9.聖女、プロですから――
更に半月の時が流れ、私はアジトの前で日光浴をしていました。
サングラスをかけながらのんびりしていると——
「ボス! 大変です!」
部下が血相を変えてやってきました。
私は今のんびりしているというのに……余程の事態でなければこの報い受けてもらいましょう。
「どうしました?」
「騎士団風の連中がこちらに向かって来ています!」
「——っ!! ついに来ましたか!!」
サングラスを放り投げ跳ね起きる。
「全員第一種戦闘配置!!」
「はい! ……え、第一種……ってなんですか?」
「いいからさっさとフル装備で待機しててください! 他の人にもそう伝えてくださいね!」
アジトに戻り声をあげます。
「ユーリィィィイイイイイイイ!!」
アジトの奥からユーリがのっそりとやってきました。
寝ていたようで寝癖もついていますね。
「何だようるさいな……」
「ついに目的の連中が来ましたよ!」
「ああ、ようやくか。それで第何騎士団なんだ?」
「……そこまでは聞いてませんねぇ」
「お前なぁ……勢いで行動するなといつも言ってるだろ。まずは人の話をだな——」
ユーリがグダグダとお説教を開始したのでサッとその場を離れます。
誉め言葉は聞いてもお説教は聞きたくないんですよねえー!
アジトの外に出ると部下たちがザワザワしていました。
なので私は告げます。
「全員戦闘準備!! ボケッとしている人は私が殺しますよー! サッサと動きなさい!!」
私の一言に部下たちは我先にと動き出しました。
物分かりのいい部下ばかりで助かりますね。
殺したら蘇生する手間が発生するのでめんどくさいんですよね。
私自身も手早く装備を着込み、アジトの正面で全員が揃うのを待ちます。
もたもたと揃うメンツを前に私は大海原よりも広い心で待ちます。
「遅っせえですねえ!」と言いたいのを我慢し——
「はいっ! 全員が集まるまで5分かかりましたっ! 遅っせえですねえ! 私が敵なら10回は殺せてますよっ!」
「お前みたいな異常者を基準にするなよ……」
「ユーリなら30回は余裕で殺せますからねえー!」
「まあな……いやいやいや。そ、それでこのあとはどうするんだ?」
改めて全員を見渡します。
全員がフル装備……女の子たちもなぜかフル装備。
彼女らはお留守番ですね。
「女性陣はアジトに待機。扉を固く閉じて籠城していてください」
そして私は男どもに告げました。
「さあ、皆さん! 騎士団をぶっ殺しますよー!!!!」
◇
辛うじて道がある正規の街道とは別の街道に奴らはいました。
「クソッ。なぜ俺らがこんな場所の盗賊退治なんぞ……」
「何回もボヤくなって。いいじゃないか、たまにはこういう泥臭いのも乙なものだろ?」
「何を言っているんだい。僕の様な高貴な家柄には相応しくないよ。王都に戻ったら父上に抗議してもらおう」
「おいおい。上も仕方なしに俺らに依頼したんだ。あんまり虐めてやるなよ?」
馬鹿みたいな会話をしながら馬に乗った騎士どもが街道を進んでいます。
ユーリと共に偵察に来ましたが、警戒する必要はなさそうですね。
笑っていられるのも今のうちですよっと。
騎士団の掲げる旗のマークからして恐らく第三騎士団の連中でしょう。
第三騎士団——それはこの国に仕える貴族の子息だけで構成された騎士団。
実家を継ぐことの出来ない三男四男、もしくは落ちこぼれの長兄などが所属しています。
家を継げないとはいえ、そのまま穀潰しになられても困るのでこうして王国直属の騎士団に入団させられるというわけです。
体のいい厄介払いですね。
実際連中はゴミですし。
王城にいた時は何度もナンパされたので、いつか殺してやろうと思っていました。
ちなみに誤解のないように言っておきますが、第一騎士団、第二騎士団は身分に関係なく完全実力主義の猛者揃いです。
私も何度か第二騎士団に手合わせをしてもらいましたが、さすがに一人で全員を相手にするのは骨が折れました。
さすがの私も全員倒した頃には肩で息をする程度には疲弊してしまいました。
そのせいで第一騎士団からは門前払いを受けたのは納得がいきませんね。
話を戻しましょう。
とにかく第三騎士団は貴族の子息だけあって傲慢で怠惰で堕落したゴミのような連中です。
権力を笠にかけてあくどい事もしているとかなんとか……してるんですけどね。
なので、今日はその罪の清算をしてもらいましょう。
眉間を指でトントンと叩いたあと目出し帽を被ります。
「何時もそれやってるけど、何の意味があるんだ?」
「今からやるぞーというスイッチを切り替えてるんです——
プロですから——」
「なんのプロだよ……」
「殺し——
ですかねぇ——」
「ホント何言ってんだお前……」
音を出さずに部下が先回して待つ地点へと移動。
