私が選ぶ道
次の日、果実は都内に建つ所属事務所に訪れていた。
レッスンやライブの為に都内に来ているのではない。社長と今後についての話をする為に来たのだ。聡馬に諭され迷いが消えた果実は、あの後社長にアポイントを取っていた。
約束の時間五分前になったことを確認し社長室の扉をノックする。入室を許可するくぐもった声を聴いてから一言断りを入れて入室した。
直後感じるムッとした重苦しい空気。
その空気を作っている張本人、夏空は執務机に座り一見穏やかな笑みを浮かべているが、よくよく見るとその眼は笑っていない。普段は夏空の提案を素直に二つ返事で了承する果実が今回ばかりは頷かなかった事を良く思っていないのだろうか。
果実は一瞬怯み足がすくみそうになる。が、気持ちを強く持ち真正面から向き合った。
「社長。突然の事にも関わらずお時間を作ってくださりありがとうございます。ご連絡させていただいた通り、今後に関してご相談したいことがありこの場を設けていただきました」
「うん。それで? 相談って何かな?」
机に肘をつき手を組む夏空。まるで別人のような冷たい声色。
「減量に関してですが……、私はこれ以上落とすことが出来ません」
「それは契約解除になる事を覚悟の上で言っているのかな?」
「はい。もしそれが認められないとおっしゃるのなら、契約は解除していただいて構いません」
「……。どういう風の吹き回しなのかな? 君は夢のためならノーとは言わない子だと思ってたんだけど」
威圧するような態度にも果実は屈しない。進みたい道は既に決まっているのだから。
「私はただアイドルになれれば良い訳じゃないんです。私の夢は『皆の心を照らし背中を押してあげられるアイドル』なんです。それなのに色んな人に心配かけて、叔母も初めてできたファンの方にも悲しい顔をさせてしまいました。かえって笑顔を奪っていたんです。なので今のままではいけないと思いました。私の夢はただこの道を突き進むだけでは叶いっこないって気づいたんです」
「ほう……。では通告通り契約解除だ。この書面に保護者のサインを貰って次回のレッスン時に提出しなさい。ただし、退所日は三月末日とさせてもらう。一月下旬にショッピングモールでのライブ、三月上旬にテレビ出演が決まった。この機を逃す手はない。それまではグループひいては事務所の為に全力を尽くしてくれ」
夏空は果実の申し出を予見していたのか、あらかじめ用意されていた用紙を差し出す。
昨日までは例えどんなに耐え忍ぶことになっても受け取りたくなかったこの紙。しかし行動理念が明確になった今、これも何かの運命のように感じるのだ。
果実は用紙を受け取り、夏空に応える。
「もちろん皆さんを笑顔に出来るよう最善を尽くします」




