モンスターペアレ……デビルちゃん さーしーえー
「イニィさん、ちっせぇえええええええ!!」
声に出しました。
{{ そりゃあそうよ! 私がどれだけ飲まず食わずだったと思ってるの! }}
『ガルルルルゥゥ──?』
{{ あっうん、ガルンを食べてたね、そうね、忘れてないわよ? }}
「……なんかイニィさん、キャラ変わってない……?」
{{ あんのね、ピエロちゃんは時間止まったままだったでしょうけどね!? 私なんて多分、千年くらいは湖の底にいたのよ!? そりゃ性格も変わるってもんよぉ……身体も見なさいな! もうこれ3歳児よっ、3歳児!! }}
うわぁ……。
このチミっ子悪魔、
めっちゃしゃべるんですけど……。
でも……そか。ずっとレエン湖に、
閉じ込められていたようなもんだもんね……。
「……ごめんね、イニィさん……私のために、ずっと……」
{{ いいのいいの! お父様ともゆっくり話せたし、何だかんだ、なんとか身体も消えなかったし! }}
「!! ゼロンツさん、生きてるのねっ!?」
{{ トレントの王様みたいになってるわよ! ていうか王冠ちゃんっ!! ちょっと貴方には物申したいっ!! }}
『────……えっ。───私に、でしょうか。』
{{ そうよっ! ちょっと、あんたんトコの子の教育、一体どうなってんのっ!? あのキャットっぽい……"クにゃウン"!? もうクにゃウンでいいわっ!! あんの金ネコのせいで、私がどれだけ安眠妨害されたかっ! }}
………。
……クにゃウンって……なんだろう……。
{{ そりゃ肩とかに乗って、可愛らしい時もあるわよっ!? でもねぇ、起きたら8割の確率でガルンをタコ殴りにしてるし、ヒマな時にお父様の枝の実をちぎっては投げ、ちぎっては投げぇ……!! }}
え……ゼロンツさん、確か木に……
実、もがれてんの……?
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>>>うわぁ……あの冷静で
ヒロインっぽかったイニィさんが……
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『────……な、7号機の行動ログを確認中……。』
「ね、ねぇ! ちょっとバカ魔王から距離とるよ!? ……って。そういや、どうやってガルン走ってんの!? 道が──……!?」
『ガルルロロロロロ───ン!!』
この、白い道……ヒールスライム!?
ガルンの走っていく先に、
ヒールスライムが伸びてって、道になってる!?
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>>>すごいな……
イニィさんの杖が
ヒールスライムに同調していて
動きを操っているんだよ!
ん? イニィさんが杖自身か……?
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{{ ……そう、私は杖。杖に宿りし悪魔…… }}
!! それって……
「イニィさん……もう、生身の身体じゃないの……?」
{{ まぁ、ね……半分は魔力体だから、"スピリット"系や"エレメント"系の魔物に近いと思うわ……あのバカ弟との違いは、自我があるか、無いかの差くらいよ }}
「そんなぁ……」
ガルンの走る速さに合わせて、横を飛ぶように、
ピッタリとついてくるイニィさん。
……空気の抵抗を受けていないようにも見える。
スピリット系って……
"ゴースト"みたいなヤツのことよね……。
「…………」
{{ ……こぉら。そんな悲しそうな顔しないの。私の魂は生きてるし、短時間なら身体を流路で構成できるわ。貴方は、間に合ったのよ }}
「でも……」
『ガルルルル────……?』
{{ ……ほら、ガルンも心配してるわ? 元気を出しなさい! ピエロちゃんっぽくないわよ! }}
『ガルルルルルル……!』
が、ガルンも……!
「……へへ、あんがとね?」
『ガルンッ!!』
ギョロっ。
……んん?
「……なん?」
『ガルンッ?』
ギョロロっ?
……あれっ?
「が、が、ガルンにっ……"目"が付いてるっ!!?」
{{ えっ いま? }}
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>>>あっ いま 気づいたんだ……
お おそいな……
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「えっ……ええっ!? ななっ!? もしかして、ガルンツァーに、こ、これ、上顎、引っ付いてる!?」
『ガルルルロロロォオオ─────ンンッ!!』
ガルンツァーの車体……!
