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          「こっち」



 ──え?



        「こっち」



 えと……。



      「こっち」



 あれ、私……



    「こっち?」



 どうしたっけ……



  「ねぇ」



 は、はい……?



「……こっち」



 ぅ、ええ?



「きて」



 ──?



「まってる」



 え、ちょっ……どこで?



「しってるくせに」



 ────え?





 ────こっちだよ。



「────っっ!!」


 一気に、覚醒した。

 太陽は、もうかなり昇っているらしい。

 食堂なら、大寝坊というところだ。


 目の前のアナライズカードが、

 ジジジ、と、光の粒子になって、消えた。


「いまの……」


 ジジアラさん家の客室で、

 寝転がりながら、上を見てた。

 木の枠組みに、丁寧に編み込まれた、

 屋根の裏側の草が、綺麗だ。


「くぅ……くぅ……」


 コヨンが、横に突っ伏して寝ていた。

 ……看病、してくれてたのかな。


『────おはようございます。アンティ。』

「……おはよう、クラウン……よと、ぐ……」


 身体を起こす時に手をついて、

 その感覚のにぶさに、顔をしかめる……。


「う……なんか、まんべんなく、身体中があついや……」

『────各所にて遅発性筋肉痛が発生。炎症、筋断裂は無。軽度ですが、広範囲のバーン状態です。』

「きんにくつう……はは、こんな感じだったっけ」


 全体的に体がおもい……

 体の芯が、焼けてるみたい。

 ふぅ……おし、動けないほどじゃない。

 上半身を起こす。


「……ねぇクラウン、いまの……あなた?」

『────詳細入力。』

「え、いま……起きた時、アナライズカード、浮いてたでしょ」

『────ログ確認中……。起床時にウインドウ表示は記録されていません。』

「ぅえ?」


 そ、そんなはずないでしょ……。



 ────ガチャ


「!」

「あ……おはよう」


 おぼんを持ったポロが、

 私を見て、目を見開く。

 お粥……だろうか。

 湯気がでていて、

 作られてすぐだとわかる。


「へへ、寝坊しちゃったわ」

「…………」

「? ポロ……?」


 こちらに歩いてくるポロは、

 なんだか神妙な顔で、

 思わずどきりとする。

 え、なんか私、やっちゃったかな?

 前も、柵のことで怒らせちゃったからな……。


「え、えと、ポロさん……」

「…………」


 横の可愛い木のチェストにお粥を置き、

 ポロが小さな丸椅子に座る。

 え、な、なに、なんなの。

 そ、そういえば年上だったわね……。


「……きみに」

「ひゃい」

「きみにどう、お礼を言っていいか、わからないよ……」


 …………。


「……ふつうに言えばいいんじゃない?」

「え……?」

「"ありがとう"って」

「……はは」


 なんだなんだ。

 なんで落ち込んでんだ、この子。

 あ、年上か……。


「! そうだポロ! みんなは!? ラクーンのみんなは無事!?」

「え……?」


 陽気に当てられて、失念してた!

 私、あの技の後、

 ラクーンのみんなの無事を、確かめてない!!


