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ハプニングを味方に付けろ①

「~~。それでは拍手でお迎えください。アイドルグループ『夏の華』の皆さんです!」


 司会のフリに合わせメンバー一同壇上に上がる。

 普段ライブに参戦しているファンが来てくれていた事もあり、観客がゼロという事態は回避できていた。しかし、やはりそれでもライブ観客用に区切られたスペースにはまだまだ余裕がある。勝負は持ち時間の中でどれだけの人に足を止めてもらえるか。またしてもアイドルとしての資質が試される。


「皆さんこんにちは~! 夏の華で~す!! 今日は皆さんを楽しませられるよう全力で頑張ります! よろしくお願いしま~す!!」


 センター・愛実(まなみ)の挨拶と共に一曲目が流れ出す。披露する楽曲は五曲、MCも含め全体で三十分に納めなければならないため駆け足での進行だ。


(りっくん! 今日も来てくれたんだ~!)


 果実(かじつ)は見慣れた顔ぶれの中に最も馴染みのある顔を見つけた。

『りっくん』。本名・笹垣(ささがき)陸都(りくと)。果実がアイドルとなって初めて獲得したファン。そして、悲しい顔をさせてしまったファンでもある。先月行われたクリスマスライブでは心機一転、己のアイドル道を突き進むことを決め進化した果実のパフォーマンスを絶賛。その後に行われたお見送り会では、熱が冷める事もなく感動を直接言葉にして伝えてくれたのは記憶に新しい。


(今日も一緒に楽しもうね!)


 その想いを乗せ、果実は踊りながら笹垣に微笑みかける。


(あ、タケシ君! 久しぶりだ~! その隣の人は愛実ちゃんのファンの人だ。いつも最前列でペンラ振ってくれてる姿が印象的なんだよね。あっちの人はこの間のライブで初めて見かけた人だ! また来てくれるなんて嬉しいな~!)


 パフォーマンスをしながらも視線は基本観客一人一人へ向け、目が合えば指ハート、ウインク、ピースサイン……等々所謂『ファンサ』を送っていく。星川にダンスを教えてもらってからというもの、果実はコツを掴み一気にレベルが上がった。踊っている最中に余裕が生まれ、ファンサを入れられるようになった事もその影響であるし、キレや髪のたなびかせ方などダンス自体の魅せ方も上達。周りと遜色ないどころか、それ以上に魅力的なダンスを披露できるまでになっていた。『足を引っ張っている』姿など、もうどこにもない。

 見栄えのするダンスに惜しみのないファンサ。

 待機していた観客だけでなく偶々通りかかったショッピング客も果実に目を引かれ出し、次第に足を止める人の数も増えて行く。


「何この人だかり。何々? 何があってるの~?」


「なんか『夏の華』?ってアイドルがライブやってるらしいよ」


「え~聞いたことないな~。でもこれだけの人が聴いてるんだし、ちょっと見て行こうよ」


 多くの人が注目を集めるモノに興味関心を抱く心理的効果も働き、続々と観客が増えていく。正に人が人を呼ぶ状態。その効果は止まる事を知らず、気づけばライブ用に区切られたスペースは満杯。規制線から大きくはみ出す様に観客は群をなし、二階から覗くようにして見物する者まで出始めた。

 それでも果実は老若男女問わず一人一人に目を向け続ける。


(今日キミと出会えたこと、すっごく嬉しいよ。キミを照らす一つの光になるために、その心の隅にでも住まわせてもらえると嬉しいな)


 その想いを込めて一対一でのコミュニケーションを取っていく。

 顔馴染みのファン、他メンバーのファン、久しぶりのファン、初めましての人、列の後方、二階で見ている人……。それら全て関係なく、同じだけの熱量を持って相対す。


「推しには申し訳ないんだけど、なんか最近果実ちゃんを目で追っちゃうんだよね」


「久しぶりにライブ見たら小林果実めっちゃ化けてるな!? こりゃ推しだわ!」


「あの水色の子めっちゃ可愛くない? 私目合っちゃった!」


「ママ~! 水色のフワフワなお洋服着たお姫様がいるよ!!」


「ヤバッ! オレ絶対ニコッてされたって! マジやべぇ!!」


「え、二階にも顔向けてファンサまでくれるんだけど! すご~い! あの水色の子なんて名前の子なのかな?」


 所彼処で果実に関する話題が上がる。

 少し前まで田舎の無名の少女であった果実が、今この空間を支配していた。

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