4.聖女、手下を手に入れる
ガタゴトと荷車がろくに整備されていない街道を進む。
王都を離れて二日。
私は荷車での旅を楽しんでいました。
「——ふう。セレナ。そろそろ休憩してもいいか?」
「ええいいですよ~。それにしても酷い道ですね~」
ユーリが腰を下ろし休憩する傍ら、私はここまでの旅路を振り返りました。
メインの街道とは違ってロクな整備もされていない街道を選んだので仕方ないのですが、とにかく道が凸凹していて荷車といえども快適に過ごせませんでした。
ですが私にはお婆さんのお店でもらった絨毯があります。
この絨毯は私が横になっても十分な大きさがあり。
とある魔法の効果が付与されているのです!
それは込めた魔力に応じた時間宙に浮くというもの。
私は荷車の上に絨毯を敷き。
若干浮くことによって衝撃を無効化していました。
なので私のお尻は無事です。
だからといってユーリにそのことを伝える事はしません。
私にだって乙女な部分はあるのです。
お尻が痛い、なんて口が裂けても言えません。
「セレナも荷車に乗ってたんだからお尻痛いだろ?」
「ええ、すごく痛いので労ってください」
向こうから心配して声をかけてくれるのなら話は別です。
「なら回復魔法使えよ」
「そういうのは要らないんですよね〜」
「はいはい。それで、目的地まであとどれ位あるんだ?」
「うーん。そろそろだとは思うんですけどね〜」
王都を出て人気の少ない街道を進むこと二日。
タイミングとしてはそろそろ来てもいい頃なんですけどね〜。
とはいえあてが外れる可能性も高いわけですから、とりあえず先を進んでみましょう。
「休憩は終わりにして進みますよー」
「……はぁ。荷車を引っ張るのは俺なんだからさ、もうちょい休ませてくれよ」
「ではお昼にしましょう。ちょうどいい時間ですし」
休憩がてら昼食を食べることにしました。
メニューは昨日の残りの魔物肉を挟んだパン。
とてもボリューミー。
濃いめの味付けで味のしないパンによく合いますね。
「セレナ、水くれ」
「はいどうぞー」
私はお婆さんの店から貰ったピッチャーに魔力を込めました。
すると空っぽのピッチャーに清潔な水が沸いてきました。
そう、この道具は込める魔力の量に応じて水を生み出す魔道具なのです。
生憎と私は水魔法が使えないので、飲水の確保は旅をする上で死活問題。
なので前々からお婆さんの店にあったコレに目をつけていたのです。
ユーリのコップに水を注ぎ、残りを飲み干しました。
「直接飲むなよ……」
◇
休憩を終え、またしばらく街道を進んでいると——
「セレナ。起きろ」
「——フガッ、なんです? 私の昼寝を邪魔するほどの——おー」
いつの間にか森の中を進んでいたようで、道を塞ぐように一本の丸太が横倒しになっていました。
ようやく目的のものが現れましたか……いやはや、随分とのんびり屋さんですね。
「退かすから端っこを持ってくれ」
「その心配はありませんよ」
「あー、もしかして相手する気なのか?」
「それが目的ですから」
そんな私たちのやり取りを聞いていたのか、周囲の茂みからガサガサと音を立てながら男たちが現れました。
どいつもこいつもボロボロの装備と剣を手にしています。
おそらく冒険者崩れの盗賊といったところでしょう。
「よお、お二人さん金目のもん全部置いてくなら。命までは取らないでおいてやる」
テンプレのようなセリフ。
間違いありません。コイツらは——盗賊です!!
正面に四人。
左右にそれぞれに二人。
逃げ道を塞ぐように荷車の後ろにも二人。
それに対してこちらは私とユーリの二人。
十対二。
なんて卑怯な連中でしょうか。
私は怒りに震える手を抑え、言い放ちました。
「ユーリ! やっておしまいなさい! あ、殺しはダメですよ? 半分位にしてください」
「はいはい。また変なこと企んでるな?」
「さあ? 武器はこれを使ってください」
ユーリに道中拾った〝良い感じの木の棒〟を渡しました。
無加工でこの出来栄えは中々のものです。
「ウッドカリバー」と名付けましょう。
「セレナ。終わったぞ」
私が名前を考えている間に終わったようです。
地面には盗賊たちが倒れていました。
もう少し時間をかけてもいいと思うんですよねぇ。
「〈回復魔法〉」
呪文を唱えると光の粒子が倒れた盗賊たちの体を包み込み、その傷を癒していく。
盗賊たちは自身の身に何が起こったのか理解できていないご様子。
なので私は言いました。
「皆さん。私たちに敵わないのは理解しましたね? ではお話をしましょうか」
「は、話し? お前らは一体なんなんだよ……」
「私の名前はセレナ。アナタ方を倒したのはユーリと言います。自己紹介はこれで終わりですので、詳しい話は貴方たちのアジトでしましょうか」
「は? 何を言って『拒否権なんてありまえんよー?』——せめて、仲間の命の保証はしてくれないか?」
おやおやおや。
この人たちは私がとんでもない悪人にでも見えているのでしょうか?
心外ですねー、わからせてあげましょう。
「アナタ方に拒否権はありません。素直に案内してください。そうするのなら永遠の繁栄を約束しましょう」
「な、なにを言ってるんだ……?」
「死にたくないならさっさと案内して下さい。こう見えて私は気が短いんです」
「悪いことは言わないから素直に言う事を聞いてくれ。コイツはマジだ」
盗賊たちが「相談してもいいか?」と言うので許可すると、話し合いの結果アジトへ案内してくれることになりました。
最初からそうしていればいいものを手間をかけさせますね。
盗賊の案内のもと、私たちは森の奥深くにあるアジトへと招かれました。
洞窟をそのまま利用した簡素なアジト。
そこには男が五名に私よりも年下であろう見た目の女の子が五名いました。
「……ふむ。そこのアナタ。説明してください」
「え? せ、説明と言われてもだな……」
「彼女たちはなぜここにいるのですか?」
彼女たちの首に着けられている首輪には見覚えがあります。
あれは奴隷の証——このハメーツ王国では奴隷は禁止されています。
表向きはですがね。
秘密裏に権力者が奴隷を所有しているのは、ある程度の権力があれば公然の事実として知れ渡っています。
当然私の耳にも入ってきていました。
ほんとうに、やれやれです。
私は少女たちに近付き、首輪を掴むとそのまま引き千切りました。
本来ならば無理やり外そうとすると死んでしまうのですが、ある程度の魔力とコツがあればこの程度の首輪なんて屁でもありません。
首輪を引きちぎられた少女たちが目を白黒させているので、私は言い放ちました。
「はい、ちゅうも〜く。今日からこの盗賊団は私の支配下になりました! 文句がある方は直ちに名乗り出てください!!」




