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異世界転生×ユニークスキル 100連ガチャで無双する!?  作者: 月神世一


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EP 29

黒狼の焦燥


アースライド帝国の片隅、アルクス領に隣接するバルカス領。その領主、バルカス・ヴォルグ伯爵の館の謁見室には、怒号が響き渡っていた。豪華な椅子にふんぞり返る、肥満した体躯の男――バルカスは、床に平伏する兵士に、報告書の巻物を投げつけた。その顔は、脂汗と怒りで紅潮している。


「馬鹿者めが! あのリザードマンの群れが、全滅させられただと!? どういうことだ、説明しろ!」


「は、はっ! 申し訳ございません! 我が方の斥候によりますと、アルクス騎士団の働きにより、リザードマンの根城は壊滅した、と…」


兵士は震えながら答える。バルカスは、その言葉を信じられないといった様子で、さらに激しく机を叩いた。


「馬鹿を言え! あのアルクス騎士団など、老いぼれと小娘が率いる張り子の虎! リザードマンの群れは、我が国の誇る正騎士団でさえ手を焼くほどの戦力だぞ!」


バルカスの問いに、兵士は恐怖に顔を引きつらせながらも、必死に情報を絞り出した。


「そ、それが…何やら、豹の耳を持つ、素早い槍使いの女が、騎士団と共に戦っていた、とのことで…」


「何!? 獣人族だと!?」


バルカスは、忌々しげに舌打ちをした。彼の頭の中では、獣人族は野蛮で劣った存在という固定観念があった。


「あの落ちぶれた小娘、なりふり構わず、蛮族の傭兵を雇い入れたか…! 金で強さを買うとは、貴族の風上にもおけんわ!」


彼が、自分の行いを棚に上げて悪態をついていると、部屋の扉が静かに開き、一人の老執事が、音もなく入ってきた。その顔には、長年仕えてきた者特有の、感情を悟らせない冷徹さが宿っている。


「ヴォルグ様、お言葉を返すようで恐縮ですが、問題はそれだけでは無いやに存じます」


「何だ、まだ何かあるのか!」


バルカスは、苛立ちを隠しもせず、老執事を睨みつけた。


「はい。昨今、アルクス領では、『サツマイモ』や『ジャガイモ』なる、新種の穀物の栽培に成功し、長年の食料事情を、完全に打破したとの情報が入っております」


「な、何だと!?」


バルカスは、椅子から身を乗り出した。食料問題は、どの領地にとっても常に頭痛の種だ。それを、あの貧しいアルクスが解決したというのか?


「それだけではございません。アルクスのドワーフ工房から出荷される鋼や青銅は、これまでとは比べ物にならないほど質が向上しており、また、新しい設計の船による海上交易も、にわかに活気づいている、と…」


「チッ…! あの弱小領風情が、調子に乗りおって…! この前、オークどもに対価を払って、あれほど痛めつけてやったというのに!」


しまった、とバルカスが口をつぐんだが、もう遅い。彼の口から漏れた「オークどもに対価を払った」という言葉を、老執事は聞き逃さなかった。


老執事は、表情一つ変えずに、しかし鋭く釘を刺した。


「バルカス様。オークのような『蛮族』の力を借りたことが帝国に知られれば、我がヴォルグ家の名誉は失墜し、厳罰は免れませぬ。どうか、お忘れなきよう」


「わ、分かっておるわ! 貴様に言われるまでもない!」


バルカスは、苛立ちを隠しもせず、怒鳴り返した。だが、その声には、明らかに焦りの色が混じっていた。


食糧、武具、経済、そして軍事力。かつて、掌の上で転がしているつもりだった、哀れな隣人。そのアルクス領が、今や自分の理解を超えた、不気味な存在へと変貌を遂げつつある。


その事実に、バルカス・ヴォルグは、屈辱と、そして得体のしれない恐怖に、ただ歯噛みすることしかできなかった。彼の脳裏には、アルクス領という小さな影が、まるで巨大な黒豹のように、ゆっくりと、しかし確実に迫ってくるような焦燥感が広がっていた。


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