スパーク・ビューティー!!
「──ぶぁぁぁあああんんんんん!!!」
「………はぁ」
「………あはは」
「……、……」
今……夜の11ジくらいかな??
考えたら、クラウンって"じかん箱"を見ずに、
正確な時刻がわかるのよねー。
それって、けっこーすごくない?
まぁ……。
今はそれがどぉ────でもいいくらいの、
のっぴきならない事態が発生してるんだけどね……。
ダダダダダダダダダダダ………!!!
「やだぁ~~~~!!! "シルバースタイル"がいいぃ~~!!!」
「「「………………」」」
わがまま姫である。
お姫様が塔の下で、超、ごねていた。
あーぁ、ぁーあそうです。
私が住んでる塔の真下ですよ。
ははっ、寝転んで四肢で地面を打撃していらっしゃる。
これなんて必殺技?
「ふんぬぁぁああ────!!!」
「ま、マイスナ……、ぉ、おーい、落ち着きなー……」
「…………はぁ……キッティ、どうするのだコレ……」
「ぁ、あっはは……あの大人しい子が、元気に育ちましたねー」
いや、アンタ達ねぇ……。
事の発端は、ぶっちゃけギルド側の不手際である。
──ちょい前。
「私もアンティと郵送配達職するっ!!」
「──しゃいっ……!」
と、見事、お姫様への勧誘を成功させた私はガッツポーズ、
その後にキッティが、
「じゃあ、冒険者登録しなきゃーですねぇー!!」
とグイグイきた。
察するに、なんだかんだ、けっこー強そうな逸材(ぜったい私とセットにされてる)を、ギルドに囲っておこうという思惑があったと思われ。
ここでキッティは、前回の失敗を踏まえて、しかし壮大にやらかした。
「──見てください!? 前は"うっかり"でアンティさんを至高の存在「やめんか」に仕立ててしまった私ですが、今回は10種類全てのギルドカードを倉庫から掘り起こしてきました!! これで誤登録のしようがありませんよ!! エッヘン!!」
鼻高々に胸を張るキッティ。
机に並べられた全てのランクのカード。
悲劇は起きた。
「えと……アンティの、どれ!?」
「私? 私ねぇ……これなのよぉ」
「──じゃあ、隣の銀色のにする!!」
この時に、全員が"しまった!" と思った。
お姫様はにっこにこである。
ギルマスは義務を果たした。
「ちょ……シルバースタイルランクなんて、いきなりSランク指名できるはずないだろ……」
「 え …… 」
マイスナの顔が絶望に。
そっからマイスナとヒゲイドさんがケンカになった。
「わたし、強いもん!! アンティに負けないもん!!」
「ば、バカものぉ!! 立場を鑑みろ!! これ以上問題抱えてたまるかぁ!!」
……ヒゲイドさん、超本音だった。
「「 あっはは…… 」」
いや、キッティ。一緒に黄金の愛想笑いしてっけど、
アンタこの状況に、一枚も二枚も噛んでっかんね……。
なぜに、最初に全てのランクカードを見せた……。
お姫様は、もう銀色にすっかり、ご執着なのよぉぉぉぉ。
食堂の些細な口ケンカに慣れっ子の私は、
傍観してたまにしか飲まないコーヒーを味わっていたが、
事態は思わぬ方向に転がった。
「よぉ───ッッし!! そこまで言うなら実力を見てやろうではないかぁ!!! お前ら、まだ眠らんだろう!! 今からホワイトキューブで実力を見てやる!! 本当に実力があるなら、シルバーでもゴールドにでもしてやるわぁぁああ!!」
「やったぁぁあ───────!!!」
「ちょ……!? ぎ、ギルマスぅぅぅううう!?」
「くるのだ、キッティ!! お前も道連れだあぁぁ!!」
「そ……そんな……!? わ、私の安定した人生がっ……」
「ヒゲイドさん、けっこー大人気ないトコあるわね……」
どうにでもならんかいと思いつつ、
みんなで移動する。
……! へぇ……!
いつも暮らしている塔の真下に、
こんな真っ白の地下室があるとは知らなかったわ!
