EP 28
大海原への処方箋
シンイチによる改革が、大地に次々と実りをもたらしていく中、彼の視線は、ついにアルクス領の目の前に広がる、青い大海原へと向けられた。
「セラフィナ、次の段階は漁業だ。この領地の海を司る責任者と、親方を呼んでくれ」
「はい、シンイチ様。でしたら、漁業組合代表のマールが適任です」
セラフィナが手配し、一行が向かったのは、寂れたアルクスの港だった。潮風に晒された、古い木造の桟橋。そこに、腕を組んで立つ、海の男マールと、陸から呼ばれて不機嫌そうなドワーフのブロックが待っていた。
「なんでい、シンイチの兄ちゃん。鍛冶屋をこんな潮臭え場所に呼び出して、何の用だ」
「リオナ様、これは一体…?」
マールが、その鋭い瞳で、シンイチたちに説明を求める。
シンイチは、何も言わずに、ただ海の沖合を指差した。そして、スキルを発動させる。
海面が、にわかに眩い光を放ち始めた。まるで、海の中から巨大な太陽が昇ってくるかのように。やがて、光は二つの影を形作り、荘厳な姿を現した。
それは、アルクスの小さな漁船とは比べ物にならないほど巨大で、優美な帆船だった。一つは、大航海時代の冒険を思わせるキャラベル船。もう一つは、より速く、スマートな船体のスクーナー船。
「ヒェェェッ!?」
海の男マールが、生まれて初めて見る、完璧な船の姿に、腰を抜かさんばかりに驚愕した。
「た、宝船かよ…! なんて美しい船体だ…!」
職人であるブロックもまた、その完璧な構造美に、言葉を失う。
「設計図はこれだ」
シンイチは、二隻の船の完全な設計図をブロックに渡した。
「親方、この船を、寸分違わずに作れるようになれ。アルクスの新しい力だ」
さらに、シンイチはガチャを続け、今度は掌に、ゴツゴツとした奇妙な貝を数個、出現させた。
「何これ? 貝? 食べるの?」
リオナが、不思議そうに覗き込む。その貝の正体に、博識なセラフィナが、はっと息を呑んだ。
「そ、それは…! まさか、海の宝石、真珠を作り出すという、アコウ貝…!?」
「ほう、養殖について知っているのか。話が早い」
シンイチは、にやりと笑った。
「そうだ。この貝を、この穏やかな湾で養殖する。リオナ、セラフィナ、この事業を管理し、アルクスの新たな経済の柱としろ」
「は、はい! 分かりました!」
セラフィナは、とてつもない富を生む可能性を秘めた、その小さな貝を、震える手で受け取った。
目の前で繰り広げられた、あまりにも規格外な奇跡の数々。
海の男マールは、それまでの懐疑的な表情を消し去り、シンイチの前に進み出ると、深く、深く頭を下げた。
「…シンイチ様。あんたは、神か何か知らねぇが、俺たちの海の神様だ。このマール、あんたに一生ついていく」
そして、彼は胸を張り、力強く宣言した。
「これからは、毎日、あんたらの食卓に、新鮮な魚を届けてやる! このアルクスの海のことは、この俺に任せろ!」
その言葉は、アルクス領が、海洋国家として、新たな歴史を歩み始める、力強い産声となった。




