哄笑
モンゴメリーの拘置所の尋問室は湿気とタバコの臭いで淀んでいた。トミー・レイは手錠をかけられたまま、FBI捜査官ジョン・ハリスと向き合っていた。ハリスの背後にはもう一人の捜査官が立ち、書類を広げていた。ハリスは鋭い目でトミーを睨み、切り出した。「トミー、ジョー・ウィルソン、ルーファス・ジョーンズ、ベン・カーター。全部お前の仲間、ホワイトフューリアスの仕業だろ? 黒人たちが証言してる。話せば楽になるぞ」
トミーは椅子にふんぞり返り、鼻で笑った。「黒人どもの戯言か? 随分と軟弱な証拠で俺を脅す気だな。FBIってのはそんな雑な仕事しかできねえのか?」 ハリスはテーブルを叩き、声を荒げた。「ルーファスの遺体に書かれた血の文字、クラレンスの農園の怪しい動き、全部繋がってる。黙ってても時間の問題だ」 だが、トミーは口を閉ざした。FBIの手元には黒人コミュニティの証言——ジョーの妻マリアや教会のメンバーからの話——しかなく、物的証拠は皆無だった。トミーは内心で確信していた。「こいつらに俺を捕まえる力はねえ」
尋問は連日続いたが、トミーは一言も吐かなかった。ハリスの質問に「知らねえ」「関係ねえ」と繰り返し、時折ニヤリと笑って挑発した。「お前ら、俺を軟弱者だと思ってんだろ? こんな子供騙しの尋問で口を開くわけねえ」 ハリスは苛立ちを隠せず、書類を叩きつけたが、証拠の欠如は明らかだった。トミーの黙秘はホワイトフューリアスの結束を象徴していた。
拘置所には、ホワイトフューリアスの仲間からの差し入れが届いた。タバコ、ビスケット、酒場のマッチに隠された「黙ってろ、俺たちがいる」と書かれたメモ。トミーはそれらを手にし、胸を張った。「俺たちの戦いはここでも続いてる」と彼は呟いた。看守の中にはホワイトフューリアスに同情的な者もおり、差し入れは容易にトミーの手に渡った。
数週間後、FBIはトミーを起訴する証拠を揃えられなかった。ハリスは渋々、トミーを酒場での乱闘を理由にした軽い「公務執行妨害」の罪で処理するしかなかった。トミーは罰金を払い、拘置所から解放された。釈放の日、ジェイクとサムがトラックで迎えに来た。「トミー、よくやった! FBIの鼻を明かしてやったぜ!」とジェイクが笑った。
その夜、トミーはホワイトフューリアスのメンバーと酒場に集まり、バーボンを傾けた。ビリー・クロウがグラスを掲げ、「FBIの無能っぷりに乾杯だ!」と叫ぶと、仲間たちの笑い声が響いた。トミーはテーブルに拳を叩きつけ、語った。「あのハリスって野郎、黒人どもの証言だけで俺を捕まえられると思ったらしい。軟弱な連邦の犬が、俺たちの戦いを止められるかよ!」 ジェイクが続けた。「ルーファスの件もカーターの件も、全部闇に葬った。俺たちの町は俺たちが守る!」 サムが酔っ払って歌い出し、酒場はホワイトフューリアスの勝利ムードに包まれた。
だが、酒場の喧騒の裏で、トミーの胸にはかすかな影がよぎった。FBIが去ったわけではない。ハリスは町に残り、黒人コミュニティで新たな証人を探していた。教会では、マリアがルーファスの歌を密かに教え、若者たちが公民権運動のビラを配り始めていた。トミーはバーボンを飲み干し、その影を振り払った。「俺たちの戦いは終わらねえ」と彼は呟いた。だが、モンゴメリーの夜空には、嵐の予感が漂っていた。




