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6.聖女、戦う


「……ん」


 何やら良い匂いがしてきました。


 微睡む思考が美味しそうな匂いによって次第に覚醒。


 腹が、空きました……!


 ポン、ポン、ポン。


 よし、店をさが……す必要はないですね。


 洞窟の入り口に行くと、そこではテーブルの上に幾つかの料理が並んでいました。


 周囲はすっかり暗くなっているので、どうやらもう夜になってしまったようです。


 少し昼寝をするつもりが思いのほかガッツリ寝てしまいましたね。


「ボス! 起きられたんですね、もう少しで準備が出来るのでココに座って待っていてください!」


 新たに手下に加わった女の子の案内で椅子に座り、素直に待つ事に。

 

 見た感じシンプルに肉を焚火で焼いていますね。


 骨付きのままワイルドに齧り付きたいものです。


「セレナ。ある程度の物は出来たが、明日はどうする?」


 ユーリが私の向かいに座りそう尋ねてきました。


 なので周囲を見回し、テーブルと椅子がそれなりに出来ているのを確認。


 ユーリがそう言うという事は、ベッドも必要数は完成したのでしょう。


「でしたら次は洞窟内の内装ですね。さすがに土がむき出しの状態はよろしくありませんからね。木の板で補強しましょう」

「やっぱりそうだよな、了解。じゃあ明日はそうするよ」

「お願いしますね」


 明日の打ち合わせを軽く済ませた頃、私たちの目の前に肉の塊が運ばれてきました。


「ボス。焼けたから食べてくれ。この森にすむ魔物の肉だが、結構いけますよ」


 カインが魔物の肉を切り分けてくれました。


「では頂きますね」


 ズッ


 ガプッ


 ギュウウウウ


 ナポ…


 モニュ…モグ…


 モニュ…モニュ…


 口の中に肉汁が溢れるとともに、野生みのある味わい。


 美味い。


 なかなかに美味ですね。


 味付けはシンプルに塩のみなので、肉の味を引き立たせています。


 ユーリも切り分けた肉を次々口に運んでいるので、気に入ったのでしょう。

 

 その後、二人で肉の塊を奪い合いながら完食しました。


 ◇


 朝。


「皆さん! おはようございます!」

「「「「おはようございます! ボス!」」」」

「良い返事です。では今日は二手に分かれて行動します。こっちから半分はユーリの指示のもとアジトの整備を行ってください。そして残りの半分は私に着いて来てください。盗賊家業を再開します。女性陣はアジトの掃除と食事の用意をお願いします」


 朝食も食べ終わり、全員を集めて朝礼を行います。

 

 一日の始まりにこうして意思を統一するのは大事な事です。


「では皆さん! ご安全に!」


 かくして私の盗賊家業が開始した瞬間でした。


 ◇


「……あの、ボス。何でそんなもん被ってるんですか?」

「私はこう見えて有名人ですからね。念の為です。念の為」


 アジトから街道へ向かう道中、手下のカインから疑問の声があがりました。


 私は一応聖女なので、王都ではそれなりに顔が知れ渡っています。


 普段王城を抜け出す時は認識阻害のローブを身に纏っていますが、それもお婆さんの店に売り払ってしまったのでもう手元にはありません。


 なので正体を隠すために目出し帽を被ることにしました。


 私の特徴ともいえる薄桃色の美しいストレートヘアーを隠す事に抵抗はありますが仕方ありません。


 私が盗賊行為を行っていると王都に知れ渡れば、即座に騎士団が出張ってくるでしょう。


 それだと私の計画が狂います。


 まだその時ではないので、今は大人しく悪名を轟かせるだけに留めておきましょう。


 街道に向かって森の中を歩いていると。


 不意にガサガサと音がすると共に——巨大なナニカが現れました。


 見た目は大きな猪。


 立派な牙は鋭利で、その体はとにかくデカい。


 通常の猪型の魔物の何倍もある大きさ。


 全身に歴戦の傷のようなものが残っているその姿は、圧倒的強者感を醸し出していました。


「——っ! ボ、ボス! コイツはこの森の主だ! 絶対に動かないでくれ、刺激しなければやりすごせる……」


 カインが言うよりも速く、他の手下たちはその場で息を潜め始めました。


 なるほど……森の主ですか。


 …………これだけ大きいと、さぞ立派な毛皮が取れそうですね?


 腰に帯刀していた短剣を抜き放ち。


 森の主へ一歩踏み出す。


「え、ちょっボ、ボス!?」


 ◆

 セレナはカインの言葉を無視して歩みを進める。

 その手に握る短剣に魔力を送ると——魔力によって作り出された光り輝く魔力の刃が現れた。

 森の主は近づいて来るセレナを一瞥すると、すぐに臨戦態勢へと入る。

 

 森の主は理解する。

 目の前の人間がどういう存在なのか。

 自身の全身に刻まれた傷痕をつけたかつての強敵(ライバル)たちとは比べるのも烏滸がましいほどの脅威。

 小さく、一息で踏みつぶせるであろうその存在に、なぜこれほどの脅威を感じるのか。


 自慢の牙を小さき存在に向け、全身全霊を込めた突進を繰り出した。

 しかし、目の前から小さき存在が消えた瞬間——森の主の意識は深い闇の底へと落ちていった。

 ◆


 手に持つ短剣に魔力を送り、魔力の刃を展開。


 この短剣はお婆さんの店にあったもので、前々から目をつけていた代物です。


 効果はシンプルで、魔力を注ぎ続けている間は魔力の刃が作られるというもの。


 注ぐ魔力の量によって大きさや形を変えられるので便利な代物です。


 もっとも、普通の人間が使えば数十秒が限界でしょう。

 

 ですが私は、消費する量よりも回復する量の方が多いので問題ありません。


 回復しなくても半日は出し続けることは可能ですけどね。


 短剣を軽く振るうと、ビュンと風切り音が鳴る。


 私のようなか弱い少女が持つには、このような短剣でなければいけません。


 鉄の剣なんて論外ですね。


 森の主は牙をコチラに向け、明らかに警戒し始めました。


 まだ何もしていないというのに……いやはや困ったものです。


 やれやれと頭を軽く振ると——森の主が向かってきました。


 それはシンプルな突進。


 ですが、これほどの巨体ならばそれだけで十分なのでしょう。


 まあ、対処が楽だからいいんですけどね。


 一歩踏み出し跳躍。


 森の主の頭頂部付近まで飛び上がると、そこで体を捻り一回転。


 ヒュンと軽い風切り音が鳴り。


 森の主の頭を一息に切り落としました。


 森の主の体はそのまま力が抜け、勢いそのままに地面へ倒れ込んでしまいました。


 切断面からは絶え間なく血が流れ、誰がどう見ても死んでいるとわかります。


 短剣へ送る魔力を遮断し鞘に収め。


 茂みの向こうで惚けている手下たちに告げる。


「皆さん! 予定変更です。このお肉をアジトに持って帰りますよー。毛皮からお肉までムダなく活用しましょうね」


 その後、さすがに私たちだけでは運べそうにないので、汚れるのは嫌ですが魔法の絨毯を使い。


 アジトへ帰還しました。

 

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