EP 18
医食同源
アルクス城の厨房に、再びあの異世界の、食欲をそそる香りが満ちていた。
厨房の主役は、もちろん滝沢真一だ。彼の前には、ガチャで出した色とりどりの食材が並んでいる。
(シオンの腸内環境を整えるには、食物繊維とバランスの良い栄養素が不可欠。兵士たちの士気を上げるには、腹持ちが良く、力になる食事が要る。…肉、野菜、穀物。このアルクスで安定して供給できる食材で作れる料理か)
シンイチが思案していると、その匂いに誘われて、ひょっこりと厨房に顔を出す者たちがいた。
「わーい! 今日のご飯はシンイチの料理だ!」
目を輝かせるリオナ。その隣には、治療の一環として食事管理を義務付けられているシオンが、少し居心地悪そうに立っている。そして、その様子をメイド長のセラフィナが、興味深そうに観察していた。
「よし。さつまいもと鶏肉、それにブロッコリー、パプリカ、玉ねぎ…。甘辛く煮付ければ、米がなくてもパンに合うだろう」
シンイチは、手際よく野菜を切り、鶏肉に下味をつける。その動きには一切の無駄がなく、まるで精密な手術を見ているかのようだ。やがて、大きな鍋で具材が炒められ、醤油と砂糖、そして隠し味の味噌が合わさった、甘く香ばしい匂いが厨房を満たした。
完成した「さつまいもと鶏肉の甘辛煮」が、大皿に盛られてテーブルに並ぶ。
「素晴らしいですわ…。彩りも、香りも、これまでアルクスで食されてきたものとは、次元が違います。シンイチ様、是非とも、その調理法レシピを共有させていただけますでしょうか」
セラフィナが、感嘆の息を漏らしながら申し出る。
「ああ、構わん」
シンイチが頷くと、リオナが待ちきれない様子でフォークを手に取った。
「いっただっきまーす!…んんーっ、おいひいぃぃ!」
甘辛いタレが絡んだ柔らかな鶏肉と、ほくほくのさつまいも。その完璧な調和に、リオナは幸せそうに頬を緩ませる。
シオンも、おそるおそる一口食べ、その金色の瞳を驚きに見開いた。
「ほ、本当だ…。美味しい…。こってりしてるのに、後を引かない。パンにもすごく合う…」
「ええ、本当に。野菜の甘みと、肉の旨味が、この『ミソ』という調味料で、見事に引き立てられていますわ」
セラフィナも、冷静な分析をしながら、その味に感心しきりだ。
三人の様子を見て、シンイチは静かに言った。
「医食同源。病を治すのも、健康な身体を維持するのも、全ての基本は『食』で決まる」
彼は、そう言うと、スキルを発動させて数冊の分厚い本を取り出した。
「城のコックたちに、これを学ばせろ。栄養学の基礎と、このアルクスでも作れる、安価で栄養価の高い料理のレシピがまとめてある。ここに載っている料理は、全て俺が試作して、この世界の食材でも再現できることを確認済みだ」
セラフィナは、その本を恭しく受け取った。ページをめくれば、美しいイラスト付きで、見たこともない料理の数々と、その効能までが詳細に記されている。それは、もはやただの料理本ではなく、この領地の未来を救う「医学書」に等しかった。
「…分かりました。この知識、必ずやアルクス全土に広めてご覧にいれます」
セラフィナの力強い言葉に、シンイチは静かに頷いた。
滝沢真一による医療革命は、今、アルクス領の食卓から、静かに、しかし確実に始まろうとしていた。
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