EP 17
医療革命の設計図
シンイチは、文字通り徹夜でシオンの身体データを分析していた。
彼がガチャで出した電子顕微鏡のモニターには、拡大されたシオンの血液細胞が映し出されている。獣人族特有の、人間とは異なる赤血球の形状や、闘気を生み出す源となる未知のミトコンドリアの活動を、彼は驚異的な集中力で解析していく。
「よし…大体の基礎データは取れた」
呟くと、シンイチは診察台に座るシオンと、その横に立つリオナを振り返った。
「リオナ、シオンの右肩にある古傷に、回復魔法をかけろ。出力を最小限に絞って、ゆっくりとだ」
「わ、分かったわ! 『癒しの光よ』――ヒール!」
リオナの掌から放たれた、温かな光がシオンの肩を包み込む。シオンは、古傷が疼くのか、わずかに「ううっ」と呻いた。
その様子を、シンイチは様々なモニターで監視しながら、思考を巡らせていた。
(…回復魔法は、細胞の再生を促すが、治癒の方向性が大雑把だ。だが、俺の知識…例えば、適切な栄養素を点滴で投与し、スポーツ医学の理論でリハビリを組む。さらに遺伝子工学の知見から、治癒を阻害する因子を特定できれば…この世界の治療レベルは、飛躍的に高まる)
まさにその時、書庫から出てきた賢者ルーナが、部屋にひょっこりと顔を出した。
「やあ、調子はどうだい? シンイチ君」
「まぁな」
シンイチは、モニターから目を離さずに短く答えると、今度はシオンに向き直った。
「シオン。今日の朝食は何を食べた? それと、便は出たか?」
「なっ!?」
シオンの顔が、カッと赤く染まった。
「な、な、何てことを聞くんだい、あんたは!?」
「患者の健康状態を把握する上で、食事と排泄は最も重要なデータだ。答えろ」
真面目くさったシンイチの言葉に、シオンは俯いて、蚊の鳴くような声で答えた。
「…あ、朝は、パンと…野菜のスープさ…。べ、便は…その…出てない…」
「なるほどな。食物繊維と水分が足りていない。今後のメニューは俺が管理する」
(うううっ…! 男に、こんな恥ずかしいことを言わされるなんて…! あたし、もうお嫁にいけないよ…!)
シオンが内心で身悶えていると、ルーナが面白そうに言った。
「ふふ、そこまで徹底的に調べるんだね。実に興味深いよ」
シンイチは、ルーナの言葉に、初めて自らの計画の核心を口にした。
「これは、シオン一人を治療して終わりじゃない。俺のやってる医療行為を、この世界の他の一般人でも出来るように、標準化・簡易化する。そのための『教育者』を作るんだ」
「…! なるほど」
ルーナの翠の瞳が、知的な光を宿して輝いた。
「君が育てた教育者が、さらにその教え子を育てる。そうすれば…」
「そうすれば…!」
話を聞いていたリオナが、ハッとしたように続けた。
「回復魔法が使えない人でも、正しい知識さえあれば、病気や怪我で困っている人を、救えるようになる…!」
シンイチは、三人の女性の顔を見渡し、静かに頷いた。
「ああ」
それは、ただ一人の天才による、一方的な救済ではない。
この世界に生きる人々自身の手で、未来を掴み取るための、壮大な医療革命の設計図だった。
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