本当にやりたいこと①
「みんな~‼ 今日は会いに来てくれてありがとう~‼」
都内に存在する某ライブハウスのステージ上で果実は右に左にと観客に向け手を振る。
夏空芸能事務所に入所してから早くも三か月が過ぎ。果実は七人組アイドルグループ『夏の華』として活動を行っていた。夏の華はメジャーデビューを目指し小規模ライブハウスでのライブや握手会、チェキ撮影をメインとした活動を行う、所謂『地下アイドル』。元々活動を行っていたグループに新規メンバーとして果実が合流した形でアイドル活動を開始した。そのためメンバーカラーもグリーンは取られており、空いていた色から選んだ結果、水色に落ち着いていた。
「か、果実ちゃん‼ 今日も最っ高に可愛かったよ‼ ダンスも上手くなったね‼」
「タケシ君ありがとう~‼ 頑張ってるのでそう言ってもらえると嬉しいです‼ メンカラも沢山取り入れてくれてて嬉しい~‼」
ライブ後に出入口付近で行われるお見送り会で果実はファンと交流をする。
デビューをしてから二か月程度。少数ながらも固定ファンができていた。
アイドルとしての一歩を踏み出したことに加え、自分のことを好きだと言って肯定的に受け止めてくれるファンができた事に果実は満たされた気持ちになる日々。
一人一人と握手をして短い会話を交わしていく。
「果実ちゃん今日も可愛かったよ‼ でも最近ちょっと痩せすぎじゃない? 大丈夫? 心配になっちゃうな」
「りっくんありがとう~‼ 大丈夫です‼ その気持ちだけは有難くいただきますね」
笑顔で手を振ってお見送りをするも、りっくんと呼ばれたファンは哀しそうな表情をして去って行く。 彼は果実が活動を始めてから獲得した記念すべき第一号のファン。そのため特に記憶に残っているファンでもある。今までは歌やダンスなど果実の成長を見守り、共に喜んでくれていたのだが、この日初めて彼は哀しそうな表情を浮かべていた。
全ての観客を見送り、メンバー一同控室に戻る。
「いや~、今日もお疲れ様。細かい反省点は後日纏めて連絡します。後は各自支度ができ次第解散で。小林はこの後ちょっと来て」
総括終了後、果実は夏空芸能事務所社長・夏空に個別で呼び出され、小走りで後を追い廊下に出る。グループには途中合流、それ以前のアイドル経験もない果実は周囲と比較しスキル面で劣ることも多く、個別呼び出しを喰らうのも一度や二度の事ではなかった。
「まずはライブお疲れ様。歌もダンスも上達が見られてて嬉しいよ。」
「ありがとうございます」
「ただ、ね。ウチは可愛さに振り切ってフリルをふんだんに使ったボリュームのある衣装が多いから、もう少し痩せた方が見栄えが良いと思うんだよね。入所時にした十キロ程度減量しようって話は覚えているかな?」
「はい。五、六キロは落としました」
「うん、じゃああと五キロ頑張ろうか。一か月で落とせなかったら最悪契約解除も視野に入れているから、そのつもりで頑張って」
「……分かりました」
要件を終えた夏空が足早に立ち去って行く姿をお辞儀で見届ける。
果実は元々百六十三センチの普通体型。アイドルを目指し始めた頃からダイエットにも取り組み、入所時には痩せ型の体型となっていた。そこから現時点で約五キロの減量。連日ダンスのレッスンや自主練と運動量も多く、正直これ以上の減量は身体的にも精神的にも厳しいものがあった。
(甘くはないって覚悟はしてた。やっと掴んだチャンスだもん。それくらい頑張れないとダメだよね)
『辞める』『諦める』という選択肢は果実の中には存在しない。
求められることに全力で応えることしか、彼女にはできない。
果実は体力を作るどころか減った気さえする体に鞭を打ち、アイドルとして用意された道を走り続ける。




