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とんかつ さーしーえー

(*´﹃`*)。・:+°



「……生きてるの?」

「……生きてるよ」



 マイスナが、ここを天国だと思ってる事が判明した。

 いっしょに死んで、あの世のお(ウチ)に来たと思ってたらしい。

 な、なるほど。

 確かに、こんな地上から40メルもある、たっかい家に、

 いきなり二人でいたら、そう思うかもしれない。


 ここはドニオスの街にあるギルドの真上にある家で、

 私たちは、しっかり生きていることを、伝える。



「……」

「……」

「……なんで?」

「助けたもの」

「ほん、とに……?」

「ふふ、黄金の義賊なめんじゃないわよ。狂銀だって助けちゃうんだから!」


 マイスナはポカンとしている。

 本当に綺麗な子で、眩しい白銀の髪だ。


「でも……どうやって?」

「え、……っと。説明が難しいんだけど、ね。私の、力を制御する身体の仕組みを、あなたにも使えるようにしたと言うか……」

「ふ……む……?」


 首を傾げていらっしゃる。

 サラサラと、銀の髪が流れる。

 おでこの上の方に浮いている、

 輝く紫の宝石には、ぜったいまだ気づいてないわね。

 ……ふふ。まるでお姫様だ。


「……お腹、すいたでしょ」

「……!」

「食べたいの、ある?」

「……とんかつ」

「──トンカツ!?」


 ……。

 まぁ、いいか……。


「よしょ……」

「!」

「?」


 ぱしっ。


 ベッドから降りようとしたら、

 手を掴まれる。


「どしたん……?」

「ほんとに、生きてるの……?」

「! ええ、生きてるわ。その……」

「?」

「あ、あったかかった、でしょ?」

「! ……うんっ……!」

「……へへ」


 涙目だったので、ヨシヨシした。


「さぁて」


 アンティ、立つ。


 えーっと……。

 服! 服を……。


「?」


 ……二人分!


『────レディ(準備完了)

 ────着衣を二名分:射出します。』


 きゅぅぅううんん……。


 ──パサッ。


「!」

「ふふ、驚いた?」


 ベッドの上に座るマイスナのそばに、私の私服が出る。

 あ……、肌着もか……。


『────抜かりありません。

 ────アイテム名:"ごーるでんぱんてぃ"も:

 ────二点:射出しています。』


 う、う──ん。そうなるよねぇ──……。

 クラウンの洗濯技術(?)を疑ってるわけじゃないけど、

 いつも使ってる肌着を他の子に貸すのって、

 いち乙女としては、何だか気恥しいな……。


「……きんいろだ」

「ぉあぁ」


 マイスナが、ごーるでんぱんてぃを持って、

 ビョンビョンしていた。


「そ、それ、はいてね。きれいだから」

「これ……いつもアンティが、はいてるの?」

「ん……そ、そぅよ。いっこ投げて」

「ぅん。えいっ」


 ぐぐっ、──ぴゅーん。

 

 ……!

 パンツのゴムを利用して、

 ゴム鉄砲みたいに飛ばしやがった。

 こりゃ。ヒモ伸びるやんけ。

 しゅるりとはく。

 マイスナがシャツを持ってきてくれた。


「……よくわかったね」

「何となく」


 後ろから袖を通して、着せてくれた。

 ……なんか妙な感じだわ。

 はは、あなた、私の憧れの人なんだけどなぁ。

 こう見ると、ただの女の子だ。


 ショートパンツをはこうと思って、ちょっと思い止まる。

 ……いらんか。窮屈だもんね?

 せっかく女しかいないんだし。


「てかアンタは、はやくソレ着なさいな」

「恐れ多いです」

「なにがじゃ!」


 そのぱんつは神ではないっ!


「も~~っ。風邪引くわよ?」

「こんなあったかいのに風邪ひかない」

「まぁ、そりゃそうかもだけど……?」


 あったかくなってきたもんなぁ……。


 ……きゅううん!