「はい、というわけで今から皆さんには騎士団を襲ってもらいます」
「ボ、ボス、さすがに騎士団はまずいんじゃ……」
「まあ、たしかにまずいですね。ですが! それは全員殺した場合です。今日は殺さずに身包みを全て奪います」
そう、今回の目的は連中が身につけている装備の品々。
騎士団というのは基本的に装備の規格が統一されています。
修理をする時に一つ一つ違うのでは手間ですからね。
しかし、国直属の組織なので鎧の質はそこら辺の冒険者とは、比べ物にならないほど良い物となっています。
そして第三騎士団の連中は貴族の子息だけあってとてもバカなので、そこに装飾品を勝手に付け加えています。
戦うのに必要のない宝石をジャラジャラと……たまりませんね、歩く宝箱です。
ありがとうバカでいてくれてって感じです。
そして鎧も魅力的ですが、もう一つ魅力的なものをバカ共は持っています。
それは武器! 貴族だけあって無駄な見栄を張るためだけに名高い武器を携帯しています。
文字通り宝の持ち腐れですね。
武器たちの悲痛な叫びが聞こえてきます。
可哀想なので、私が全て救って差し上げましょう。
私の盗賊活動がようやく実を結んだのですから、ド派手にいきましょう。
「今日この日のために今まで種を蒔いていたのですから、皆さんには頑張ってもらいますよー!」
「種?」「なんだ種って」「畑にまくアレだろ」「俺ら畑仕事なんてしてたか?」「してないな。ボスがイカレタか?」
どうやら私の部下たちは何も理解していなかったようです。
なぜ私が襲う相手を生かしたまま帰したのか、その意図すら理解していないようです。
全員に手でその場に座るように指示し、咳払いをひとつしてから話し始めます。
「えーでは何故襲った相手を生かしたまま逃がしてるのか——はい、カイン。答えてください」
「えっ、うーん。殺したくないから、ですか?」
「たしかに無益な殺生は私も好んではいません。我々は極悪非道な盗賊団ではありませんからね。ですがハズレです」
座っている部下たちは顔を見合わせ首を傾げる。
誰一人としてピンときていないようなので答えを言ってしまいましょう。
「答えは簡単です。騎士団をおびき寄せるためです」
「ボス。騎士団に手を出すのはまずいんじゃ……」
「問題ありません。今回来ているのは第三騎士団です。騎士団の恥部ともいえる連中ですね。こんな奴ら相手に後れを取るようなら私が直々に鍛え直してあげます」
部下たちから軽く悲鳴が上がりましたが無視します。
「まあ、ようは私たちがココにいると騎士団の連中に知ってもらえればいいわけです。そしてこう伝わるでしょう、襲われたが死人は出ていない。金目の物と食料だけ奪われた。そうなるとどうでしょう、『小物に第一か第二騎士団を差し向けるのはもったいない』と、連中はそう思います。そこで白羽の矢が立つのが穀潰しの第三騎士団となります」
「なぜ第三騎士団だとわかるんです? 第一や第二の可能性もありますよね?」
「死傷者がいない。これが一番の決め手となります。王都の連中は私たちを物は奪うけれど、殺しはしない連中と判断します。それならば戦力を出さずに無駄に数の多い第三騎士団に任せようと判断するわけです」
数人は「なるほど」と納得しましたが、殆どの部下が「そうかなぁ?」と首を傾げました。
ダメですね。
このまま説明しても理解する人間は増えそうもないのでさっさと奴らを襲うとしましょう。
「はいはい。説明は終わりです! なーに暢気に座ってるんですかサッサっと立ちなさい! 五秒以内に立たなかったら……見せしめに一人ぶち殺そうと思いましたがその必要はなさそうですね」
直立不動に立ち並ぶ部下を見渡し告げます。
「では皆さん! この先にある開けた場所で奴らを襲いますよ! 良いですね!?」
「「「「わかりました!!!!」」」」
「よろしい!」
私は全員に向けて祝福の言葉を授けます。
「では全員——ご安全に! ヨシッ!!」
セレナが目出し帽を被った段階からずっと被っていますのでそのつもりで脳内再生してください。
部下の男ども 15名 10/15
サトシ :モンスターテイマーの力はあるが、未だにスライムしかテイムできていない男
シマズ :戦う際はチェストと叫ぶ男
スカー :顔に大きな傷痕が刻まれた一番強面な男。好きな物はお花畑。1番強かった男。
セブルス:一人称吾輩。なんか偉そうな男。
ソラ :攻撃力は皆無だが、デバフが得意な闇魔法を使う男。他人の空似。
ぷに丸 :サトシがテイムできた唯一のスライム。元々名前はなく、サトシも相棒と呼んでいたところ。セレナによってぷに丸と名付けられ、アジトの床に落ちているゴミをせっせと消化している掃除屋さん。戦闘力はカス。




