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あの時の誓い

――新人アイドル発掘企画に出てた小林(こばやし)果実(かじつ)とかいうアイドルのガッツがヤバい


——麻衣(まい)ちゃん助けてくれた小林果実ちゃん好きになった。麻衣ちゃんファンとして感謝しかない


——単に爪痕残しに来ただけだろ~。助ける気持ちなんて微塵も無かったと思われ


——等身大のリアクションが良かった。変に可愛く見せようとしてない感じが逆に俺氏には刺さった


——小林果実ってちょっと前にショッピングモールライブの動画で話題になってた子では? 神対応アイドルとか言われてた希ガス


——小林果実ファンは良いぞ~レスも多いぞ~皆こっち側へ来い来い~


——可愛いけどアイドルにしては普通……っていうかインパクトが無い


——パッと見で目を引く感じではないよな


——性格良さそう


——こちら小林果実ファン。アイドルとしてグイグイと急成長しているので数年後には大きくなっているかもしれませんよ。


——番組見て小林果実ちゃん好きになりました! 何事にも一生懸命取り組んでる姿が推せる!


——小林果実気になって調べたら今月末で所属グループ抜けるらしいぞ


——今が注目されててチャンスだろうに勿体なくね? どーせグループの事を考えられない自己中な奴なんだろ


——本人知らんから性格云々については何とも言えんけど、俺は単純に番組見て小林果実好きになった。頑張ってほしい


「——だってさ。いや~想像はしてたけど、良くも悪くもやっぱ地上波の番組出演って反響が凄いね~」


 果実に背中を向けて座り、携帯を物凄いスピードで操っている松基(まつもと)が呟く。

 初めての出演番組が放送された直後の三月下旬。果実はオリジナルソングで着用する衣装のフィッティングのため松基宅に訪れていた。到着して直ぐに松基の自室に通され、トルソーに飾られた衣装を試着するよう伝えられ。果実が着替えをする間、松基は世間の反響を調べているのであった。


「好意的に受け止めて貰いたいなって気持ちはあるけど……どう見えたにせよ、沢山の人の目に留まれた事は純粋に嬉しいよ。折角意識の隅に置いてもらえたんだから、その方達に元気を届けられる様にこれから一層頑張らなきゃなって思ってる……っと出来た!」


「お? どれどれ」


 果実の声に松基は操作していた携帯を置き振り返る。果実は全身鏡の前でターンをしたりとご機嫌そのもの。作成した衣装を気に入っている様子を確認でき、人知れず松基はホッと息を吐いた。


「カッコ可愛いって感じでこの衣装最高!! やっぱ璃日心(りかこ)天才だよ~!! 世界的ファッションデザイナーになるのも夢じゃないね!!」


「大袈裟だって。アイドルと同じようにデザイナーだって簡単な世界じゃないの~」


 裏表の無い満面の笑みで語りかけてくる果実を前に松基も頬を緩める。口では可愛くない事を言いつつも、やはり自分の作った服を褒められる事に悪い気はしない。




 松基璃日心の夢はファッションデザイナーだった。小さい頃からファッションが大好きで、とりわけ服に松基は魅せられた。小学校低学年の時点で将来の夢はファッションデザイナーと決まりその夢を追い続けるも、ある種博打のような夢を両親は手放しで応援することもできず衝突を繰り返し。度重なる家族会議を経て、学業を疎かにせず進学校を卒業できたら夢を追うことを応援する、との結論で落ち着き、その条件を満たすため今通う学校に進学した。そこで出会ったのが小林果実である。一年の時に偶然同じクラスで何かの拍子に果実が話かけてきた事をきっかけに仲良くなり。進路の話題が初めて出た帰り道、松基は意を決して自分の夢を口にした。


「あたし、ファッションデザイナーを目指してるの」


 その時の返答は今でも鮮明に覚えている程、松基にとっては衝撃的で感無量であった。

 成長するに連れ周りの友人はどんどんと現実を見だし堅実な夢へと変化していく中、自分は変わらず幻想の様な夢を追っている。両親の件もある。どうせ誰にも理解されず、表面的な肯定やネガティブな言葉が返って来るのが関の山だと諦めていた節もあった。そんな中、果実は


「ファッションデザイナーか~凄いね! 私夢とか無くてさ。熱中できる事をこんなに早くから見つけられるって凄いよ! 応援する!!」


 そう裏表の無い満面の笑みで告げたのだ。夕焼けの赤くなった空。太陽が落ちかけ暗い影が差す中果実は穏やかな光を放ち、そして澄んでいた。まるで悠久の自然みたいだ、と思ってしまった。唐突に詩人チックになる自分自身に松基も思わず笑ってしまうが、この時は本当にそう感じたのだ。心の奥で燻っていた火種も凪いでしまう。そんな綺麗な親友に松基はハニカミながら誓いを立てる。


「ありがとう。いつか果実に夢が出来たらさ、あたしも応援するよ」


 今こそあの時の誓いを果たす時。不思議な魅力を携えた果実に手を差し伸べてやりたいと思うのは、あの時から変わらない紛れもない松基の本心なのだから——。




「? 璃日心?」


「! あぁ。ごめんごめん! ちょと昔の事を思い出しててさ」


 意識を懐かしい日に飛ばしていた松基は果実の声で現実に帰る。今思い返すのなら、あの時に『小林果実』という人間の一ファンになったのかもしれない。松基の返答に納得がいかないのか、果実は松基をジッと見続け


「大丈夫? ハッ! もしかして衣装作るの大変で疲れちゃった!? うわ~気付かないでごめん~!」


 一人で焦り慌てだす。どんなに立ち居振る舞いが、外見が、立場が変わっても根本的な所は変わらない果実。そんな姿を間近で見られて友人兼ファンとしては嬉しい限りだ、と松基は思う。


「そんなんじゃないから! あたしが服作るの大好きなの果実が一番良く知ってるでしょ! そんなことより、鏡に向かってしっかり立つ! 細部のチェックしていくから」


「うえぇ~⁉ 何かあったら早めに言ってね⁉ 約束だよ⁉」


「分かってるって。う~ん……ウエストはもうちょい絞るか。丈も気持ち上げた方が見栄えが良いかな……。肩周りとか動いてみて違和感は――」


 松基の目つきは瞬時に真剣なモノへと切り替わり、果実と衣装を見つめる。己の好きが詰まったモノへの妥協は許さない松基のチェックは夜遅くまで続くのであった。

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