EP 21
鋼と汗の交響曲
滝沢真一が考案した、常識外れの訓練メニュー。
それは、地獄の始まりを告げる鐘の音だった。アルクス騎士団と、囚人であるはずのシオンを巻き込んだ、前代未聞の合同訓練が幕を開けた。
【第一部:筋力増強】
練兵場には、騎士たちの苦悶の声が響き渡っていた。シンイチが命じたのは、近代的なトレーニング理論に基づく、徹底した身体の追い込みだった。
「ほら、あんた達! 丸太の一本や二本でへばるんじゃないよ! 遅れんな!」
軽々と重い丸太を担ぎながら、シオンが楽しそうに檄を飛ばす。彼女にとって、この程度の負荷は心地よい準備運動でしかない。
「くっ…! 盗賊なんぞに、ま、負けてたまるかあっ!」
副団長のフィアは、プライドを燃やし、顔を真っ赤にしながらも必死に食らいつく。
「これぞ騎士の底力…見せて、やる…!」
団長のガレンもまた、己の限界を超えようと、鋼の意志で身体を動かし続けた。
【第二部:持久走】
日がな一日、練兵場の端から端までを往復する、通称「シャトルラン」。それは、体力だけでなく、精神力をも削り取る過酷な訓練だった。
「はー、風が気持ちいいねぇ。良い汗かいてるかい?」
涼しい顔で、美しいフォームを一切崩さずに走り続けるシオン。
対照的に、騎士団はもはや限界だった。
「ぜぇ…っ、ぜぇ…! は、肺が…焼ける…!」
「お、おぇっ…! も、もう無理だ…」
フィアは肩で息をし、ガレンに至っては、膝に手をついてえずいている。体力と身体能力の、圧倒的な差がそこにはあった。
【食事と栄養】
午前中の過酷な訓練が終わり、騎士たちが練兵場で倒れ込む中、アルクス城のコックたちが、湯気を立てる大鍋を運び込んできた。シンイチが考案した、さつまいもと鶏肉の甘辛煮、そして高栄養価の野菜がたっぷり入ったスープ、硬質で腹持ちの良いパン。
「さあ、食え。疲労で胃が受け付けなくとも、無理にでも詰め込め。それが次の成長に繋がる」
シンイチの言葉に、騎士たちは半信半疑ながらも、目の前の食事に手を伸ばした。一口食べれば、その甘辛い味付けと、身体の隅々まで染み渡るような温かさに驚く。疲弊した身体が、エネルギーを貪欲に吸収していくのを感じた。
「これは…本当に、美味い…!」
「こんなに食っても、まだ足りない気がする…!」
彼らは、シンイチの言う「医食同源」の意味を、身体で理解し始めていた。シオンもまた、無言で大皿の料理を平らげていく。
【第三部:戦闘技術指導】
「才能だけで戦うな。それは三流のやることだ」
シンイチによる、直接の武術指導。それは、彼らの戦闘観を根底から覆すものだった。
「シオン。お前は眼だけに頼りすぎだ。相手の動きを見てからでは遅い。呼吸、重心の移動、視線…全てから次の一手を『予測』しろ。そして、相手を誘い込む『罠』を仕掛けろ」
「わ、分かった…やってみる!」
「フィア。お前の剣は速いが、一撃が軽い。もっと洗練させろ。最小の動きで、最大の威力を叩き込み、素早く引く。一撃離脱の基本だ」
「ハ、ハイ!」
シオンとフィア、二人の実力者は、シンイチの指導をスポンジのように吸収し、その剣技を飛躍的に向上させていく。
「ガレン。あんたは団長だ。自分の武勇だけを考えていてどうする。戦場を俯瞰で見ろ。フィアを囮に使い、側面から別動隊を突入させる。常に周りを見て、個人ではなく、『集団』で勝ちを取る戦術を組み立てろ」
「おう!心得た!」
【第四部:回復と再生】
全ての訓練が終わり、騎士たちが屍のように練兵場に転がっている。そこに、救いの女神(と、一人の悪魔)が舞い降りる。
「はーい、皆さんお疲れ様でしたー。回復しますよー」
リオナが、にこやかに回復魔法をかけていく。温かい光が身体を包み、鉛のように重かった身体が嘘のように軽くなっていく。
「はぁ〜、気持ちいいねぇ。生き返るよ」
シオンが、うっとりとその快感を味わう。
「なあ…これ、一日何回目だっけ…?」
「確か…今ので、5往復目か…いや、6だったか…?」
フィアとガレンは、意識が朦朧としながら、この天国と地獄の無限ループに、もはや笑うしかなかった。
――地獄のメニューが、彼らを蝕み、そして作り変えていく。
数週間後。アルクス騎士団は、以前とは比べ物にならないほど、強く、速く、そして賢い精鋭部隊へと変貌を遂げていた。




