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洗礼②

 スポットライトに照らされ一身にカメラを集める愛実(まなみ)を見て果実(かじつ)は思う。

 このような頑張り方があるのか、と。

 果実は文字通りの『全力』を出す事しか選択肢が存在していなかった。それはある種果実が思い立ったら即行動の猪突猛進タイプであるが故なのかもしれない。

 しかし、愛実は違ったのだ。愛実は此処に集ったアイドル全員が正攻法の『全力』で勝負しに来ている事を早々に理解し、番組の進行そして見せ場作りも含めた立ち回りを見極めてヒール役を買って出たのであった。つまり、必要不可欠だが皆が就きたがらない役を引き受けるために『全力』を出した。果実と愛実では根本的な捉え方が異なっていたのだ。

 その意図に気付いた果実は改めて愛実のことを凄い人物だと思う。成れる事なら誰もがヒロインの座を狙いに行く所。それを敢えてヒール役を取りに行く勇気。そしてそれが鼻につかない様に振る舞う器量。全てが称賛に値するモノだった。


「残念にも逆MVPに輝いた『夏の華』酒砕(さかさい)愛実さんには、テコ入れとして電流椅子の刑が下されます!」


「えぇ~電流!?」


 逆MVPへの罰ゲームを受けるべく、セット中央に設置された椅子へとリアクションを取りながら移動して行く愛実。嫌だ、だの口では色々と否定的な言葉を吐いているが、その足取りはしっかりとしていて。その時になってみなければ分からない罰ゲームの内容。何が来ようと完遂してみせる、という強い覚悟を持って収録に臨んでいたのだろう。


「えぇ~怖い~~。いやぁ! いつ? いつ来ますか!? タイミングh、ッたーいッッ!!」


 座った椅子に突如として電流が流れ、飛び上がり勢いそのまま床にダイブする愛実。バラエティ初挑戦としては相当な出来栄えなのではないだろうか。怖がっている()()をしている最中に電流を流すスタッフの手腕も中々のモノである。


「どうでしたか、酒砕さん?」


「いや……、もう、お尻から火が噴いてます……」


「ハハハッ良いコメントですね~。これに懲りて今後はガツガツと頑張れそうですか?」


「はぃ~。もっと頑張ります……! いや、本当に痛いんです! 本当に!!」


 最後のインタビューも卒なくこなす愛実。

 色々な角度からカメラが愛実を映し、尺も十分。この番組が実際に放送された暁には、愛実は視聴者の印象に強く残ることだろう。


(今回は完全に愛実ちゃんに完敗だなぁ)


 競っている事実などないのだが。自然と果実は負けを認めていた。

 ただ真っ直ぐに全速力で走るだけが『全力』、ひいては正解ではない。

 そう仕事に真摯な少女(まなみ)から学んだ日。

 お仕置きという名の罰ゲームを終えた愛実が元の席に帰ったのを確認し、MCは番組の締めに入った——かと思いきや


「以上、最後のコーナー『天国と地獄』でした!……、と言いたい所ですが。何とこれで終わりではありません!」


 予想外のMCの進行にスタジオに居るアイドル達はザワザワと戸惑いを見せる。

 リアクションではない。正真正銘の戸惑い。

 事前に配布されていた台本には、逆MVPが罰ゲームを実施し終了と記されていた。予想外の出来事に皆が一時収録であることを忘れる。眉を顰めるもの、目を見開くもの、同じグループのメンバー同士で見つめ合うもの……。その反応は様々だ。

 絶妙な間を取ってMCが告げる。


「皆さんお気付きになりませんでしたか? このコーナーのタイトルは『天国と地獄』。……そう、もう一人罰ゲームを受けなければならない方がいらっしゃいます」


 バラエティ初心者への洗礼。

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