EP 3
外科医の執刀
手にした圧倒的な戦力を再確認した滝沢真一は、まず情報収集と状況把握を最優先事項とした。無限収納ポーチから、手のひらサイズの小型ドローンを取り出す。最新のステルス機能と高解像度カメラを備えた、彼のカスタム品だ。
「まずは人に会わないことには、話が始まらない」
ドローンは羽音一つ立てず、静かに森の空へと舞い上がった。真一の網膜には、ドローンが見る高空からの映像がリアルタイムで投影される。緑一色の樹海が広がる中、彼は辛抱強く索敵を続けた。
数十分後、森の切れ間に、人工的な建造物群を発見した。
(…街、というよりは砦に近いか。木と石でできた、簡素な城壁。領地というものだろう)
ドローンのカメラがズームする。だが、その光景に真一は眉をひそめた。城壁の一部は破壊され、黒煙が上がっている。そして、街の門前では明らかに戦闘が行われていた。装備の統一感がない、軽装の兵士たちが、数で勝る屈強な武装兵たちに一方的に蹂躙されている。
武装兵たちは、村を「襲っている」というより、「破壊している」ように見えた。抵抗する兵士を殺し、家々に火を放ち、逃げ惑う非戦闘員にまで刃を向けている。
(…なるほど。状況は理解した。緊急オペが必要なようだ)
彼の思考は、瞬時に外科医のものへと切り替わる。
「悪性腫瘍を確認。周辺組織への浸潤も見られる。これより、迅速かつ広範囲な切除を開始する」
真一はドローンを上空で待機させると、自身はSCAR-Hを手に、戦場を見下ろせる丘陵地帯へと高速で移動した。スコープを覗き、息を止める。彼の心は、手術室にいる時と同じ、絶対的な静寂に包まれていた。
そして、無慈悲な執刀が始まった。
プシュッ
森に響いたのは、雷鳴のような魔法の轟音でも、空を裂く矢の音でもない。圧縮された空気が短く破裂するような、異質で乾いた音。
武装兵の隊長格らしき男の眉間に、小さな穴が空いた。男は自分が死んだことすら理解できず、前のめりに崩れ落ちる。
「なっ!? 隊長!?」
「どこからだ! 矢か!? 魔法か!?」
動揺する武装兵たち。だが、彼らに原因を探る時間はない。
プシュッ、プシュッ
的確に、冷静に、ただ淡々と。真一は次々と腫瘍を「切除」していく。兜の隙間、鎧の関節、喉元。人体の急所を知り尽くした外科医の知識と、SEALsで叩き込まれた射撃術が融合し、それはもはや戦闘ではなく、一方的な駆除だった。
城壁の上で、絶望的な防衛戦を続けていたアルクス領の兵士たちは、信じられない光景を目の当たりにしていた。
「な、何だ…? 敵が…勝手に死んでいく…!」
「血を吹いて倒れたぞ! 矢は見えなかった!」
それは、彼らの理解を超えた奇跡。あるいは、死神の気まぐれ。
数分後。阿鼻叫喚の内に武装兵たちは全滅し、戦場には不気味な静寂だけが残された。真一は硝煙の匂いが残る銃口を静かに下ろした。
その時、彼の視界に半透明の文字が浮かび上がる。
【善行を確認:アルクス領の救済。10,000ポイントを加算します】
「…人殺しで、ポイント加算か」
真一は、吐き捨てるように呟いた。
「ふざけたシステムだ」
彼が丘を下り、戦場の跡地へと歩みを進めると、街の門から一人の女性が覚束ない足取りで駆け寄ってきた。銀色の髪をなびかせ、気品と強い意志を宿した瞳で、必死に彼を探していたようだ。
「お待ちください! 貴方様は…一体!?」
女性は、近代兵器で身を固めた真一の異様な姿に息を呑みながらも、勇気を振り絞って声を上げた。
「俺か? 俺は旅をする医者だ」
その言葉に、女性はさらに目を見開いた。これだけの殺戮を行った者が、医者? しかし、彼が救い主であることは間違いない。彼女はスカートの裾を握りしめ、深く頭を下げた。
「私は、このアルクスを治める領主、リオナ・アルヴァンスと申します。このご恩は、言葉になりません。どうか…どうか、お話だけでも聞かせてはいただけないでしょうか」
必死の懇願。真一は彼女の瞳の奥にある、民を想う誠実さを見抜いた。
「良いだろう」
短く答え、真一はリオナに促されるまま、彼が救ったばかりのアルクス領へと、その第一歩を踏み入れた。街の者たちは、畏怖と感謝が入り混じった目で、謎に包まれた黒い死神、あるいは救世主の姿を、ただ遠巻きに見つめることしかできなかった。
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