EP 27
第二の種蒔き
アルクス領の改革が軌道に乗り始めたある日、シンイチはメイド長のセラフィナに声をかけた。
「セラフィナ、食料増産の第二弾だ。この計画の責任者となる農民に会いたい」
「はい、シンイチ様。でしたら、アボックが適任かと。彼以上に、今回の改革の重要性を理解している者はおりません」
セラフィナの案内で、シンイチとリオナは、アボックの畑へと向かった。
その光景は、数週間前とは一変していた。以前の痩せた畑の隣には、青々とした葉を茂らせるサツマイモ畑が広がり、新設された鶏小屋からは元気な鳴き声が、牧場からは牛や馬のいななきが聞こえてくる。
その中心で、たくましい腕を振るい、畑を耕している男がいた。アボックだ。
彼は、リオナとシンイチの姿を認めると、慌てて駆け寄り、泥のついた手で深々と頭を下げた。
「これはこれは、リオナ様! そして、シンイチ様! お申し付けの通り、サツマイモ、鶏、牛に馬、全て順調に育っております!」
その顔には、以前の頑固な懐疑心はなく、畏敬と、自らが奇跡の一端を担っているという誇りが浮かんでいた。
シンイチは、その働きぶりに満足げに頷くと、本題を切り出した。
「次だ。今回は、小松菜、じゃがいも、玉ねぎ、人参、カボチャ。そして――豚だ」
シンイチがスキルを発動させると、アボックの目の前の空いた土地に、次々と見たこともない野菜の苗や種芋、そして、丸々と太った数頭の豚が入った柵が、光と共に出現した。
「ヒェェェッ!?」
アボックは、腰を抜かさんばかりに驚き、その場にへたり込んだ。一度見たとはいえ、無からの創造、あるいは転移という神の御業は、彼の理解と常識を遥かに超えていた。
「育て方は、セラフィナに資料を渡してある。彼女にでも聞くが良い。アボック、期待しているぞ」
シンイチは、そう言うと、アボックの肩をポンと叩いた。その一言が、アボックの胸に、とてつもない重圧と、それ以上の使命感を刻み込んだ。
「は、ははっ! か、畏まりました! このアボック、命に代えましても、やり遂げてご覧にいれます!」
平伏するアボックの姿を後にしながら、リオナは隣を歩くシンイチの横顔を、感心しきった様子で見上げていた。
「シンイチって、本当に、何でもありなのね」
その呟きは、呆れと、尊敬と、そしてほんの少しの親しみが込められていた。
アルクス領の農業革命は、今や一人の農民の確固たる信念を得て、さらに大きく、力強く、その根を大地に広げようとしていた。