 なんかあきらめて、エプロン出して、付ける。


「……金色の輪」

「そ。"歯車法"。私の力。」

「……"はぐるまほう"?」

「ぅん。あ、今は違うのか……」


『────肯定。

 ────現在の当スキル正式名称は:

 ────"電鎖歯車法(でんさはぐるまほう)"です。』


「……! また聞こえた……」

「そぅか! マイスナにも、クラウンの声が聞こえるのね」


『────初めまして:マイスナ。

 ────私は歯車法常時展開型基幹デバイス:

 ────クラウンギア=Ver.アマテルです。』


「よ、よろ、しく?」

「あぁマイスナ、ここ。この子。この王冠がしゃべってんの」

「おうかん? それ?」

「そ」


 色々、私の能力について、

 教える事や話すことが多そうね……。


「アンティの、スキル……なの?」

『────はい。

 ────今は:あなたとの共有スキルでもあります。』

「……???」


 おおぅ……。

 この二人がおしゃべりする日がくるとはね。

 なんか不思議な感じだわ!


「おんなのこですか……?」

『────はい。そのように設計されました。』


 ふむ、この調子でクラウンに任せよう。

 私は料理に励みますか……!


「トンカツか……まぁすぐか」


 私の時限結晶(ストレージ)内には、下ごしらえした料理がビッシリだ。

 切れ目を入れて、ぶっ叩いてソルト&ペッパーまみれのオーク肉スライスも、もちろんある。


『────つまり:

 ────あなたの"電離法(ぷらずまほう)"と:

 ────私たちの"歯車法(はぐるまほう)"を:

 ────計画的に同期融合させたのです。』

「く……くっつけちゃったん、ですか?」

『────そうです。くっつけました。』


 うーん。

 がっつりだと……ヒレじゃなくて、ロースかな。

 マトモなご飯、ぜったい久しぶりだろうからな、あの子……。

 後は、水気を切ったお肉に……薄力粉、卵、パン粉の順。

 卵は歯車の回転で一瞬で溶き卵。いぇーい。

 パン粉の二度付けは基本だけど、私はあんまり衣が厚いのは油っこいので好きじゃない。

 ちゃんと二度まぶすけど、ここで腕の差が出てくる。

 五フヌほど馴染ませて……。


『────あなたの力を制御するために:

 ────あなたの身体を変換させたことを謝罪します。』

「そ? それは、いいです……制御?」

「ふぅ……クラウン。結局、"電鎖歯車法(でんさはぐるまほう)"で何ができるようになったの? あんたも無事みたいでよかったけど……歯車の感じとか、ぶっちゃけ前と変わんないよ?」

『────スキル"電鎖歯車法(でんさはぐるまほう)"は:

 ────その第一優先意義に:ふたつのスキルの融合が含まれます。

 ────完全制御下の元:お互いのスキルを使用する事ができると予測しています。』


「「──!」」


 それって……。


「マイスナにも、歯車が使えるってこと!?」

「えっ!」

『────恐らくは。

 ────少なくとも:流路上の予測演算では:

 ────可能と判定されています。』

「ええ、すげぇ……ってことは、私もマイスナのちからを使えるの……?」

「……! アンティが、わたしの……?」


『>>>もぐもぐ……。まぁ、そこら辺は実際に実験だねぇー。制御下に置かれた"電離法(ぷらずまほう)"の能力を、まだ具体的に誰もわかってないからねー。やっぱ、一度使ってみなきゃダメだよー』


「んっ!? だ、誰……?」

「ょお……逃走者ぁ……」


 手元に、元呪いの仮面を出す。

 ピカー。


「……何か、私に言うことは?」

『>>>……あのシーンを直視しろと?』

「ぬ、ぬなっ……だからって何かあるでしょう!?」

『>>>あのねー!! 今もぼくは目を閉じてんだよォー! ちゃんと服きせてよー!!』

「ぐっ……!! ま、マイスナ! あんたなんでまだ裸なのっ!?」

「えー」


 えーじゃねぇわ。

 んもお!


 ──きゅるるるるる!!


