お試しドラゴン、ネームドタイガー
「ふぅ……」
なんとか……空中に停止することができた。
ヨロイの隙間から気流が噴き出し、私の身体を支えている。
バーニヤ部分から、炎っぽい明るさは消えているから、ひと安心かな……。
右手は相変わらずのドラゴンヘッドだけど。
『ギャウ?』
ギャウとちゃうわ。
頭の上にはクにゃウン七号機がへばりついている。
『──ニャむー。』
……このヌコ兄弟、そろそろ名前をつけた方がいいかもね。
ふと、下を見る。
「もぅ……。たっかい、なァ……」
雪の山……というか、この高さから見下ろすと、
まるででっかい、かき氷だわ。
氷の山、か……。
……。
この、どこかに、あの子が──。
「……!」
左手を見ると、銀の仮面の破片が握られていた。
……。
あのアクロバット飛行で、よく落とさなかったもんだわ……。
片側の、ツノ。
腕を上げて、よく見ようとして────。
──かくん、と。
「……っ! まだ、力が入らっ、ない……!」
『──ニャー。ムリしニャいほうがいいニャ……?。』
「ん……。あんがと、ね」
頭の上のヌコから、優しい言葉。
こいつ、こういうのズルいな。
普段、わんぱくなクセして。
『ギャウゥ〜〜……』
「……ぅん?」
さっきまでは過激だっけど、
目の前の右腕龍は、こちらの様子を窺うようにビクビクしている。
さっきのホワイトお猿さんズから、守ってくれたのよね。
……。
「あんたも、ありがとね……」
『ギャァアウゥゥ〜〜♪♪♪』
くねっている。
喜んでいるように見える。
う、う〜〜ん……。
「く、くにゃうん。クラウンとは連絡とれない? すっごい不安なんだけど……」
『──むニャー:ニャんともかんとも……。あ:二号機からは流路伝達があって:"箱庭フォートレス"近辺の空間テラトリウムは:正常復旧したニャ。通信回復には:も少し待ってほしいニャ。』
「……やっぱりクラウン、疲れて眠ってるのかな。せっ、先輩は……?」
『──ニャむー。座標が特定出来ないのニャー。多分寝てると思うニャけど……。27ビョウ前に:クにゃウンズが箱庭捜索隊を組んだニャ。今:箱庭内で、クラウンたまとクルクルのアバターデータを探してるのニャ!。』
さ!? 探してるって、何!?
クラウンと先輩、どこかに行っちゃったってこと?
……。
「よくわからないけど……みんなで探してくれているのね? え。てか、アンタは一緒に探さなくていいの?」
『──ニャーは:ドンをほっとけんニャ!。……ニャっ。ニャんニャ:その目ニャ……。さ:サボリとかじゃニャいニャんっっ──!?。今:ニャーしかドンとおしゃべりできニャいのニャ!。こここっ:ここから:ニャーがいなくなったら:さびしいニャろー??。』
「む……た、確かに」
そりゃ、アンタがここに居てくれて正直ホッとしてるけど、ホラ……あんたのサボり癖は、ねぇ……?
『ギャウウウウ〜〜?』
『──!?。ニャニャッっ!?。ニャんニャ!?。ドラゴン!?。ニャーは食べれんニャッよッ!?。エンガチョニャ──ッ!。』
えんがちょ、て……。
右手のドラゴンが、興味深そうに七号機を見ている。
けっこう顔、でかいわよね……。
『ギャウウン?』
『──そ:そうニャ!。仲間ニャ!。だから食べないでほしいニャ──!!。』
七号機が、わたわたしている。
頭の上で、まるこい手をペったンペったンしている。
……落ちんなよ?
『ギァウ! ギァウ! ギャァア〜〜♪』
『──ニャー……?。"はてニャちゃん、まもった"……?。』
「──!」
???
"はてなちゃん"?