「ポロ! 誰がケガをしたり……ぐ……」

「! アンティ! きみの方が心配だ!」

「ポロ、みんなは……」

「だ、大丈夫だよ! みんな無事だった。氷の魔法は、きみの炎のチカラで、全部溶けたんだ。ケガも、軽い打ち身と切り傷だけ。みんな元気なもんだよ!」

「……よかった……」


 ほっと、する。

 今回の私は、正直、

 とても、お粗末だったと思う。

 気持ちの準備が、できていなかったし、

 多分、守り方も、わかっていなかった。

 一歩間違えれば、ラクーンの皆が、

 取り返しのないことになっていたわ……。


 魔法を防いでくれていたクラウンと先輩には、

 とても感謝しなくちゃいけない。

 1人では、絶対に失敗してた。

 みんなで、なんとか、守れた。


「ポロ、あなたにも助けられた。ありがと」

「……なんできみが、先にお礼を言うんだよ……」

「え、いっぱいあの魔物、倒してくれたじゃない」

「地面に落としてくれた奴を、だろ……?」

「すごく助かったわ! 私だけじゃ、無理だった」

「…………」


 ポロが、

 この部屋に入ってきた時のように、黙る。


「ポロ……?」

「僕はさ、今回、自分の小ささを、痛感したよ」

「──」

「一生懸命、この場所で生きてきたけど……あんなたくさんの魔物の前じゃ、何もできなかった」

「ポロ、それは──」

「アンティ……君はすごいや。あんなに強くて、すごい魔法を使えて……」


 うわ、なに自信喪失しちゃってるのよ。


「あの柵だって……あの魔物たちには、なんにも役に立たなかった……!」

「……普段は、あんな空を泳ぐ魔物、そんなに来なかったんでしょう?」

「でも情けなかったよ……あの柵が、ちっぽけに見えてしまって……そうだ、きみにも突っかかってしまったね」

「え? 私?」

「柵のこと。"けっこうしっかりした柵"って言われて、僕、怒っただろう……」

「あ……」


 そいえば、そんなふうに、言ったっけ。


「いや、あれは私が……」

「違う。きみが正しい。あの柵は、魔物を防ぐには、とても力不足だと、よくわかった……アンティがいなければ、あの柵を越えてきたヤツらに、みんな、やられていたよ」

「ポロ……」

「はは……バカみたいだ。あんなふうに、きみに怒るなんて。僕達の柵は、ちっぽけな存在だった……」


 ……あのねぇ。

 ちがうって。

 大切なのは、ソコじゃないでしょう。



「ちがうでしょ」

「え?」

「あなた、言ってたでしょ? "他のみんなの前で、そういうこと言わないで"って」

「それは……」

「私がさ、他のラクーンのみんなの前で、"けっこうしっかりした柵ですね"なんて言ったら、みんな、すごく傷ついたと思う」

「…………」

「あなたみたいに、怒って当然だわ。大切に、命がけで守ってきたものを、無神経に評価してたんだもの」

「でも、実際にあの柵は……」

「そうじゃない。大事なのは、あなたが、みんなの気持ちを大切にしてるということよ。なんというか、それは、思いやりだと思うの」

「アンティ……」

「あの時、怒ってくれて、よかった。私、無神経な言葉で、ラクーンのみんなを、悲しませたくなんかない」

「僕は……」

「あなたは、ラクーンのみんなに悲しい思いをさせたくないから、私に怒ってくれた。あなたには、思いやりがある。バカなんかじゃない」

「……ありがとう」

「ふふ、そういう所に、コヨンは惚れたんでしょう?」

「な、なっ!?」


「むにゃむにゃ……」


 さっきからけっこう声を出してるんだけど、

 コヨンがいっこうに起きない。

 こうしてると、本当に子供に見えるわね。


「……あなたのお嫁さん、起きないわね」

「お、およ……まぁそうだけど。ついさっきまで、無理して起きてたんだ。それよりもきみ、ホントに身体は大丈夫なのかぃ?」

「うん、大丈夫。全身筋肉痛なだけ」

「……それって大丈夫なのかぃ?」

「少し、身体が重いけどね」

「……そうか。いや、コヨンが、きみのヨロイを脱がそうとしたけど、全くどうしていいかわからなかったんだ」

「あ、あはは、これ、ちょっとアレだから……」


 そういや、クルルスーツ着たまんまだった……

 うわぁ、寝汗とか気になってきた。


「あ……お粥、食べたら、お風呂借りていい……?」

「あ……はは、言っておくよ」

「むにゅむにゅ……」


 お粥には、焼き魚みたいなのが入っていて、

 美味しかった。


 食べながら、

 先ほどのアナライズカードのことを、

 思い出す……。



「先輩、かな……」

「え……?」

「! い、いや、なんでもない」


 今は、ポロ達がいるから、

 あんまりクラウンと先輩に話しかけられないな。

 心の中でも、混乱するし……。




 さっき。


 起きた時に、目の前に出てた、アナライズカード。


 すぐに消えてしまった、透明の、光の板。


 でも、確かに、書いてあった。




   「 こっちだよ 」




 って。



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