洗礼③
<<注意>> 今回の話では物語の進行上、(動きはしませんが)虫が登場します。苦手な方は注意してください。
「もう一人の罰ゲーム執行者は……MVPに輝いた七橋麻衣さんです!!」
「私!?」
予想だにしていなかったMVPが罰ゲームを受ける展開に、ひな壇一同ざわめき出す。再びカメラで抜かれている七橋もその大きな瞳を零れんばかりに見開いていた。
そんな演者を他所に、番組スタッフはいそいそと罰ゲームの準備を進める。愛実の際とは異なり、今回はサテン生地の布で目隠しをされた何やら不審な箱が登場した。
七橋は収録セット中央、今しがたセットされたばかりの不審な箱の真ん前に立たされる。
「それでは、七橋麻衣さんに挑戦して頂く罰ゲームはこちらです! ドンッ!!」
MCの手により箱を覆い隠すヴェールが剥がされる。
露わになった中身に皆の視線が注がれ——
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」
間近に居た七橋が悲鳴を上げて飛び退いた。周りのアイドル達も同じく悲鳴を上げる者、口を手で覆う者と三者三様のリアクションであるが、唯一共通しているのは否定的であること。あの覚悟ガンギマリ少女の愛実ですら笑顔を引き攣らせている。それ程の衝撃。
箱の中身は虫だった。
正確には調理加工後の食虫用の虫。しかし手が加えられていると言えありのままの姿をしており、耐性の無い者からしたら拒否反応を起こさざるを得ない。それが皿の上にこんもりと用意されていた。つまり、単刀直入に言えば虫嫌いには中々に辛い状況。
「七橋さんにはこちらを食べて頂きます!!」
「え!? 食べる!? m……」
無理、と言いかけたのだろうが踏みとどまる七橋。出来る限り箱から距離を取り、真っ青な顔をしている所を見ると生理的に受け付けていないのは明白だ。が、微かに残っていた理性が本能を抑制したのだろう。
あれよあれよという間にスタッフの手により小皿に虫がよそわれ、七橋の手に渡る。受け取れたまではいいものの、七橋は皿を体に近づける事も出来ず目を背ける。
「それでは、七橋さん罰ゲームの実行をお願いします!」
MCの進行を受け七橋は必死に皿に目を向けようとするも叶わず。何回も挑戦を繰り返すも、やはり本能から来る拒否感に抗う事はできず、失敗に終わるばかり。
ただ時間だけが消費されていく。
今回の収録で初めての間延びだった。
「……もしどうしても無理だったらメンバー間で助け合っても良いですよ」
可哀想に思ってか、それとも単純に収録の出来を危惧してか。MCが助け舟を出して来た。その提案を受け、七橋はバッとグループの方を振り返るも、メンバーは目を逸らすか曖昧な笑みを浮かべるばかりで。
次第に、この状況早くどうにかしてよ、といった空気がひな壇から流れ出す。
無言の圧に退路も見つからない絶体絶命の状況下。
「や……やります……」
七橋は小さく震えた声でそう口にした。最早宣言とは言えない。この状況が言わせた言葉だった。
頬には冷や汗が流れ、震える手足。瞑っていた瞳を薄く開きながら決死の想いで皿に目を向けるも、そこから先の行動に移る事ができない。
(頑張らなきゃ……! 頑張れ自分……!)
必死に鼓舞するも、より中心に根ずく本能により行動が阻害されてしまう。
行きも退けも出来ない絶望的な状況。
そんな暗闇の中で——
「……ッ私! 私が代わりに挑戦してみても良いですか!?」
七橋の心に一筋の光が差し込んだ。
目を向けた先では、希望の光が大きく挙手をして立ち上がっていて。ひどく純粋な瞳で唯真っ直ぐと此方を見つめていた。