『ギャウゥ、ギャウオー♪』
「くにゃうん?」
『──ど:ドラゴンがそう言ったニャ。『はてニャちゃん、こんどはまもった!』。そう言ってるニャ!。』
『ギャウゥ〜〜♪♪』
「……? "はてなちゃん"って、なに……?」
どゆことやねん。
私、アンティ。
あ。私の名前がわからないって、そういうことかな……?
『ギャウギャウ♪ ギャウギャウ♪』
デコにスリスリしてきた。
自分の右腕に懐かれている……へんな気分よ。
……。
「……ね、ねぇ、私……"はてなちゃん"、じゃないよ?」
『ギャウ──!? ギャウギャウン!?』
ぶんっ! ぶんっ!
「うおわっ───」
ドラゴンテイルになっている私の左足が、ぶんぶんした。
尻尾! まだ尻尾だったの足!!
『ギャウゥゥウ、ギャウゥウゥゥ〜〜!!』
「え、いや、だって……」
『──ど:ドン:アンティ……まずいニャよ……!。今:ドンの全身の流路束は:ほぼ全部このドラゴンに介入されて動かされてるんニャ。気体循環を利用したホバリング飛行もそうニャ!。ドラゴンの機嫌を損ねたら:ヘタすりゃ真っ逆さまニャよ……。』
「う……」
『ギャオ〜〜、ギャオ〜〜!』
シュ────ゴォ────… … …!!!
黄金装甲の各所、特に太ももと脹ら脛の後ろ側からは、今も圧縮された空気の滝のようなものが、下向きに噴き出している。
ていうか、さっきから、なんかバランスが安定しないような……。
怖っ。
ドラゴンさんの接待を覚えた方が良さそうね。
「……わ、わかったわ、私、はてなちゃん」
『ギャギャオ〜〜♪』
『──ふ:チョロいニャぁ……。』
おいヌコやめろ。ドラゴンさんに聞こえるでしょが。
とにかく……高度を下げたいな。
おへそ丸見えで、雪山の上空を飛ぶもんじゃーない。
ブルルっ……。
私の言うこと、聞いてくれるかな……。
「ねぇ、あなた……私を下に降ろして、くれる……?」
『──! ギャオッ!』
しゅぅぅぅぅぅ……。
「……え?」
が、くん……。
……!
あっ……そうくるか……。
「──"ニャーナ"。アンタ、絶対に私のこと、離すんじゃないわよ」
『──……"ニャーニャ"?。……ドン:アンティ?。今:ニャーのことを:ニャんと呼んだニ────……。』
────ピタッ。
ドラゴンのやつ、全身のバッグ歯車を止めやがった。
……脱力脱力。
『────ニ"ニ"ニ"ャニ"ャニ"ャニ"ニ"ャニ"ニ"ニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャニ"ャァァアアアアアァァァ──!?』
自
由
落
下
゜
背中が下になって落ち始めて、
次第に頭が下になる。
風が身体を舐める。
冷たい風は、瞬く間に心を冷やす。
肌は、凍るだろうか。
『──けっきょく:真っ逆さまニャぁぁぁあああ────!!!。』
『ギャッ、オオ〜〜♪ ギャッ、オオ〜〜♪
ギャオ、ギャッ、オオ〜〜♪』
『──歌ってる:バヤイじゃニャいニャぁぁぁあああ───!!!。』
体温が、どんどん下がっていく。
はぁ。 はぁ。
今日の私、なぁんにもいいトコ、なかったなァ……。
せっかく、会えたのにな……。
せっかく……。
『ギャウギャウギャウ、ギャギャ〜〜────ッ、ギャッッ…… ガッ…… !? 』
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▼ CAUTION ▼
お試し期間 終了のお知らせ
伝説の生物を引き続きご利用になるには、
名称認証が必要です。継続をご希望され
る場合は、個体正式名称を入力して下さ
い。
NAME_ _ _ _ _ _ _|
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『──ニャッッ──……ニャんっっ……!?。』
『 ギ ・ ギ・ ギャ ガ……、…… 』
先輩の仮面、割れちゃって……。
クラウンも、眠っちゃって……。
身体は、龍になっちゃって……。
『──ふ:ふざけるニャ!!。ニャんニャのニャ:これは!?。こんなお空でドラゴンが停止したら:そのまま地面に叩きつけられるニャ!!。』
『ギ…… ギ…… ! 』
きゅうんん……!
