EP 20
超回復
シンイチの臨時クリニックとなった城の一室で、シオンは軽やかに身体を動かしていた。跳躍、回転、槍を振るう型。かつての古傷の痛みも、身体の不調も、完全に消え去っている。
「よし。基本的な動作に問題はないようだな」
モニターに並ぶバイタルデータを眺めながら、シンイチは満足げに頷いた。
「ああ。身体が、軽い。前よりも、調子が良いぐらいさ」
シオンは、自分の拳を握りしめ、その力の漲り具合を確かめるように言った。
「そうか。ならば、次の段階に進む。今度はお前が、激しい戦闘でも問題なく動けるようにするための、リハビリを兼ねた特別トレーニングメニューを作る」
「ようやく、本気で動けるのかい! 楽しみだねぇ!」
久しく忘れていた高揚感に、シオンの金色の瞳が輝く。
だが、シンイチはそんな彼女に、事務的な口調で告げた。
「そうか。だが、時間は惜しい。お前のリハビリは、アルクス騎士団との合同訓練という形でやってもらう」
「……何だって!?」
シオンの表情が、一瞬で驚愕に変わった。
◇
シンイチは、シオンを連れて、騎士たちが訓練に励む城の練兵場へと向かった。
彼らの登場に、フィアやガレンが訝しげな視線を向ける。シンイチは、そんな彼らを前に、臆面もなく言い放った。
「今から貴様らには、俺の言う通りのトレーニングメニューを受けてもらう」
「…どういうことだ、シンイチ殿」
ガレンが、代表して問いかける。
「フィア、貴様らもだ。この盗賊と一緒に、訓練をしろだと?」
「ああ。シオンは、貴様らよりも強い。より強い相手と手合わせする方が、向上は早いはずだ。合理的だろう?」
その言葉に、フィアの眉がぴくりと動く。
シオンは、面白そうにニヤリと笑い、シンイチに尋ねた。
「へぇ。で、具体的には、何をすりゃあ良いのさ」
「内容は多岐にわたる。素振り、筋力増強、持久走。それから、俺の指導による実戦的な乱取りだ。ただし――」
シンイチは、全員の顔を見渡し、とんでもない条件を付け加えた。
「――訓練は、全員が疲労で動けなくなるまでやってもらう。そして、終わった直後に、リオナたちの回復魔法と、俺の施術を受ける。これを毎日繰り返す」
「えええ!?」
話を聞いていたリオナが、驚きの声を上げた。
「な、何のために、そのような過酷なことを!?」
ガレンが、その意図を問いただす。シンイチは、この世界の誰も知らない、スポーツ医学の理論を口にした。
「『超回復』と言ってな。筋繊維は、極度の疲労の後に回復する過程で、以前よりもわずかに太く、強くなる。そのサイクルを、回復魔法で意図的に早める寸法だ。理論上は、通常では考えられない速度で、お前たちの身体能力は向上する」
「そ、そんな…! ただでさえ、日々の訓練で疲れているというのに…!」
フィアが、悲鳴に近い声を上げる。
シンイチは、そんな彼女たちに、挑戦的に言い放った。
「強い騎士団になりたいんだろう? それとも、このまま弱小領の、頼りない騎士団のままでいるか。選べ」
その言葉は、彼らの誇りを、そして領地を守るという使命感を、鋭く刺激した。
ガレンとフィアは顔を見合わせ、やがて、覚悟を決めたように頷いた。シオンもまた、「面白そうだ」と不敵な笑みを浮かべている。
こうして、元盗賊と騎士団による、地獄の合同訓練が幕を開けた。
それは、滝沢真一による「軍事医療」という、新たな治療の始まりだった。
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