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レゾナンス・コード  作者: 橘 左近


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第12話 最適解という思想

 零和医工れいわいこう本社、応接室。

 白を基調とした空間は、余計な装飾を徹底的に排していた。


 壁面に投影されているのは、都市全体を俯瞰した経絡インフラの模式図。

 地下を走る主脈、区画ごとの副脈、そして各施設に伸びる細い分岐。

 

「都市経絡の安定度は、想定値の範囲内です」

 第零設計室だいぜろせっけいしつ結城透ゆうき とおるが淡々と報告する。

「だが、局所的な負荷は増えている。特に居住区と医療区画の負荷が著しい」


「当然です」

 向かいの男が即答した。

「人の流れが集中する場所に、負荷が集まらない設計はあり得ない」


 篠宮晃司しのみや こうじが視線を上げる。

「だから零和医工は、レゾナによる個別補正を前提にしている。インフラだけで人を制御するつもりはない」


「制御ではありません。最適化です」

 男の声に迷いはない。

「揺らぎを許容するから、誤差が蓄積する。管理とは、逸脱を最小限に抑えることだ」


 結城は即座に否定しなかった。

 その代わり、視線を玲真に向ける。

「玲真。君はどう思う?」


 玲真は椅子に深く腰掛けたまま、少し考える。

「管理しすぎれば、人は流れなくなります」


 男が視線を向けた。

「それは感情論だ」


「現場論です」

 玲真は静かに言う。

「人の身体は、設計図どおりには動かない。だから第零設計室があります」


 沈黙が落ちる。


 男は、都市図の一部を指でなぞった。

「だからこそ、経絡インフラは完璧でなければならない。人が不完全だから、基盤は完全であるべきだ」


 その言葉に、篠宮が小さく息を吐いた。

「……相変わらずだな」


 男は気に留めない。

「零和医工の基準があるから、我々は完璧を目指せる」


「立場が逆だ」

 結城が言った。

和衡わこうエンジニアリングがインフラを握っている以上、零和医工はあなた方に依存している」


「依存ではない」

 男は即座に否定する。

「共存です。そして、その関係を維持するには、思想を揃える必要がある」


 玲真が、わずかに口角を上げた。

「思想か……」

 その視線は、男を値踏みするようだった。


「あなたの思想は、人を信じていません」

 玲真は、鋭い口調で言った。


 男は初めて、即答しなかった。

「……信じているからこそ、管理する」


 玲真はそれ以上、踏み込まない。


 会議は、予定通りの時間で終わった。

 結城と篠宮が先に立ち、応接室を出る。


 最後に残った玲真が、男にだけ聞こえる声で言った。

「あなたの息子は、学院で揺らいでいますよ。神原社長」


 男の視線が、一瞬だけ鋭くなる。

「揺らぎは、成長の前段階だ」


「そうですね」

 玲真は立ち上がる。

「だが、どこへ流れるかは、本人次第です」


 応接室に、男がひとり、残された。


「……だからこそ、導くのが最適解だ」

 壁に映る都市経絡を見つめながら、彼は静かに呟いた。


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