
『>>>よい、しょっと……おとと』
『────むっ。』
『>>>でっかいポニーテールだねぇ』
彼女は少し背が伸びたので、結構、圧迫感がある。
まぁ、座席には多少段差があるし、
目の前の風景を阻害するほどじゃない。
彼女は、ぼくのお腹にもたれかかる形となる。
前と一緒。
『────仮接続を申請します。』
『>>>今かぃ? どぅぞ』
『────セブンスティル:
────スピナイゲルへの接続試験:開始──。』
ヒュン──……、
カチ カチ
カチ カチ カチ
カチ カチ
……ヴゥウウオオンンン……!!
彼女の七本のポニーテールが、
ぼくの黄金の左手に接続される。
輝く血のようなものが、高速で循環する。
ぼくの視覚に、彼女と後輩ちゃんのステータスが反映される。
目の前の、ぼくたちの空間に、たくさんのウインドゥが並ぶ。
ボディスーツには多少、演算補助能力を持たせた。
彼女とぼくの体表に、無数の光の筋が流れている。
『────アンティのステータス反映:良好。』
『>>>問題ないな。マイスナのステータスは?』
『────感度良好。やはり細部まで一致しています。』
『>>>やれやれ。相変わらず、だなぁ……』
目の前のホログラムに浮かび上がった情報を見ながら、
幻のため息を吐く。
『>>>ひとつひとつ、問題を解決しなくちゃな……』
『────慌てずにいきましょう:カネト。
────幸い:アンティもマイスナも:健康そのものです。』
『>>>ははは……あれだけ激しくケンカできるくらいだもんな?』
『────ええ。困ったものです。』
ぼくとクラウンちゃんは、シゼツに聞きたい事があった。
でも、なんかそんな事、言い出せる空気じゃなくってさぁ……。
『>>>……ぼくの事、弱虫だと思うかぃ?』
『────ふふふ:とんだヘタレですね。』
『>>>こらっ』
クラウンちゃんと話し合い、
とりあえず今度でいいかな、ってなった。
……もしかしたら、ぼくらは、
無意識で、新しい情報を怖がったのかもしれなかった。
『>>>よし……根幹デバイスも全部問題なく循環してる。クラウンちゃん、わかってると思うけど、これが完成したら、そのままデータを複製して、先生とローザに譲渡するからね?』
『────:……了解しました。』
『>>>な、なんだぃ? 不服かぃ?』
『────そ:そんな事は……。』
『>>>まぁ……今まで必死こいて作り上げた流路術式だ。ポン、と人にあげるのは、ふんぎりがいるよね』
『────:……。
────あなたは……。』
『>>>ん?』
『────"ローザ"の事は:何とも思わないのですか。』
『>>>へっ……?』
『────:……。』
それって……恋愛対象として、かぃ?
……。
『>>>……記憶、消えちゃってるみたいだし、さ』
『────:……。』
『>>>それに……あの時は、そんな事……気にしてる余裕が、なかったからな……』
『────。』
『>>>……今のぼくには、きみがいるだろぅ?』
『────カネト。謝罪を申請します。
────とても:申請します。
────今なら私をポカポカしても構いません。』
『>>>んっ!? いや、いいよ……何だよ急に』
『────遠慮せずとも:よいのです。
────私は今:非常にいらん事を質問しました。
────ほら:見てください。
────現在:当機は両手がコンソールと一体化しています。
────全く:身動きが取れません。
────あなたは:私の後ろに密着して座っています。
────つまり:やりたい放題です。
────さぁ:どうぞ。』
『>>>あのさぁ……きみ、ぼくのパートナーなら、ぼくの品位を喪失させるようなマネは、やめてくれないかなぁ……』
『────で:でも:こういうの嫌いではないでしょう。』
『>>>いつきみを、拘束したまましたことがある……』
『────これからすればよいのです。』
嫁さんのイカれ具合をどう矯正しようか迷っている時、
先生から通信が入った。
た、助かった……。
〘#ふ……どうだね。新しいコックピット機構の調子は……〙
『────カネトはいつでも私に:やりたい放題です。』
〘#……うん!?〙
『────もがっ。』
『>>>なななんでもありません。順調ですよ。ローザの体流なら回路の再現も容易いでしょうし、多分流用は容易いと思います!』
〘#そ、そうか。ふふ……まぁ、私たちが複座式にするかは、わからんがな……〙
『>>>ははは、そうですね。ぜひご一考を』
『────がぶっ。』
『>>>っっって!』
『────シミュレートを行いましたが:やはり専用の衣服を設けた方が操作系にアクセスしやすいようです。』
〘#ほぅ……専用の"仕事着"を作成した方が良いということか……ふ、迷うな〙
『>>>せ、先生は白衣とかじゃダメなんですか?』
〘#くっくっくっくっくっ……〙
な、何故、笑う……。
『>>>てか……いきなり噛むのはひどいじゃないか!』
『────真実を覆い隠すからです。』
〘#……で? 痴話ゲンカの原因は?〙
『>>>嫁さんが昔のこと掘りおこすもんで』
────ガンッ! がんっ!!
クラウンちゃんが、後頭部で殴ってくる。
いてぇ。
〘#ふ……容赦してやってくれ、クラウン君。私のせいで、随分とカネトキには苦労をかけた……〙
『────:わかっています……。』
そうだね。
多分、誰よりもわかってくれている。
『>>>………なぁ、先生。ぼくの墓参りしてくれて、ありがとぅ』
〘#ふ……あれは感無量だった。本人にそう言われると……不思議な気分だ〙
『>>>ははは、そっすね。はぁ……ぼくは行けなかったからなぁ』
〘#……ん?〙
『>>>先生の、墓参り』
〘#……! 私の墓があるのか?〙
『>>>あ、墓っていうか……あの雪山に、先生の氷の剣を刺したんです。墓標みたいに……』
〘#ふっ、なんだ……では、もう溶けて跡形もないだろうな〙
『>>>まーそうかもしれないですね、200年も前だ……氷の剣は、ぼくのチカラで時間止めたんで、どっかに残ってるかもだけど』
〘# 〙
────。
あれっ?
沈黙。
〘#…………………カネトキ、もう一度言え〙
『>>>えっ?』
〘#あの時の私の剣は…………剣の形のまま、時が止まっているのか……?〙
『>>>えっ? は、はい……』
それは言うなれば、
────"時の結晶剣"。
〘#……カネトキ………………探しにいくぞ〙
『>>>………………………はい?』
クラウンちゃんが、ぼくを見上げて、
パチクリした。
ヒゲイドさんの胃ががが……(´;ω;`).*・゜










