マジカンベンドンドコドン さーしーえー
手をのばせっ!!
だって、私が居るのだから。
この、何もかもが無くなってしまう街で、
まだ、守れるものが、
確かに、残っているんだから!
あきらめるもんか。
道化師がさ、誰かの笑顔を、
あきらめちゃあ、ダメでしょうよ。
ここがっ……、
「ここがっ、ふんばりどきだぁぁあ────!!!」
……──きゅうおおおおおおおぉぉ──!!!
父さん、母さん。
私、崩れそうなお城で、
けっこう、がんばってます。
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>>>──次っ! 後ろからっ!
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「──! くうぅッ!」
流石っ、先輩っ、はやい!
私にも見えてはいるけど、
どれが最初に落雷するかなんて、
パッと見ただけで判断するには、
ちょっと、人生経験不足だわっ!
「ううおりゃあ!」
『────角度補整。』
"ベアークラッチ"はもちろん展開中!
私の瞳のアナライズカードには、
ほぼ全方位、あらゆる雷が投影されている。
いや、光と闇の魔法だから、
正しくは雷じゃないけどね!
……──きゅぅうおおおん──……!
──ズドオオオオオオン!! ババッ!!
────パシッッ!!
「ッ!」
泣く子も黙るような音が鳴り、
白い光の雷が、頭上の、
巨大バッグ歯車に飲み込まれる。
……いまの、危なあっ!
歯車の縁に少し当たって、
なんか、白い火花とんでたわ。
「──ごめんクラウン、助かったわ!」
『────お気になさらず。次が来ます。』
このバッグ歯車……デカイっちゃでかいけど、
もう、一枚しかないからね。
後のは、全部、
煙が吹き出て、消えた。
……はぁ。
絶体絶命って、こういうことかな。
「な、何フヌたった!?」
『────放電現象開始より、4フヌ:27ビョウ現在。』
「ひぃい! まだそんなもんなのっ!?」
もう30フヌくらい経ってても……あ!!
そか……
"反射速度"、使いまくってるから!
ゆっくりの時は、実際は一瞬だわ……!
"しろいふた"の封印? が起動するまで、
数十フヌはかかるって言ってた……。
精神的に、くるな……。
「……まけん」
まだ、私の腕は、天を向いている。
まだ、いける。
まだ、だ。
まだ、雷は、きた。
落雷。 カッ
落雷。 カッ
落雷。 カッ
落雷。落雷。落雷。 ドン ドン ドン
轟音。轟音。轟音。 ドン ドン ドン
火花。火花。火花。 ドン ドン ドン
光。 ドン
闇。 ドドン
落雷。落雷。落雷。 ドン ドン ドン
轟音。轟音。轟音。 ドン ドン ドン
火花。火花。火花。 ドン ドン ドン
白。 カッ
黒。 カカッ
落雷。落雷。落雷。 ドン ドン ドン
轟音。轟音。轟音。 ドン ドン ドン
火花。火花。火花。 ドン ドン ドン
雷。 ダダンッ
─────────────────────────────
>>>……絵の中の雷神さまが
太鼓を持っているわけだよ……
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……──ドぉん、ドドぉんッ!!
……──きゅうううぅぅ……きゅおおお!
「ち」
やめい。
お腹に、ひびく。
ちかいんだぞ。
『────まだ周期的には余裕があります。』
えぅ。
クラウンあんた……よくわかったわね。
ふつう、わかんないわよ?
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>>>なんの話か知んないけどさ……
次 くるよ!
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「女の子の、大事な話よ」
天の歯車に手を伸ばさなければ、
気が、遠のきそうだった。
────幾重の、閃光。
「……ピエ、ロちゃ……」
「ぎぎ、ぎ」
なんだ、ぎぎ、ぎ、って。
あ、私か。
歯ぁ、食いしばってんのか。
座り込んだ膝の上から、
随分、若い声が聞こえ……、
……いや、もうこれ子供じゃん……。
こんなの余計、見捨てられないじゃん……
"黄金の義賊"、なめんじゃないわよ……。
「……杖を、捨て、なさい」
「ぐ、ぐ、」
「それで貴方は、過去から……切り離される」
「とぇい!」
「離しな、さい……」
「やな、こった」
───ダァン!!
─────ドぉん!!
────────ダァアアン!!