下顎のパーツよりも、かぁなぁり、
ちっちゃくなっちゃってる上顎のパーツが、
すっぽり、前を覆ってるわ!
上顎、下顎、どっちも揃ってる!
これ、私がぶっ飛ばした、あの上顎かっ!!
ち、ちっちゃ!!
でも、ちゃんと瞳が、三つあるわっ!
あんれ……?
いま、左側の白目の所に、
瞳がひとつ、移動してたような………?
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>>>イニィさんの身体の維持のために
随分 小さくなっちゃってるね
下顎のパーツと、噛み合ってない……
でも元気そうだ!
よく見ると ガルンツァーに所々
パーツが増えてるね!
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{{ ついさっき、レエン湖が陥没する前に、上から落ちてきたのよ。お父様の上に落ちてきた時、何事かと思ったわ }}
「うえっ!? ぜ、ゼロンツさんの上に落ちたんですか?」
{{ 枝に絡まって、割と大変だったわ。それがガルンの一部である事、そして、どうやら車輪を使う乗り物である事がわかったから、私の杖と、ガルンの上顎を使って改造したのよ! }}
「ふぉえ──!」
『ガァァア、ルンルゥ───ン!!』
はは、
る、るんるーん、ってアンタ……はははっ!
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>>>よぉし だいぶ
バカ魔王から離れたね!
まったく おおきな穴だ……
アンティ! 体調はどうだい?
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「えっ!? あ、そう言えば……」
ふらつかない!
ねむくもない!
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>>>最初に レエン湖に来た時
きみ 歯車機構ごと
ガルンをスライムに投げたろう?
ファインプレーだよ!
ガルンを構成していた歯車が
そっくりそのまま 残っていたんだ!
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「そ、そうかっ!! じゃあ──……!」
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>>>ああ!!
まだ 使える歯車はあるっ!
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「よっしゃああ────!!!」
作り置きがあったわけね!!
料理の下ごしらえみたいだわっ!!
これで色々と楽に────……。
『────わ、私の分身が、多大なるご迷惑を───。』
……──!?
く、クラウンが、なんか謝ってる……。
{{ ふぅ……少し落ち着きました…… }}
「……イニィさん……」
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>>>まだやってたか……
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「ねぇ……イニィさん、あの、バカ弟さん……どうにかできないかな」
{{ ! そう、だったわね……あいつはね、数年前に起き出して、急に登り始めたの }}
「──ッ!! そんな最近だったの!?」
{{ 私たちはあの時、紫の時限結晶を撃ち込んで、"しろいふた"を一時的に叩き起こした }}
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>>> 一時的……だって?
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{{ そう……でも、それは不完全だったの。……理由があったのよ }}
「!! あれで起きてなかった、っていうの……!?」
あんなにピカピカ、バリバリしてたのにっ!!
『────詳細入力。』
{{ ──私はね、"しろいふた"も、何かの魔物を利用して作られた物だと思ってるの }}
「!!」
それって、このスライムのことかな……。
{{ そして、"十五夜計画"の封印は、その魔物を起こす事で、成し遂げられるはずだった }}
「そ、そうよ……! だから私たちは、あの時、時限結晶を撃ち込んで……!」
{{ 意識が、ないのよ…… }}
「……え?」
{{ 私の弟の心が、大量の闇に溶けてしまったように……。"しろいふた"の意識も、大量の光に溶けてしまっているの }}
─────────────────────────────
>>>そんな……ことが……
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『────……。』
{{ あのバカ弟が起きた時に、私は、"しろいふた"のどこかにある"紫の時限結晶"を刺激して、乳化させたわ }}
「! それで、水属性の魔物が……」
{{ ……ごめんなさい。湖の魔物が逃げ出すことは、想定はしていた。でも、やらなければ、あいつは地上に出てしまっていた。罵りたければ、罵りなさい }}
「ッ! そんな事しないよ……!」
{{ ……いえ、私がやった事は、悪魔の所業だわ。貴方が来る方向だとわかって、私は賭けたのよ…… }}
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>>>……それは なんとかなったさ
ラクーンに 命を落としたものは
いないよ…… 続きをたのむ
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{{ ……そうね。この湖を乳化させる時、初めて時限結晶を通して、"しろいふた"の全体の流路と交流したの。その時に、わかった事…… }}
『────"しろいふた"の意識体は、魔法流動体の中に、拡散してしまっている。』
{{ ……そのとおりよ }}
「……なに、それ……」
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>>>アンティ このスライム
とても大きいだろう……?
