再会
「よろしくお願いしまーす!!」
初めての経験に心躍らせながら、果実はスタジオ内に足を踏み入れる。
スタジオでは大勢の番組制作スタッフが行き来しており、カメラも数台設置されていた。既に展開されている収録セットにはひな壇も設置されており、テレビでよく目にするバラエティー番組の様相そのまんま。その光景を前にして気が引き締まるのではなく、自然と感動を覚えてしまうのはまだ芸能界を戦場としている自覚が不足しているからなのであろうか。
時は三月上旬某日。果実は初めてのテレビ出演当日を迎えていた。出演する番組は『ネクストジェネレーション 新人アイドル発掘企画』と題したバラエティー番組。大御所芸人を番組MCとして迎え、新人アイドル数十組が集い様々な企画に体当たり挑戦していく趣旨の企画である。
「『夏の華』の小林さんですね。お席は此方になります」
番組スタッフの案内に従い席に着く。
座席はグループを単位として可能な限り横幅が狭くなる様に配置され、その塊が各グループ毎に横並びになるよう決められていた。『夏の華』に割り当てられていた席は一番下手側。今回集められた新人アイドルグループの中で最も先方の考える『序列』が低いという事なのだろう。
グループ内で見れば果実の席は最前列だった。数カ月前に実施したショッピングモールでのライブをきっかけにSNSで『小林果実』の名前が拡散し、一躍知名度が急上昇した事が大きく影響しているのだろうか。
果実は続々とスタジオ入りして来るアイドル達に目を向ける。
今回は番組側が用意する衣装はなく、各々のグループで所持している衣装を着用しての出演。メンバーカラーが強調された衣装を採用しているグループが多く、人数が増える事で一気に華やかな雰囲気となっていた。
(沢山の人に私の存在を知って貰うには、ここに居る皆よりも良い意味で存在感を出す……所謂『爪痕を残す』って事をしなくちゃいけないんだよね)
今日自分がやらなければいけない事を改めて確認する。ここに集う皆がブレイクする為の『要因』を探し求めてこの場に臨んでいるだろう。その熾烈極めるアピール合戦の場で『個性』を上手く出せなければ『カット』され、実際の放送ではほぼ映っていない、なんて可能性も大いにある。
収録開始予定時間が迫ると共に緊張も高まり、手に汗を握り始める。
「よろしくお願いします!」
そんな時に『夏の華』のメンバーが一斉にスタジオ入りして来た。中でも愛実は普段と変わりなく、私が一番可愛い、と考えていそうな自信に満ち溢れた表情をして颯爽と先頭を歩いている。そんな愛実の様子に何故か安心感を感じ、果実は人知れずフフッと声に出して笑った。
「何笑ってんのよ」
頬を綻ばせている果実に愛実は眉根を寄せながら、その隣に着席する。やはり果実の隣の席に割り当てられていたのは愛実。若干の棘を含むようなその言動も今では愛おしく感じる。友達ではなくとも、頼りになる仕事仲間が隣に居ることはこんなにも心強いものなのだ。
「別に。何でもないよ」
「何よ、それ」
愛実は訝し気な顔をし続けるも、果実はニコニコと微笑みを返すばかり。こうなっては果実が折れる事はないと知ってか、愛実はわざとらしくため息を一つ吐き、果実から顔を反らした。
そんな折に
「おはようございまーす! よろしくお願いしま~す!!」
と聞き覚えのあるハキハキとした声がスタジオに響き渡る。果実が出入口に目を向けると、その声の出所である少女と目が合った。愛くるしい大きな瞳。前回とは異なりツインテールに纏められた綺麗な茶髪。女の子の理想を詰め込んだ様なピンクのヒラヒラフリフリ衣装を華麗に着こなす少女。
忘れもしない。ナイヨ芸能事務所オーディションで出会った、七橋麻衣であった。
七橋も果実のことを覚えていたのか、目が合った瞬間に足早に向かって来る。眼前まで来た七橋は果実の手を取り、
「果実ちゃん久しぶり~! 元気だった? 会いたかったよ~!」
思わず同性の果実ですらもドキッとする破壊力抜群の煌めきスマイルをお見舞いする。果実がアイドルとして活動をしてきたように、当然七橋もアイドルとしての経験を積んで来ている訳で。七橋スマイルは各段の進化を見せていた。フリーズ不可避であった果実とは反対にギョッとした顔で七橋を直視した愛実はある種の猛者であろう。
「……ま、愛実ちゃん! 久しぶりだね。私もまた会えて嬉しいよ。今日は頑張ろうね」
「うん! お互いに頑張ろ~!!」
七橋は硬直から復帰した果実と簡単に挨拶を交わし、席に移動していく。果実がその姿を目で追っていくと、七橋が座るは当然の如く上手の最前列。この中での最高序列に君臨していた。
「分かってるとは思うけど、今この場に於いてあの子はライバル。間違っても馴れ合いなんかしないでよ」
七橋を見つめている果実に隣から釘を刺される。
愛実をチラリと一瞥すれば、背筋をスッと伸ばしてお手本の様に優美に座り、ただ真っ直ぐに前を見つめている。この少女は仕事となればどこまでも信頼が置ける。そんな愛実に倣う様に果実も居住まいを正し
「分かってる。もう自分のやるべきことを見誤ったりはしないから」
隣に居る戦友に応える。
未来を左右する勝負が始まるまで後数分。