幾重に轟く雷鳴の中。
上も、下も、まんべんなく。
まぁるく、きれいに、見えていた。
金の片手は、天を向き。
もう一方は、悪魔と杖。
視界の下の、悪魔が言う。
「……もう、いいでしょう……? この場所はもうすぐ、白で、閉じる。光で、閉じるのよ」
「ぎぎ」
「……結果は、変わらないわ。この雷を凌いでも、その後の光に、私は喰われるわ」
「だまって」
「私は、ここで死ぬのよ」
「うるさい」
「悪魔、だもの」
「だまれ」
「貴方は、意味の無いことを、しているわ……」
「……」
「……貴方は、貴方の未来を、見てきてよ……」
「……」
うる、さい、なぁ……!
こんの、ジャリ悪魔ぁ……。
人が、頑張ってんのにさぁぁ……!
「あきらめ、なさい」
「やぁだ」
「……、ここで、ねばって……何になると、いうの」
「さいごまで、わかんないじゃない」
「あぶないのよ……」
「そんなこと言ってくれるやつ残して、帰れっか」
「ピエロ、ちゃん……」
「私はねっ! そんな薄情モンには、育てては、もらえなかったのよッ!!」
「……」
「だまって、見てろっ!!」
はっ。
あの、くっそでっかい光の羽根が、
この街ぜんぶ、飲み干すのか。
あれが、聖属性ですって?
……確かに、すごい光よ。
でも、あれは、優しい光なんかじゃない。
まるで、悲鳴みたいな光だ。
あれは、救いをもたらすものなんかじゃ、
絶対ない。
この街は、真っ黒になったから、
仕方なく、灼き飛ばそうとする。
ここは、火加減の狂った、フライパンの中だわ。
『────警告。流路集中を確認。』
「……!」
ついに、"しろいふた"の封印が、動いてしまうの……!?
こんな、こんなままじゃ……!
『────否。増大:集中している流路は、闇属性のものです。』
「……!? 何でっ!? どういうことっ!?」
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>>>おい……あれ 見て……
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先輩が、私の視界に、光の印を出す。
あ……うそ。
「……ガルンの、からだが……」
下から……膨らんで、きてる……?
父さんが育ててる、シャボテナみたいだ……。
「……なんなの。なんだあれ、なんなのよ」
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>>>おいおい……
いやな予感しかしないよ……
風船みたいじゃないか!
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『 ……── ガルルロロォォ ──……! 』
城の外壁にめり込んだままの、
上顎だけになった、ガルンを見る。
……──怯えて、いるの?
地上に拡がった暗黒に沈みかけていた、
下顎が2つ残った、ガルンの胴体……。
どんどん……膨らんで、きてる。
あれは……やばそうね……。
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>>>……第二形態フラグとか
マジ 勘弁してください……
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「先輩ねぇ……こゆ時にイミフ発言されると、マジで不安なんですけどぉ……」
『────警戒。警戒。警戒。警戒。警戒──……。』
れ、連呼も、超、不安になるんですけどぉ……。
「ピエロちゃん……杖を……す……」
「や、やだぁ……!」
わたしは……わたしはぁ──……!
……──そして、爆ぜる。
……──────────────ッッ!!
音が、聞こえなくなった。
何故か。
簡単。
時が、ゆっくりになりすぎたから。
見てる。
膨らんだ、ガルンの胴体が破裂して、
黒い、液体のようなものが、
辺りに、ぶちまけられた。
それと、光が、混ざった。
私が思い出したのは、
グツグツいってる油に、
水を、ぶち込んだ瞬間。
ウチの食堂で、もちろん揚げ物もする。
鍋の熱い油は、危ない。
父さんが、熱した油の怖さを教えるため、
地面の焚き火に置いた鍋の油に、
遠くから、水を打ったのだ。
いまの光景は、その時に、似ていた。
白が、油で、黒が、水。
さっきまでは、
雷の魔法みたいな、形だった。
今は、違う。
もう、爆発だ。
私の、視界全部、やばい。
黒と、白が混ざって、
言葉じゃ、言えない色になってる。
いま、"ベアークラッチ"で世界を見ているから、
爆発してるのは、前だけじゃない。
そう。"全方位"だ────。
ひとつの大きな歯車じゃ、
防ぎ、きれない。
やっぱり、バカ、だったかな────?
小さな悪魔を、きゅ、と、抱きしめた。