このスライムも 魔物だ……
心は あるはずなんだ
その心が 大きすぎる体に
ひろがって
とけてしまっている……
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「……"しろいふた"に、心が、無くなってる……?」
{{ ……心のない者を、起こし続ける事はできない。だからあの時、一度目を覚ましただけで、すぐに眠ってしまった }}
『────その後、あのバカ魔王が、目覚めてしまったのですね。』
「そんなッ!!」
じゃあ……じゃあ!
このまま"しろいふた"が、起きなかったら……!
…………。
{{ 可能性はあるの }}
「──えっ!?」
{{ "紫の時限結晶"を探すのよっ! }}
グッと、ちんちくりんイニィさんが、
両手を握りこぶしにして、
ポーズをとる。
……かわいい。
「ど、どすんの?」
{{ 遠距離からでは、粘度を上げるくらいの干渉交流しか出来なかったけど、見つけたら、なんとかなるわ!! }}
─────────────────────────────
>>>いや なんとかって アンタ……
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『────……。』
「ど、どこにあるの……?」
{{ このスライムのどっか }}
「へぇ──……って、うええっ!? それってどこにあんのか、わかんないって事だよねっ!!?」
{{ なんとなく、この近くにあるわっ!! }}
いや、なんとなくじゃねーよ……。
あ、思い出したわ。
イニィさんの作戦って、
理論は立派だけど、
具体策がアレだったわ。
「……相変わらず作戦考えるの、へたくそだね……」
{{ あら、失礼しちゃうわ。貴方、いい乗り物に乗ってるじゃないの! }}
「へ……が、ガルン……?」
『……ガルン?』
あ。いま止まってます。
そして悪魔は、言うのだった。
{{ 走りまわって探しなさい }}
「──……」
『────……。』
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>>>────……。
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『ガルン──?』
チ────────────……ン。
「──むぅり! むりむりむりむりむりむり……!」
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>>>いや……この近くとか……
あなたの弟さんの襲撃もあるから……
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{{ アレとは縁を切りました。杖で時空砲、撃てるわよ }}
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>>>──マジで!?
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『────杖の概念が崩壊しつつあります。
────アンティ、どうされますか。』
「いやいやいやいやいやいや! ちょっとちょっと! 話きいてると、魔王と戦いながら紫の時限結晶、探すんだよねっ!? しかも見つかったからって、どうにかなる確証は無しッ、オマケにこの、くっっっそでかい白スライムの中からっ!? 戦いながら!? むぅりむりむりむりむりむりむりむり……アンタ達、私に何やらそうとしてんのよっ!? "バイクで魔王に挑む食堂娘"がどこにいんのよっっ!? あぁあぁあたまおかしいんじゃないのっっっ!?」
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>>>!? アンティ!!!!!
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「うえっ!?」
なんだ……?
せ、先輩、怒ったのか……?
「あ、あによぅ……そりゃ、今、頑張り時なのかもだけどさぁ……私にも、心の準備ってもんがさぁ……あんないっぱいのベトベトん中からぁ……」
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>>>ちがうっ! そうじゃない!!
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「え……?」
な、なに……なんなの……?
どしたんさ急に……。
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>>> いま きみさ……
"バイク"って 言ったよね……?
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え……?
「うん……だって、ガルンは"バイク"……あれ?」
ありゃ?
バイクって……他に、あったっけ?