 ぶわっ、バサッ。


「わっ!」


 白金(しろがね)劇場幕(げきじょうまく)を、

 全身をスッポリ覆うマント型にして、マイスナに被せる。

 アレだ、"アンティラ様"ん時の形状ね。


 ───きゅる、カチン、カチン!


「お、おもい……」

「んー、はよ服きなー。あ、これ持ってて! ダイさん! 使うよ!」

< おこしやすぅ~~♪ >

「クラウン! ナナナ油!」

『────レディ(準備完了)。』


 ジョワワワァァァアアア……!

 ボッ!!


 ダイさんのフライパンって、

 少しだけ大きくできるのよねー。

 はは、確かに魔盾と呼べるかも……。

 大きくした白いフライパンに、歯車から熱した油を出す。

 この手間の省略が、料理人にはたまらない!


『────ナナナ油:167ドです。』

「おーらぃ♪」


 ジョワぁ~~!!

 ジョワぁ~~!!


「……仮面だ」

『>>>やぁ……こんにちは。うおっ、はやくマトモな服着てくんなぃ?』

「……誰ですか」

「初代、クルルカンよ」

「──!!」


 黄金の仮面を持っているマイスナに、教える。


『>>>よろしくねー』

「クルルカンって……ホントにいたんですか?」

『>>>あはは、そうなるよねぇー』


 わかるわかる。

 私も最初はそうなった。


「と……サキ」

【 きゃべつ(・・・・)、やな? 】


 ごめいさ~つ♪

 さっすが、我が家の食堂の歴史を見てきた包丁!


 きゅおん!


『────アイテム名:"光るまな板"を射出。』

「よと……」


 しゅたたたたたたたたたたたんん

 しゅたたたたたたたたたたたんん


「包丁見えない!?」

『>>>すごいよねぇー』


 氷水にさらして……、と。


「クラウン、一回目、あげるわ。余計な油を切って」

『────お任せを。』


 ……きゅぅぅううん! 

 普通なら一度揚げのあとは、網に縦に置いて油を切る。

 これをバッグ歯車の格納でやるので、

 満遍なく油切りが出来るに決まっている。

 この間に油を高温にするのは、

 私の料理に付き合ってきたクラウンには、

 もう手馴れた作業と言える。


『────ナナナ油:181ドです。』

「よっと」


 ジョワワワ~~!!!

 ジョババ~~!!! 


 二度揚げの数十ビョウの合間に、

 とんかつのソースを作る。


「クラウン」


『────ウスターソース:大さじ2杯。

 ────ケチャップ:大さじ1杯。

 ────みりん:小さじ1杯。

 ────調合します。』


 ……きゅぅうん。タパパパ。


 ウチの調味料の知識は、

 誤発注を繰り返す、おマヌケなバイトさんのおかげで、

 普通の食堂とくらべりゃ卓越してる方だ。

 ふふ。混ぜるだけで簡単、美味しい。

 実は父さんらは、そこだけはプライス君に感謝している。

 

「いいオレンジ色ね」


 すぐに上げる。

 あれだけジュワジュワ鳴っていた油がスッ、と静かになるのは、けっこう神秘的だと思う。


「イニィさん」

{{ はいはーぃ♪ }}


 光るまな板の上で、フォークでカツを押さえて、

 バツバツ切る。




 光るまな板の効果発動!▼


 アイテム名【 とんかつ 】

 1ジカ:スタミナ+30




「クラウン、先輩の仮面を煮沸消毒」

『────レディ(準備完了)。』

『>>>え、ちょと!? おっ!?』


 ──バシュ!! ぅぅう……。


「わっ」 

「マイスナ、それでキャベツの水切りして」

「わかった!」

『>>>え、ぼくで水切んの。いや、そりゃ目の穴空いてるから上手に切れるだろうけど……。きみ、その頼まれ事に何か疑問を持たないのかぃ……? ──ちべたっ!!』



 水責めじゃ~~。


挿絵(By みてみん)

「うう、えぅ、おいしい、おいしぃ……!」

「……ゆっくり、たべな」




 マイスナは、とんかつを泣きながら食べた。


 ソース……しょっぱくなっちゃったかな。

 

 

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