顔合わせ
「紹介するね。こちら杜中聡馬、私の従弟。顔良し、頭良し、運動神経良しで、見ての通りの不愛想さ以外は欠点がない男だから、それはそれはモテるのよ。従弟ってバレたら仲介役を頼まれたり色々面倒だから今まで隠してたの。ごめんね。
それから、こっちが松基璃日心。私の一番の友達。アイドル目指し始めた時から相談に乗ってもらったり、ずっと協力してくれてるの」
「初めまして、杜中聡馬です。よろしくお願いします」
「あ、はい。えっと松基璃日心です。よろしく……?」
果実の紹介に続き聡馬と松基が簡単に挨拶を交わす。
落ち着き払っている聡馬と未だに衝撃を受けている松基。ぱっと見ではどちらが年上か分からない。
凝視されていることを微塵も気にせず聡馬は空いている席へと座り、持参していた弁当箱を広げ始めた。高いスルースキルの由縁は遺伝か、はたまた環境か。
「それじゃ時間も限りがある事だし、続きはお昼食べながら話そうか」
「そ、そうね」
松基はひとつ居住まいを正してから上品に弁当箱を広げた。意識的に伸ばした背筋を保ち、普段よりも格段に小さい一口を口に運ぶ。心なしかその所作も緩慢だ。咀嚼の度に一度箸を置き、水を飲む際にはペットボトルの底に手を添える。こんな事一度だってやったことはない。気分はさながらお嬢様。実際のお嬢様を見たことがないため、『なんかやってそう』という想像の範疇でしかないのだが。
(今のアタシ結構良いんじゃない!? ポイント高くない!? 素敵女子じゃない!?)
溢れかえる自画自賛。
愛飲中のお茶は不思議と特別美味しく感じる。
松基璃日心という少女は面食いだった。
本気の恋愛をする場合は違うかもしれないが、今は『恋に恋する女の子』状態。他の女子と一緒に周りでキャーキャー騒ぐことにも楽しさを感じている松基がイケメンに食いつきが良くなることは致し方のないことだ。
(さぁ!! どうよ!?)
小さな見栄の成果を確認すべく、心躍らせながら周囲の様子を伺う。
しかし、その眼に映るは此方を見向きもせず各々の昼食に舌鼓を打つ二人の姿。
その姿に松基はお手本の様にガクッとずり落ちた。滑稽な独り芝居をしていたことに、今さらながら恥ずかしさが込み上げてくる。
(ま、まぁ。そんなもんだよね。きっとアイドル活動に関する集会なんだろうし。変な所で気合入れてても無意味よね)
「? どした璃日心?」
「ううん、何でもない。それより早く本題に入ろうよ」
気にするな、と手を振る松基を果実は疑問に思うも思い当たる節はなく。
「? ……じゃあ話進めるね。報告と顔合わせの意味で今日は集まってもらったの。
まず聡馬には既に言ってるけど、三月末で事務所を退所することになったってのが報告。
で、それ以降は自分に合う事務所を探しつつ、個人活動もやっていこうと思ってて。それで二人にはどういう事をやってみるか、とか一緒に考えてもらいたいから『チーム小林』。勝手にチャットグループ作るより、ちゃんと顔合わせしてからの方が良いよなって思って」
「はぁ~。事務所辞める決断よくできたね。って、その辺は後で詳しく聞けばいいか。それより杜中君はアイドルとか興味あったんだ?」
「興味ありませんよ。元々は干渉する気もありませんでした。ただ事務所を辞める決断に俺は一枚噛んでいるので。手を出した以上、協力はします」
最後の一口を食べ終え箸を置く聡馬。相変わらず感情の起伏は少ない。
話を戻すけど、と果実は一つ手を叩き
「私なりに考えた結果、動画配信サイトで動画を出すのはどうかなって思って」
「動画って……具体的には何を?」
松基の質問に果実はよくぞ聞いてくれました、とばかりにニコリと笑う。
「オリジナルソングを作って出すのはどうかな!?」
「お、オリジナルソングぅ~!?」
突飛な提案に松基は再度驚きの声を上げる。
無言の聡馬もほんの僅かに目を見開いていた。
「で、でも果実曲なんて作れるの!? 私には無理だからね!? ハッ!! そうか、杜中くんが作れるのか!?」
「俺にも難しいですって」
「聡馬なら勉強すれば何とかなりそうな感じはするけど。それはそうとして。今回はね、一人目星を付けてる人がいるの」
果実は悪戯が成功するのを待つ子どものように不敵に笑った。