"ホワイトキューブ"。
ヒールスライムを加工した素材で構成された部屋で、
様々な衝撃を吸収し、即座に回復効果ももたらすとの事。
腕試しや、格闘訓練に使うための、高級な施設らしい。
ヒールスライムに縁があんなぁ……。
で、結果。
「ふんぬぬぬぬぬぬぬ……」
「「「…………」」」
あかんかった。
『────わずかに:電撃は発生しています。』
『>>>安定した"電離法"の能力って、どんな規模のものなんだろうねぇ? 言葉通りの力の使い方だと思うんだけど……』
〘#ふ、ふぅ……なんとか抜け出せてきた……〙
『>>>あ、先生、お帰りっす』
〘#うむ。ここで歓迎会をして貰えるとは、思っていなかったな……やはりあの二人は花魁なのか……?〙
あ、先生が飲み会から開放された。
ちょと。
あなたのマイスナちゃんが、大変ですよ。
「で、できないぃ……!」
「……なんだか、拍子抜けだな……4年前は電撃の威力に戦慄したものだが……」
「あはは、ちょっとビリビリしてましたね?」
「ま、マイスナー。今日はそろそろ遅いからやめとこー」
「う、ぅぅううう……!」
……お姫様、泣かんとって。
みんなで上に戻る時に、巨人がいらん事を言った。
「しばらく、留守番でいいんじゃないか?」
これが、姫のハートをブレイクした。
「るす…………ばん?」
「いや、だってお前……足引っ張るだろう」
「……──!! ~~~~~~!!!!!」
「ちょ、ギルマス……!!」
「い、言い方!!」
「────ぶぁぁぁぁああんんん!!!」
……ヒゲ、ギルティ。
そして姫は、地下からの階段を登りきり、
仰向けになって床を打撃し始めたのである。
えぇ、えぇ、それはもう、激しく。
ダダダダダダダダダダダ…………!!!
「しるばーがいいぃぃぁぁあああ!!!」
「もぉぉおお!! ヒゲイドさんのバカぁ!! なんでそんなズバンと言うのよぉおおおー!!!」
「ば、バカものぉ!! お前の配達速度はどうせ魔物ぶっとばしながら森を突っ切ったりして出しているんだろぅ!!」
「──ぐっ!?」
「そんな中、毎度あんなビリビリするだけのお姫様を護衛しながら配達するというのか!? リスキーすぎる!! 実力差を考えるとおウチで大人しくしていろと言うのは当たり前だ!!」
がっ……!! ぎ、ギルドマスターらしい事を……!!
「この際言うが、俺はお前の実力を非常に高く買っている!! 時限結晶の事さえ無ければ、本当にSランク冒険者として王に推薦してやってもいいくらいだ!! それほどに、お前は単騎としての実力に優れているし!! 何より心持ちが良い!! 心身共にバランスが良いのだ!!」
「な、なな、何よ急に……!?」
「だが!! この娘は明らかに心も体も未熟だ!! 見ろ、あの打撃を!! オマケに頭には、お前とお揃いのヤバい伝説級スキルを秘めた宝石まで付いてやがる!! こいつの実力不足で、どっかのアホに二人とも捕えられたりでもしたらどうする!? せめて自衛できるくらいの実力がないと、お前の側になどおけん!!!」
「ぅ……! うぅ……」
そ、そりゃ、そうかもしんないけどさぁ……。
「おい紫電……いや、マイスナよ!!」
「っ……!!」
「お前、アンティに助けてもらったと言ったな!! そいつに対してお前がやるのは、隣で足引っ張って重りになることか!?」
「ち、ちがう……!!」
「なら、お前が隣にいるメリットはなんだ!! こいつはな……、助けられながらも、いつも一人で頑張ってきたぞ!! お前のように、寝転がってバタバタ騒ぐだけのヤツとは違うのだ!!」
「!!!」
「ちょ……! 言い過ぎだって……!」
「アンティさん……」
「! キッティ……」
「ここは、ギルマスに任せましょう……」
「で、でも……」
マイスナは、雷を受けたように、
塔の下で座り込んでいる。
ドニオスの優しい魔王は、見下ろしていた。
「……お前がいくら望もうとも、わがままだけでは筋は通らん。お前に、わがままを貫き通せる実力がなければ、俺は認めんぞ」
「……! ぅ……」
「アンティのそばに居ていいのは、アンティを守れる存在だけだ……!」
……、ヒゲイドさん……。
「……! アンティを、まもる……」
「そうだ。それが、"相棒"ってもんだ……!!」
「──!! 相棒……!!」
〘#ふ……中々熱いギルドマスターのようだな……〙
『────肯定。この方がドニオスのギルドマスターで:
────よかったと:判断します。』
『>>>……ま、ちょっと目覚めたてのお姫様には、厳しいけどね……』
「私が、アンティを、守る……」
「……そうだ。お前が守られるだけではいけない。お互いに守り合う関係に、今のお前で、なれるのか?」
「……、……!!」
「4年前のお前は、彼女を守ったのだろう?」
「 」
あ……。
「……」
「……やれやれ。今日はもう遅い。はやく寝て、基礎の訓練から……」
「────"ありがとう"って、言われた」
──!
