マジヤル気100% さーしーえー
(๑꒪▿꒪)……?
ほどよく薄暗い、雰囲気のいい酒場で飲んでいると、
イカれた髪型をした、ガタイのいいオッサンに絡まれた。
大きな盾を持っているようだ。
カラン……!
「ぷぃ〜〜……よぉ。
お前さんも、中々、美味い酒を飲んでるじゃねぇかぁ。
ゴグッ、グビっ、ガブッ、ぷはぁ〜〜……!」
……。
「──はっ! そう睨むんじゃねぇぜ。
酒場ってのはよ、こういう出会いも……まぁ一興さ。
お前も、さっきのクエストに参加してただろぉ?
ほら……この髪型に、見覚えはないかぃ……?
はっ……!! ロックだろぉ?」
……。
「ふぃぃぃ……。今日は、冷えるよなぁ……。
こういう日には、オレぁよぉ、
あの、雪の日のクエストを思い出すもんさ────……」
……。
「……あぁん? ……"話してみろ"ってか?
──はっ! 酒の肴にしようってか。
おぉし……! そーぉうこなくっちゃなぁ……!
その一杯は、オレが奢るぜぇ……?」
──キン。
「……オレぁなぁ、
"オルリーゼント・ハイ・ロウ"ってもんさ。
──は っ は っ は っ は っ は────!!」
……!
……。
「はぁ……まぁ、オレの名前なんざぁ、どうでもいい。
今でこそBランクの重盾職として何とかやってるけどよ。
オレにも、このロックな髪型になる前には、
"ヒチサンワケ!" ──の、
"ベリベリCherryBoy!" ──の時代があったのサ……!」
…………。
「そんなガキンチョの時のオレが受けた、クエストの話さ……」
──カラン。
「ガキなりに、ちょっとばかし実力がついてきたかと思ってた頃になぁ、"パートリッジ"って街で、"緊急クエスト"が起きた。さみいとこでよ」
……、……?
「ああ。突然ギルドから依頼されるヤツさ! たまたまオレは街の手伝いに来ててよぉ。んでもって、クエストの内容を聞くと、どうやら集団での"調査クエスト"だって言うじゃねぇか!」
……。
「しかもよぉ、聞いておどろけ?
何とよぉ! その冒険者達の引率者は──、
当時のプレミオムズの一人、
"マジカ・ルモエキラー"!! その人だったのさ……!!」
……!
……?
「はっ、本当さぁ! ヒチサンワケの、ゲキアマハニーボーイだったオレは「こんな安全で楽な仕事はないぞ!」と思って飛びついたモンよ!」
……、……。
「……だがよぉ。
世の中はそんなに"ハニー・スィート・ハニー"じゃねぇ。
"ヴァルター山"って、クッッソ寒い氷の山で、
何でか、カミナリ様が止まらなくなってよぉ。
オレ達は、それを調べにいったのさ────……」
ゴクッ……ゴクッ……カン。
「ふぅい……。
最初に異常に気づいたのは、ふもとからしばらく歩いた頃だった。
クッッソ分厚い毛皮を着てよぉ。
やまない雪の中、足を取られながら、のろのろと上を目指してよぉ……なっかなか前に進みやがらねぇ」
……。
「「これ、無茶クエじゃね?」って、誰もが思い始めた時、
ドドドドド……って地鳴りが聞こえやがった」
……!
「皆、ハッと上を見てよぉ!
オレを含めて、大多数が雪崩だと思ったね。グラスを貸しな」
……。
──トポポポポポ……カラン。
「──いきなりだ。
先頭にいたマジカたんが、すんげぇ火の魔法をぶっぱなした。
オレたちの足元に、だ。
何故だかわかるかぃ?」
……!?
……、……?
「──雪を溶かすためさ。
あんな不安定な足場で、戦うことはできねぇからな。
……見事な無詠唱だったぁ。
一瞬で、オレたちの足元の雪が、ブァって溶けてよ」
……?
「……ああ。"戦い"だ。
地鳴りは、雪崩の音なんかじゃあ、なかったのさ。
"奴ら"は、壁みたいになって、こっちに来やがった。
あの時のマジカたんの叫び声を、
今でも、昨日のことみてぇに覚えてる─────……」
ドドドドドドドドドド……!!!!!!!!!!
『──てめぇらァぁぁあああああああ!!!!!
マジ死ぬ気で構えろぉおおおおおおお!!!!!
アレぇ、マジで街には入れらんねぇぞぉおおおお!!!』
……、……。
「……ホワイトバーグベアの、群れだったのさ。
知ってっか? 白戦熊……子供でB+、
大型だとAランク相当の魔物さ。
普通のバーグベアより、一回りデカいんだぜ……。
山頂で縄張り争いしてるあいつらが群れるなんて、
ぜってぇに、有り得ねぇことなんだ。
でも、そん時は横一列になってよぉ……。
みんな仲良く、学童院の運動会みてぇに、
こっちに押し寄せてきやがった。
あん時のマジカたんの叫び声は、
オレ達のクソみてぇな心臓を、バクバクと動かしやがった」
『──魔法使えるヤツを守って、3つにわかれろおおぉ!!!!!