『──フミャアアアア!!!。七号機ぃぃい!!。いったい何してるのミャー!?。ミャオッ!?。おミャー:こっこんな危ニャいデバイスで顕現化してたのかミャんっ!?。──て:ミャアアアア!?。真っ逆さまじゃミャいかぁぁああ!!?。』
『──にっ:二号機ぃぃい!!。た:助けるニャぁぁあんんっっ!!。このままじゃ:ドンが地面にドン!。だニャァァアアア────!!。』
『──ミャアアアア!!。シャレにならミャいミャァァア────ッッ!!?。』
─────────"さよなら"────。
そう、言われた。
ツノの生えた、あの子に。
悲しい。
悲しい。
そんなの、いやだ……。
「……。"ミャーツ"、"ニャーナ"。アンタたちが出てきた歯車があるでしょう。その二つだけは、アンタらで操作できるわ」
『──ニャー!?。そ、そうか!。』
『──ミャ!?。"ミャーツ"……?。』
「……それ以上のホロコーティングが無理なら、"白金の劇場幕"を出して、空気抵抗を利用してみて」
『──ミャ……えと……。』
『──二号機!。考えるのは後ニャ!。まず動くニャー!!。』
『──りょ……了解ミャア!!。』
しゅるるっ、バサァァァアアア────……!!
両肩の歯車に展開されたマントが、
地面への加速に抗う。
なびくソレは、まるでドラゴンの羽根に見えたか。
二匹の虎は、必死になってマントを押さえつける。
『──ふニャアアァァァ!!。』
『──うミャアアァァァ!!。』
「……"ニャーナ"は歯車から直接"ソルギア"経由でブースト。"ミャーツ"は二つの歯車の向きを調整して。タイミング任せる」
『──了解ニャッッ!!。』
『──そ:それ:ミャーの名前ですかミャ!?。』
おちる。
おちる。
おちる。
上は、白。下は、天。
もう、何度目だろうか。
『 ギャ…… ……ゥ 』
『──だめニャ!。ドラゴンの復旧はコレ無理だニャ!。"ミャーツ":ハラくくるニャよ!。ニャーたちの前脚の見せ所ニャ──!!。』
『──じゅ:順応性はやすぎだミャっ!。ミャーは:まだその名前に慣れてないミャァアアア!!。』
冷たさが、眠気を誘う。
思考が、凍る。
ああ、忘れたい。
身体が冷えて、
悪いことが凍って砕けてしまったら、
どんなによいだろうか。
『──!!。ドン:アンティ!!。まだ眠っちゃだめニャ!!。もう少し耐えるニャー!!。今寝たら:トラネコバシバシアタックニャぁああ──!!。』
『──ミャアアアア!!。もうちょっと:頑張ってくださいミャアアアアッッ!!。』
冷たさの中。
イヤなことなど、凍ってしまえ────。
『──ミャアアアア!!。"ニャーナ"!!。歯車の角度:固定完了ミャアアアア!!。任せたかんミャアアアア──!!?。』
『──ヘッ……:やってやんニャ……!。』
みるみる、地上が近くなる。
山の、ふもとだろうか。
頭から、突っ込む。
瞳の流路が、少しだけ反応する。
光り輝く、レンズ。
望遠した、先には────。
(……チロンちゃんと、ブレイクさん──? )
『──今ニゃああッッ:点火ぁあああ!!!。』
──── ゴ、 オ ォォ──……!!
ぐわりと、身体に熱が通った。
∧∧ ∧∧
(ᗜωᗜ)(ᗜωᗜ)。・:+°