「「──……!」」
「……あの日、アンティに、ありがとうって、言われた」
「……マイスナ」
「毎日の地獄の中で、それだけは忘れたことがない」
「「……!」」
「──私のやる事が、わかった」
白のドレスの彼女が、立つ。
「 私のやるべき事は、アンティに"ありがとう"と言われる事──…… 」
……────ピシッ、、、
ピリッ√レ────……、、、
「────!」
「これは……」
「……"紫電"……?」
バチ、バチバチバチ……!
ビリビリ、ビリビリビリ……!!
「「──!!」」
「マイスナ……」
「わたしは……────!」
それは、蛇のような、閃光。
それは、根のような、稲妻。
それは、紫に染まる、雷電。
────さぁ、なすがいい。
「──"ありがとう"を、お返しするっ!!!!!」
ビビビビビビィィィィィィィ───!!!!!
────白銀の姫は、放電する──……!!
──── ── ─ カッ!!
「 ──ぃぃぃいいいえええるるるでぃぃいいいいいいいいいいッッッ!!!!!! 」
「「「──!!!!!」」」
マイスナの放電は、塔の内部空間を、白に染めた。
それは嵐の最中である。
「「なっ……!?」」
「 ……──ダイさん 」
< あぃなっ♪ >
デカい雷が、龍のようにこっちにきた。
ギルマスとキッティの前に入り、
フライパンを構える。
アホ、マイスナ。
当たったら、危ねぇだろが。
──────キィィンン!!!
──雷を、かき消した。
バチバチバチバチバチィィイ──!!!
「な……!? アンティ、今、どのようにして……」
「ひぃぃやぁああ!!」
「ヒゲイドさんっ!! このフライパンを持ってて!! これ、すごい攻撃を防げるからっ!!」
「なっ!! なっ!? おっ!?」
ヒゲイドさんに、ダイさんを渡して、マイスナの方を向く。
…………!!
あんの、雷姫……!!
雷に支えられて、宙に浮いてやがる……!!
『────"バーストスパーク"を確認。
────磁場フィールドが形成されています。』
『>>>おいおいおいおい……! もうアナライズホロコーティングは終わっている! 電撃の無効化は任せろ! じゃ……、ちょっとあの子止めてきて』
〘#……、なんということだ……〙
は……先生の狼狽もわかるってモンだわ……。
40メルトルテの塔の空洞、その中心。
壁際からは、マイスナに伸びる無数のイナビカリ。
狂銀ちゃん?
ドニオスを滅ぼすつもりですか?
「……──マイスナぁぁ……!!」
「 」
「な、なんという電撃だ……!!! 4年前とは、比べものにならん……!!!」
「ひゃわわ────!!!!!」
< 安ちん!! 行きぃ!!! >
……! よぉし……!
「……まったく。世話がやけるわねぇ……!!
クラウン!! 重力制御──!!!」
『────レディ。
────"重力機構":起動。』
──きゅぅううおおおおあああんんん──……!!!
