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洗礼①

(これはヤバい……! 想像以上にヤバすぎる!!)


 収録も残す所ワンコーナーとなった時、果実(かじつ)は穏やかな笑みを作りつつ内心焦燥感に駆られていた。それもその筈、既に消化された数コーナーにおいて、絶対に使われる、と確信が持てる程の『見せ場』が作れていないのだ。集まった新人アイドル全員が予想以上に『カメラに映ること』に貪欲であり、ガヤも含め激しい攻防が繰り広げられていた。MCも話を引き出す話術が巧みであり、反対に面白くないと察知したら落とし所を早めに付けて切り上げる能力が異常に高い。そのため収録は変に間延びする事もなく、『撮れ高』を確保しながらテンポ良く進むことができていた。

 流石敏腕MCと言いたい所ではあるが、今の果実にとっては洗礼も同然に感じる。自分をアピールしようにも、入る隙間を見つける事が出来ずに二の足を踏んでしまうのだから。


「それでは最後のコーナー、『天国と地獄』に参りましょう! 

 このコーナーでは、既に行われた三コーナーを通して最も『頑張っていた』アイドルと『もっと頑張ろう』というアイドルをMCが選出。選ばれたMVPと逆MVPのお二人にとある企画にチャレンジしてもらおう、というコーナーでございます」


 いえ~い、と果実はリアクションを取るも、他の出演者も同様であり特段目立つ訳でもない。MCの投げかける言葉に逐一『大きく』を意識したリアクションをするも、ハイエナの巣窟と化したこの場では埋もれてしまう。どうしても周りから一歩抜ける、という事に苦戦を強いられる。


「~~。それではMVPと逆MVPの発表に移りましょう。まずMVPは……」


 照明の光度が一時的に落ち、ドラムロールが流れる。

 それと同時に果実は手を合わせ、祈りを捧げた。テレビ番組の演出を意識して、という側面も少なからずあるが、大方はここで選ばれたい、という本心から来るもの。手応えこそないものの、全てに全力で取り組んだ自負はある。

 シンバルが大きく響いた後、


七橋(ななはし)麻衣(まい)ー!!」


「やったー!! ありがとうございますっ!!」


 無残にも希望は絶たれた。

 ここでもやはり『七橋麻衣』。本当に七橋は根っからのヒロイン気質なのだろう。全員努力は当たり前かのようにしている。それでも七橋自身が目を引く存在であるが故に、その努力にも目が行きより応援したくなる好循環が生じているのだろうか。


「続いて、逆MVPの発表です。いや~これは大変不名誉ですけどね。それでは発表します。逆MVPは……!?」


 再度落ちる光度に、掛かるドラムロール。


(この際、逆MVPでも取れればな~。そうすれば確実にカメラに映れるのに……)


 果実は九割九分九厘選ばれる事はないと悟った上で、早々に本日の収録を振り返る。果実のポリシーに反しているため『全力で取り組まない』という選択肢は存在せず、実際は実現不可能ではあるのだが。そんなタラレバをつい考えてしまう。

 自己反省会を繰り広げている内にドラムロールが止んだ。

 MCが一際大きく息を吸い込み


酒砕(さかさい)愛実(まなみ)ー‼」


「えぇ~⁉ 私?」


 パッ、と果実の()にスポットライトが当たる。

 光に照らされた愛実は大きく目を見開き、私しっかりやってました、と訴えんばかりの驚いた表情をしている。

 しかし。

 長くないとは言え、それなりの期間を共に過ごしてきた果実には分かる。


(こッ、こいつ……!! さてはハナから狙っていたなッ!?)

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