まだ見ぬキミへ想いを馳せる
学業にレッスンにと瞬く間に時は過ぎて行き——。
一月下旬某日。果実達『夏の華』はグループ史上初のショッピングモール内でのライブ当日を迎えていた。ライブ劇場で行っていた今までとは違い、誰でも無料で観覧可能なこのライブ。偶々ショッピングに来ていたお客さんにグループのことを知ってもらう良い機会だ。その反面、果実達のことを知らない人達の中で行うアウェイなライブとも言える。人に足を止めさせるだけのパフォーマンスができなければ、閑古鳥が鳴いて終わることも考えられるだろう。それ故にメンバーは何時も以上に期待と不安を膨らませていた。
「ヤバい! とうとうこの時が来た…!! 初めての外でのステージ緊張する……!」
「ね! お客さんいるかな!? どうしても心配になっちゃうよ~!」
「もう少しで本番なんだからしっかりしなさいっ! 緊張ばっかりしてたら体の動きが硬くなっちゃうよ!」
本番直前の控室。メンバーの一員である緑色の少女と白色の少女が手を取り合い震える中、赤色の少女が叱咤激励する。
赤色の少女は『夏の華』リーダー。メンバーの変化を敏感に察知し、時には寄り添い、時には尻を叩きと、就任時からメンバーを支え続けている一人だ。その様からファンの間で『夏の華のオカン』と呼ばれている事は、彼女本人の知る所ではない。
「リーダーの言う通りよ! 一歩ずつ頑張ってやっとここまで来たの。堂々と今までやってきた事を出し切ればきっと良いパフォーマンスになるわ!!」
化粧直しをしていたピンクの少女・愛実が赤色の少女に続く。センターを務める愛実は人一倍前向きで、常にメンバーの一歩前を歩き結成当初からグループを引っ張り続けて来た。
愛実の言葉に黄色、オレンジの少女も力強く頷いた。
グループの精神的支柱である二人の言葉を受け、『夏の華』初期メンバーの表情が引き締まる。様々な苦難を共に乗り越えて来た。その経験に裏打ちされた自信が湧き上がる。
自然と円陣が組まれ、赤色の少女が掛け声をかける。
「絶対成功させるぞ!! 届けるのは弾ける笑顔!! ウィーアー~!?」
「「「「「「夏の華!!」」」」」」
眩しい笑顔と共に重ねられていた六人の手が一斉に上がる。
その姿を果実は一人、控室の隅で眺めていた。
決裂するまで形上は円陣の中に入れてもらっていた分、今その輪の中に自分が入れないことを微塵も寂しく思わないと言えば嘘になる。が、苦しさはない。例え一人弾かれようと、それは果実自身が選んだ道。馴れ合いはせずとも切磋琢磨し互いに良い影響を与え合う関係。そんな今の関係こそが、果実とメンバーの間では最適な距離感であったのだろう。
穏やかな空間から視線を外し、果実は鏡に向き直る。
今日は無地でフリフリの衣装。フリルやレース部分以外はメンバーカラーの布で仕上げられており、存在感も抜群だ。水色を着用していることもあり、童話に出てくるお姫様にでもなった気分になる。
果実はハーフアップに纏めた髪に付けているリボンの位置を微調整する。このリボンも衣装に合わせて製作された小物。果実用は水色のシフォン素材でたれが長めに作られており、ターンの度にフワリと舞う姿が可愛らしい。
右に左にと顔を傾け、どの角度から見ても問題ないか念入りに確認。納得のいく出来に仕上がっていることを確認し、最終工程としてリップを塗り直す。果実の中にあった、『リップと言えば赤』という固定概念を捨て、最近使い始めたピンク味のあるリップにも漸く見慣れて来た。
(よし、バッチリ)
「『夏の華』の皆さんお時間です。スタッフが先導しますので、指示に従って行動してください」
「はい‼」
会場スタッフからの声が掛かり、グループ一同移動を開始する。
(初めましてのキミに今日は会えるかな?)
まだ見ぬ観客……、否、ショッピングモールを訪れている全ての客に想いを馳せ、果実はステージへ向けて歩みを進めた。