金の装甲の下で、いくつもの遠心力が発生する。
私の体重は、相殺される。
ふわ……。
「!! アンティ……!?」
「あ、アンティさーん!!」
だいじょぶ。
だいじょぶだから。
「光量がウザい。視覚保護、遅いわよ。接近して」
『────レディ。』
『>>>すまない。熱量検知を先行していた』
〘#……なるほど。度胸のあるチームだな……〙
先生にお褒めいただきながら、
空中でビリビリやってるお姫様に挨拶にいく。
……きた。
……めっちゃ、光ってるわ。
「……はぁい」
「……アンティ」
「この街、吹っ飛ばす気?」
「……! 違う」
「あんたでも、引っぱたくわよ」
「……」
「……大丈夫?」
「わかんない。でも、怖くはない」
「……」
オオオオオオオオオオオオオォォォ────……!
『────分析完了。
────対象:マイスナの全身体流路の活性化を確認。
────スキル効果がオーバーラン中。
────身体損傷:見受けられません。』
『>>>お姫様の癇癪にしては、ずいぶんと神々しいね。後輩ちゃん、紫電ちゃんもよく聞きな。それは暴走じゃない。起動したんだ』
「……!」
「……! "起動"……?」
『>>>──ああ。きみ、本来の、力の使い方がね』
──!
マイスナ本来の、チカラ────……!
『────マイスナ。願いなさい。
────あなたは:もう出来るはず。
────それは:意志の力。
────あなたが望む:未来を勝ち取るもの。』
────クラウンが、唄う。
「わたしが……望む……」
「……ふ、マイスナ。やるならはやくして」
「! アンティ……」
「……はやく終わらせて、お風呂入って、寝ましょ?」
「……! ふふふ……うんっ!」
──ギィン……!
──ギィン……!
──ギィン……!
──ギィン……!
──ギィン……!
──ギィン……!
───ギィィイウオオオオンン──……!!!
────塔が、光っている。
……サラサラ────……!
……サラサラ────……!
「───!!! そんな、バカな──……!?」
「──!? ぎ、ギルマス!?」
「見ろ、キッティ……!!」
……サラサラ────……!
……サラサラ────……!
「……!! なんか……塔の内壁が、光りながら解けてないですか……!?」
「あ……!! ありえん……!!」
何故か、ヒゲイドさんの声は、
この紫電の光の中でも、よく聞こえた。
「ありえんのだ……!! この龍見の塔は、"百光"という特別なミスリルで出来ているのだぞ……!? 破壊など、不可能なはずだ……!! 一度硬化したら、絶対に破壊など……!! それが、こんなっ……!?」
『────龍見台の構成金属の:分子配列変換を確認。
────磁場フィールドによって展開しています。』
『>>>これさぁ……もしかして、金属なら何でも組み替えれるんじゃないの……?』
〘#ふ……元、化学教師でも、この現象はびっくりだな……〙
……!
……はは……。
……なるほどぉ。
──おあつらえの金属は、てめぇらの足元にあったわけだ──。
クソまぶしい光の中、
わたしは、かのじょに微笑んだ。
かのじょも、微笑み返した。
「 ── マイスナ。やんな。 」
「 ── あなたを、まもる。 」
─────ゴォォオオオオオオンンン!!!
ドニオスの白き塔を構成する、神秘のミスリル。
それは、紫電の力によって崩壊し、
彼女の望む形となって、再構成される。
"電離法"。
その本来の力は、
"物質を電子的に崩壊させ、創りなおす"、能力である。
────── ギ ィ ン !!
白銀のドレスに、装甲が生まれ出す。
────── ギ ィ ャ ア ン !!
白銀のドレスに、銀翼が生まれ出す。
────── ギ ィ ュ ォ オ ン !!
銀髪の少女が、光を増していく。
変わり行く彼女に、私は、語りかけよう────。
「 ……いっこ、先輩として、教えておくわ 」
「 ……? 」
「 こういう時は、こう、言うのよ── 」
「 ……なんて? 」
「 ふふ……"変身"、ってね? 」
「 ──!! 」
────白銀の鎖が、天使の輪のように、回る。
〘#……──マイスナ。私の力を、全てやろう〙
「……!」
〘#では……はじめようか〙
「……はいっ……!」
彼女は、手を、顔に掲げた────。
──── し ゃ あ !!
────── い け ぇ ぇ え え え !!
「 ──── " へ ん し ん " 」