マジで詠唱組ヤられたら、詰むぞぉ──!!!!!
ウチの合図なんて待つな!!!!!
引き寄せてからとか、マジでやめろぉぉおおお!!!!!
撃て!!! マジぶっこんで撃てぇぇえ────!!!!!』
「……あれはなぁ……"恐怖"ってヤツさぁ。
安全なはずの調査クエストが、"デスマーチ"に早変わりしちまった。
50頭はいたかもしれねぇ。
マジカたんの声は、マジだった。
オレたちは、必死に戦った」
……、……。
「混戦だったんだぜぇ……。
今考えたら、よく誰も死ななかったモンさぁ……。
逃げ惑いながら戦ってよぉ……。
逃げては一撃入れ、逃げては一撃入れ、さ……。
一発でも食らったヤツは、そのまま起き上がれなくなった。
クソなめたヒチサンキッズのオレたちには、過ぎた仕事だった。
クマ共は、散り散りになってな。
お陰で、マジカたんの魔法が当たりゃあしねぇ。
他でもねぇ。無能なオレたちが、連携できずにバラバラにしちまってた。
あのままだと、クマ共は包囲を突っ切って、街へ行っちまってただろう。
だから、マジカたんは決断した。
近くにいたオレに、マジカたんはこう話しかけたのさ────……」
『──おい、お前、盾職か』
『は、はいっ……!』
『……万能薬か、万能薬のジェム、持ってっか……』
『っ!! は、はいっ!! ジェムのほうを、持ってます……!!』
『……っ! マジか……。おいヒチサン。お前に……頼みがある』
『っ!?』
『このままだと、このクマ共はバラバラになって街を襲う』
『う……あ……どうすればっ、いいんだ……!』
『……きけ。今からウチは、ある裏ワザを使う』
『っ!? うらワザ……?』
『このクマ共を、こっちに呼び寄せる』
『!?!? そっ、そんな事が……!?』
『できる……。バラバラの白クマ共を呼び寄せて、ウチの魔法でマジでエグる』
『そんなの……できたとしても、自殺行為です……!』
『ウチの魔法、マジ舐めんな。一箇所に集まったら、マジぶっとばす。でもな……魔法の再使用までの間にクマが来たら、紙みたいな防御力のウチは、終わりだ……』
『……! ……そんな』
『……マジすまねぇが、もしもの時……。一撃だけでいい。ウチを守ってほしい』
……、……。
「……それはな。一番やべぇことに付き合ってくれって、そういうお願いだったのさ。オレは涙が出たぜ。ここが死に場所かもしれねぇってな。でも、プレミオムズがオレに頼んでんだ。オレはロクな覚悟もせずに、頷くしかなかった」
『は……い、はい……』
『……マジわりぃ。できるだけ、ぶっとばすからよ。
万能薬のジェム、食え』
『は……い』
「……よく、わかんなかったんだけどよ。
マジカたんの言う通り、オレは万能薬のジェムを口に含んだのよ。
そしたらなァ────……」
『こっ……これで、いいんですか……?』
『おぅ。それでウチの"魅了"にかからずにすむ』
『……!? "魅了"……?』
『ちっ……マジしゃあない。
ウチのマジヤル気……!! 見せてやんよ──……!』
──ォォォオオオオあああああ……!
「……後で知ったんだがよ。
マジカ・ルモエキラーって人はよ、
"ホビッツ"と、"サキュバス"のハーフなんだってよ……!?
いつもは力を抑えて、体を"ホビッツ"の方によせてんだ。
ソレをよ。"サキュバス"の方……、
つまり、魔族の方に寄せるとどうなるか───……!」
…………!
『 はぁ──……。
ウチ、マジ萌エ殺ス────……!!! 』
───ぉぉぉおおおおお……!!!
『 ……モエっ♡ 』
『 ……モエっ♡ 』
『 ────きるっ♡ 』
────カッ!!!
…………?
「……オレぁ、まぢかでマジカたんのソレを見た。
……弾け飛ぶ帽子……!
……弾け飛ぶ衣服……!
髪は紫から、ピンクに変わりやがる……!
お尻からはキュートな尻尾……!
何故かヒラヒラに変わる、ピーチカラーコステゥームっ……!
手に持ったホウキは、何故か魔王の角のように伸びる……っ!
あの瞬間、オレは魅了されてたのかもしれねぇっ……!!」
…………。
「そうよぉ──っ!!
あの姿こそ、"プレミオムズ魔法職"、
"マジカ・ルモエキラー"が魔力を解放した真の姿……!!」
……──!
「──通称、
" マジカ♡モエゴロシモード "だっっ──!!」
『 マジ……いてこましちゃるっっっ!!! 』
なぁんだ、いつもの暴走かぁ٩(ˊᗜˋ*)و。・:+°










