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発芽

 新学期が始まり四月も下旬となったとある休日。果実(かじつ)を筆頭とした『チーム小林』一同は聡馬(そうま)の自室に集結していた。学習机の椅子に座る果実を取り囲むように後方に控える聡馬、松基(まつもと)大西(おおにし)。そして果実を含めた全員が見つめるは机の上に置かれたノート型パソコンの画面一点。マウスに手を掛けている果実はゴクリと喉を鳴らし、


「よし……じゃあやるよ……?」


 と、最終確認を取る。聡馬は依然としてすまし顔で、松基・大西両名は果実と同じく喉を鳴らし、コクリと一つ頷いた。まるで示し合わせでもしていたかの様な二人のシンクロ率。普段はいがみ合う事が多いだけに、喧嘩するほど仲がいい、ということなのだろう。

 皆の反応を確認し、果実はもう一度パソコン画面と向き合い


「え~いっ!!」


 作業難易度に反した大層な掛け声と共にマウスを左クリックした。即座に画面に表示される、『投稿完了しました』の文字。この瞬間三、四カ月掛かりのプロジェクトである『オリジナルソング制作』が完了したのだ。


「最後のクリックだけなのに何かめっちゃ緊張したわ……!!」


 バクバクと大きな音を立て存在を主張している心臓に手を遣り、一段と大きな息を吐く果実。その言葉通り最終段階まで仕上げたのは何食わぬ顔で後ろに控えている聡馬であった。果実がオリジナルソングを作ると言い出した時から動画編集を始めとして、松基、大西の専門外でありながらも必須事項となるスキルを独学で身に着けた男。


「あたし自分が作る服には妥協したくなくてさ。進行が予定より大幅に遅れちゃって一時はどうなるかと思ったけど、本当に間に合っちゃうとはね~。杜中(もりなか)君のおかげだわ! ありがとう!」


「いえ、松基先輩が早めに相談して来てくれたので対処できたことです」


「あ、俺も! 勉強教えてくれてサンキューな! おかげで曲作りに没頭できたし、この間の模試の成績も良くて母ちゃん小言言えなくなってたわ!」


「……発端が『解けない問題に頭を悩ませる後輩を見て憂さ晴らしをしようと問題集を投げてきた』事なのは忘れていませんからね」


「あっ……! いや、それはその……マジすいません」


 聡馬の冷え切った視線に身を震わせて白旗を挙げる大西。そして、その光景を見て苦笑いを浮かべる女性陣。とても大西の方が年上であるとは思えない。

 そう、聡馬はオリジナルソング制作期間にスキル取得の為の独学をしただけでなく松基のヘルプとして縫製を行い、大西の勉強の面倒まで見ていたのである。呑み込みが異常に早く器用なこの男は様々な面で『チーム小林』を支えている、なくてはならない存在。おまけにこの期間中殆どの時間を制作関係に捧げていたにも関わらず、模試では二位に大差を付けた上での学年単独トップ。周りが思わず悔し涙を流し、ハンカチを噛みしめたくなる程の天才っぷりなのだ。


「……それはそうとして! これで取りあえずはひと段落かな。皆本当に力を貸してくれてありがとう! これからも変わらず力を貸してくれると嬉しいです!」


 屈託のない果実の笑みが咲き誇り。釣られるように周囲の面々も頬を緩ませた。








——

光輝く未来へ誰かの背中を押してあげられる存在になれたなら。

Music:Nissy

Costume:Rikako Matsumoto

Mix&Movie:Morinaka

Performance:Kajitsu Kobayashi 

Special Thanks:you!

——


 その日果実たちが投稿した一本の動画。四分半程のオリジナルソングMVと一見は取るに足らないありきたりなモノ。しかし、その出来栄えは素人集団によるモノの範疇を遥かに越えていた。


 大西により作られた疾走感のある邦ロック調の楽曲。挫折を経験した人が再び立ち上がり走り出す様を書いた歌詞は、己そして果実の経験を昇華して生まれた背景もあり、リアルに即し共感を呼ぶ。アップテンポな曲調は絶望の中再び立ち上がる強さ、そんな勇者の背中を押す力が表現されていた。


 そして松基による甘辛ミックスな衣装。丈の長さを一ミリ単位で拘ったショートパンツや主張が控えめな縦フリル。動けばフワッと揺れるテールには果実をイメージした上品な色味の緑色を採用。楽曲の持つ『カッコよさ』とアイドルらしい『可愛さ』を絶妙なバランスで融合させていた。これにより楽曲の世界観の表現及び画面の華やかさが一段上のレベルへと引き上げられている。


 また、当の果実によるパフォーマンス。自主練や事務所所属時のレッスンにて鍛え上げられた歌唱力やダンス力を存分に発揮し、今回は振付も担当。地元である田舎の田んぼや畑、山々が広がる広大な自然をバックに身体を大きく動かして踊っていた。足場が悪いものの持ち前の運動神経やバランス感覚を活かし、ふらつく事なく危な気無しに踊る様は称賛に値する。別撮りで収録した歌唱パートは声のブレも無くしっかりとした発声で、やはり自分の経験に近い歌詞であるからか気持ちの籠った歌声であった。


 最後に聡馬の手により統合された一連の動画。引きやリップシンク用のアップ、音源、録音など用意した素材を上手く纏め上げ、MVとして成立させた手腕。そしてそのプロ顔負けの出来栄えの高さ。正に圧巻である。


 必死に磨き頭角を現しつつある才能。

 表に出していなかった才能。

 人の目に留まることが無かった才能。

 交わる筈の無かった才能。

 四つの異なる才能が合わさり、世に放たれた。


 初めは小さな投擲だった。果実に付いていた固定ファンが観に来る程度。しかし、原石達による作品は見る者の心に衝撃を、感動を、高揚を、勇気を与え。小さな波紋がやがて大きな波になるように、瞬く間に伝播し拡散してゆく。投稿後ポツポツと増えていた視聴回数がやがて時間と比例するように増加するようになり、そして加速度的に急速に増加する事態へと発展した。止まる事を知らないかのように回り続ける再生回数。そしてとうとう、前代未聞の急上昇ランキング一位に躍り出た。

 後に果実の一番の代表曲、そして名曲として後世にも語り継がれる事となる楽曲。その題名こそ——


 『田舎娘の快進撃』


 アイドル・小林果実の伝説が始まる。

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