プレゼントは突然に
二月十四日。
世間はバレンタインデーで盛り上がりを見せる日。青春真っ只中の高校生にとっては一大イベントであり、チョコレートが貰えるかソワソワする者、チョコレートを渡そうと緊張する者など学内も浮ついた雰囲気に飲まれている。自由行動が許される昼休みは特にその傾向が顕著であり、普段見かけない組み合わせが一緒に行動していたりと、より一層甘酸っぱい空気が漂っていた。
しかし、そんなイベント事とは無関係化の様に、果実を筆頭とした『チーム小林』は例の如く数学研究部の部室に集合していた。
「で‼ オリジナルソングのデモ曲が完成したんだって⁉」
全員が集合して開口一番、果実が本題を切り出す。
余談であるが、大西が楽曲作成をする事が決まった日に果実は『チーム小林』のチャットグループに彼を参加させている。クラスで形成されているグループチャットから大西の連絡先を取得して『チーム小林』に招待した形であるのだが、その都合上、両者共に個人の連絡先を取得する事になり、大西が密かに胸を弾ませていたことは彼だけの秘密である。
「まぁ一様は」
果実とは逆の方向をプイッと向き、ぶっきらぼうに応える大西。昼食用に持参していたコンビニパンは三種類あったにも関わらず既に完食してた。それは食べ盛り故か、はたまた緊張故なのか。
「勿体ぶってないで早く聴かせなさいよ。採用するしないに関わらず、話はそれからなんだから」
「お前に言われなくても分かってるわッ!」
頬杖を付きジト目で大西を見やる松基に、大西が喰ってかかる。
そんな一歩間違えば喧嘩待ったなしである上級生達のコミュニケーションに我関せずで昼食を堪能する聡馬。唯一の年下であるが遠慮や過度な気遣いはしない、どこまでもマイペースを地で行く男だ。
松基は夏前に起きたひと悶着で果実を詰るようにして絡んで来た事が未だに許せないらしく、大西に対しては当たりが強かった。その背景を果実から聞かされ宥められようと、言い方の配慮くらいはできたでしょ、と怒りを鎮める事はできず今に至っている。
対して大西は大西で松基の言い分を理解しつつも、その性分から強く当たられると反発して喧嘩腰となってしまう。
正に水と油のような関係。ある意味相性は良いのかもしれない。
「……耳かっぽじってよく聴けよ」
大西はポケットから携帯を取り出し、軽く操作をする。照れ隠しなのか少々乱雑に机に置かれた携帯から聞き馴染みのない音楽が流れ出した——。
「……てな感じだな」
楽曲の再生が終わると手早く携帯を回収する大西。自分が作った曲をその事実を知る知人に聴かれ講評されるこの状況。やはり彼は少なからず羞恥心を感じているらしかった。
「アイドルらしさ、みたいなのは皆無だね」
真っ先に松基が感想を述べる。その表情は真剣そのものであり、嫌味を含まない純粋な感想である事が伺われる。
「そう宣言した上で果実は依頼している訳ですし、そこは論点に入れなくても良いんじゃないですか? 曲としては悪くなさそうだと俺は思いました」
「それはそうなんだけどさ。それでもなんかもっとこう……、ガーリーって言うの? なんかそんな感じの雰囲気をもうちょっと感じられる様な曲の方が良くない? 果実はアイドルなんだし、観に来るであろう視聴者層もそういう楽曲を期待しているじゃない?」
「それは考えられますね。ですが、今所属しているアイドルグループがそういう雰囲気の楽曲しかないので、ポジティブに考えれば意外性はあります」
「確かに。ま、最終判断は果実だよね。で? あんたはこの曲どう思うの?」
聡馬と松基により意見が応酬された末、バトンが果実に渡される。
果実は腕を組み模範的な考えるポーズを取った後
「う~ん。私は良いと思うな。今回は記念すべき初のオリジナルソングだし、私らしさが表現されているモノにしたいんだよね。だから今はアイドルらしさは要らないかなって。もしそれを求めているファンの方が居たら申し訳なくはあるんだけどさ」
眉を下げながら意見を告げる。
「果実が良いと思うなら決定で良いんじゃない? 私も曲自体は悪くないって思ったし」
「曲の細かい調整は適宜意見を出し合って行いましょう。俺は変わらず管理進行を行います。大西さんは継続して曲作り、果実は歌とダンス、松基さんは当初の予定通り衣装担当という事で宜しいですね?」
「うん。今聴いた曲調に合わせて考えるわ。案が出来たらチャットで流すから意見頂戴。大方纏まったら制作に移る」
果実の好意的な意見を受け、流れるように今後の方針が決まっていく。
それぞれが異なる得意分野を持ち、そして自分の意見は言える人であるから毎度会議は有意義だ。
改めて集まったメンバーの才能豊かさに感嘆し、同時に自らに力を貸してくれてる事に感謝する。本当に良い仲間を持ったと、果実は心から感じた。
「では、それで。四月中には完成できるよう管理しますので、何かありましたら適宜早めに相談してください」
部室に飾られていた壁掛け時計は昼休み終了間近を知らせており、聡馬は手短に締めの言葉を結ぶ。特に一学年の教室はここから距離があるため、余裕を持って早めに行動しておこうという動機であろう。会議を締めた聡馬が足早に立ち去ろうとするのを
「あっ! ちょっとだけ待って!」
と果実は引き留める。
「大した事じゃないんだけど。ここに居る皆には日頃の感謝を込めてプレゼントを持って来たの。今日はバレンタインだからね! 聡馬には家でも渡せるんだけど、どうせなら一体感って事でこの場で。
……どうぞ! いつもお世話になってます。これからもよろしくね!!」
果実はトートバックの中からラッピングされた小袋を取り出し、各自に渡していく。中身は手作りブラウニー。学業とアイドル活動で忙しい日々の中で何とか捻出した時間で作った物。
受け取った聡馬は一言礼を言い、立ち去って行く。
渡し終えた果実も松基と共に部室を出ようとすると
「あれ? 大西はまだここに居るの? 誰よりも早くご飯食べ終わってたよね?」
動く気配のない大西に声を掛ける。
果実の言葉にハッとした大西は慌てて
「ッあ! いや、もうちょっとしてから出るわ。流石にお前らと一緒に行動するのはちょっと憚られるって言うか……!? な!? まぁ何でも良いだろ! 次の授業には間に合うように帰るし!?」
「? じゃあ先に行ってるね?」
若干のキョドりを見せる大西を不審に思いながらも、部室を後にする果実達。
部屋に一人残った大西は今しがた果実から貰ったばかりの小袋を眺め
「……マジか。俺、学校のマドンナからバレンタイン貰っちまった……。マジヤベぇ」
片手で口元を覆いながらもその笑みを隠しきることは出来ていない。
バレンタインデーの存在に感謝する者がここに一人、新たに誕生したのであった。




