EP 14
共犯者
シンイチの言葉は、重い楔となってリオナの心に打ち込まれた。綺麗事だけでは、民は守れない。領主とは、時に非情な選択を迫られる存在。その事実から、もう目を背けることは許されない。
リオナは、震える唇をぐっと引き結び、一度固く目を閉じた。そして、再び開かれた彼女の瞳には、先ほどまでの怯えはなく、覚悟の色が宿っていた。
「…わ、分かった…わよ」
その声は、まだか細かったが、決して折れてはいなかった。
それを聞いたシンイチは、満足げに頷いた。
「よし。リオナ、お前の覚悟は見た。ならば、早速取り掛かる。マリージョを俺の助手にしろ」
「えっ?」
予想だにしなかった要求に、リオナは素っ頓狂な声を上げた。
「彼女の回復魔法は、この領地で最も質が高い。俺の医学的アプローチと、彼女の魔法。その二つを組み合わせた時、どのような相乗効果が生まれるか、囚人たちの身体を使って検証する」
「そ、それは駄目!」
リオナは、シンイチとマリージョの間に割って入るように、叫んでいた。
「わ、私がやるわ!」
「何?」
シンイチが、わずかに眉をひそめる。
「私だって、回復魔法は使えるわ! 領主である私が、領内で行われることを知らないわけにはいかない! この件は、私が、貴方と一緒に行います!」
マリージョを、あんな風に泣かせた彼と、二人きりにさせるわけにはいかない。そして何より、この罪深い役目を、誰かに押し付けるわけにはいかない。やるならば、この手で。それが、領主としての、最低限の責務。
リオナの瞳に宿る、決死の光を見て、シンイチは肩をすくめた。
「…まぁ、構わんが。お前が癒せるレベルは知れている。効率は落ちるだろうな」
「それでも、私がやるの!」
シンイチは、その頑なな申し出を、静かに受け入れた。彼は右手を差し出す。リオナは一瞬ためらった後、その手を固く握り返した。大きく、少し無骨で、けれど不思議なほど温かい手だった。
こうして、二人の奇妙な「共犯関係」が成立した。
「…でも」
リオナは、繋がれた手をそのままに、不安げにシンイチを見上げた。
「殺すのは、絶対に駄目よ?」
その、あまりにも当然の懇願に、シンイチは心底呆れたように言った。
「殺す? 何を言っている。俺は医者だぞ」
「え…」
「治療をするんだ。被験者には、実験協力への報酬を提示する。身体に残っている古傷や病気も、俺の医療技術で可能な限り完治させる。そして、解放して、故郷に帰れるように手配してやる。囚人たちにとっては、悪くない条件だろう?」
「……何、それ…」
拷問や、非道な実験を覚悟していたリオナは、ぽかん、と口を開けたまま固まった。シンイチの言っていることは、まるで罪人に対する恩赦のようだった。
シンイチは、そんな彼女の様子を見て、初めて悪戯っぽく、口の端を吊り上げた。
「もっとも――その身体から得られる、ありとあらゆる貴重なデータは、俺がたっぷり貰っていくがな」
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