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捨てられた転生者、金色の竜と旅に出る〜時空間チートで巡る、帰る場所のある旅路〜  作者: mizu
第四章 北の森

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罠にかかった赤茶と、飛び出した金色

朝、ルーチェは上空から探した。


 岩棚から飛び立ち、谷の底を低く回る。いつものように高く上がったり、水の上をかすめたりはしなかった。首を下へ向けたまま、川の両側をゆっくり見ている。


 俺は川原を歩いた。


 岩のあいだ、砂のたまったところ、石の重なったところ。昨日と同じ道を、反対側からも確かめた。動かなくした三つの罠は、そのままだった。開いた鋼の歯が石の陰から見えている。


 新しいものは、まだ見つからない。


 ——レイ、上からだと、石の色が違うところは見つからない。


「……そうか」


 ——でも、ティオが言ってた匂いがする。上流のほう。


 俺は顔を上げた。奥の霧までは、まだ遠い。その手前にも、大きな岩がいくつも張り出している。人が隠れられそうな陰があった。


 昨日、靴の跡はそちらへ続いていた。途中で見失ったが、まだ誰かいるのかもしれない。


「人が見えたら、近づくなよ」


 ——うん。レイもね。


 ルーチェの影が川原を横切った。俺はティオがいつも寝ている石へ目を戻した。


 いない。


 朝、岩棚を下りるところは見た。そのあとも、この近くにいると思っていた。


 罠があったのは、ティオの通る道だった。昨日はルーチェから伝えてもらった。だが、ティオがどこまで分かったのか、俺は確かめられていない。


「ティオは?」


 上へ呼びかけたとき、音がした。


*


 鋼の鳴る音。そのあとに、高く、短い声が続いた。


 竜の声だと分かるまでに、一息かかった。いつも聞く、岩がこすれるような音とは違った。


 ティオだった。


 いつもの石より上流に、赤茶の体が見えた。川が岩のあいだで深くなっているところだ。前脚を水へ入れたまま、体を後ろへ引いている。


 俺は走った。


 飛び散る水の下に、黒い鋼が見えた。ティオの右の前脚を、足首のところで挟んでいる。鋼から鎖が伸び、川底の岩に回してあった。


 川底にもあった。


 石の色ばかり見ていた。波立つ水の底に、何が沈んでいるかまで確かめていなかった。


 ティオが脚を引いた。鋼も一緒に動き、また短い声が上がった。流れの中に赤いものが広がった。


「引くな!」


 声を出しながら走ったが、ティオはこちらを向かなかった。濡れた石で足が滑り、片手をついた。すぐ立ち上がった。それでも、まだ遠い。


 岩の陰から、人が出た。


 二人。反対側から、もう二人。


 四人いた。


 二人は弓を持っていた。残りの手には縄と、口の広い器がある。何を入れるつもりなのかと思った途端、北の森で見た鹿の腹が浮かんだ。


 肉が残り、血だけが少なく見えた、あの鹿。


 今、川へ流れているものを、あれに受けるつもりなのか。


 四人はティオへ近づいていた。俺が走っていることに気づいているのかは分からない。弓を持つ一人が、周りの岩棚を見上げた。


 竜たちも首を上げていた。見える範囲では、川へ下りてくるものはいない。


 ティオがもう一度、鳴いた。


*


 金色が空から下りてきた。


 翼をたたみ、ティオと四人のあいだへ落ちるように降りた。石がはね、水が上がった。その向こうで翼が開いた。


 大きかった。


 昨日までのルーチェより、ずっと大きい。広げた翼の端が川の両岸へかかり、四人の上を影が覆った。


 ルーチェが鳴いた。谷で聞いたどの声よりも低く、長かった。水面が震え、四人の足が止まった。


 開いた口から、火が出た。四人へ向けてではない。あいだの川へ、短く。水が白く沸き、湯気が岸まで流れた。街道の野営で鼻先から上がった、細い煙とは別のものだった。


 王都の人混みで、この子が怖がって逃げたときのことを思い出した。今は隠そうとも、小さく戻ろうともしていない。


 四人が下がった。一人は足元の石につまずきかけた。それでも逃げず、弓を持った二人が構え直した。


 矢が飛んだ。


 一本がルーチェの胸に当たった。硬い音がして、下へ落ちた。


 鱗が止めた。


 港町の桟橋で、竜の鱗は矢を通さないと聞いた。今、目の前で一本が止まった。次の一本も、翼の付け根の鱗に当たり、川へ落ちた。


 ルーチェは爪を出さなかった。かみつきもしない。火も、二度は吐かなかった。翼を広げて首を上げ、ティオの前に立っていた。


 ——レイ、来て。


 頭の中へ声が来た。短く、はっきりしていた。


 俺は足を止めた。


 ここからでは、走ってもすぐには着かない。川の石をよけて走れば、もっとかかる。四人のうち一人が、次の矢を取り出していた。


 鱗で止まったからといって、目まで同じではない。広げた翼には、薄い膜もある。そこへ当たったら。


 ルーチェへ続く糸をたどった。


 いつもより、はっきり感じた。向こうの端が、矢の飛んでいるあの場所にある。


 町の杭へ飛んだあとは、立てなかった。だが、走っているあいだにも、次の矢は来る。


 俺は糸を掴んだ。


*


 足元が水になった。


 冷たさが膝まで来た。すぐそばに金色の脚があり、見上げると翼が広がっていた。


 どちら側へ出るかを選んだ覚えはない。俺が立ったのは、ルーチェの脇だった。翼の向こうに四人が見え、後ろにはティオがいた。


 走っても届かなかった道が消えた。


 膝は折れなかった。北の森で、雪の印まで小屋の裏から飛んだだけでも膝をついた。三日の道を越えたときには、そのまま倒れた。


 今は立っている。


 理由を考えるより先に、声がした。


「……ガキが一人」


 弓を持つ男が、俺を見ていた。その隣の男も、矢をつがえる手を一瞬止めた。


 北の森の小屋で、俺とルーチェを見た男の目を思い出した。だが、ここで顔を見比べている余裕はなかった。


 俺はティオへ向き直った。


 赤い水の中に、閉じた鋼の歯がある。足首の鱗は小さく、歯はその隙間に入っていた。付け根には留め金と、ちょうつがいが見えた。昨日の三つと似ている。


 昨日は開いているものの張りを逃がした。今は脚を挟んでいる。どこへ力がかかっているのか、水の上からでは分からない。


 ティオが身じろぎした。水の色が、また濃くなった。


 俺は膝を曲げ、手を伸ばした。そこで足が震えた。川底を踏み直すと止まったが、息がまだ短い。


 壁を作れば、矢は止められるかもしれない。だが、井戸のときも小屋のときも、壁を保ちながら動くことはできなかった。今、ここで手を上げたままになれば、ティオの脚を外せない。


 腰には短剣が二本ある。


 男へ向かうために抜く手も、今は出なかった。


 俺は両手を、水の中へ入れた。


 冷たさの中で、指が鋼に触れた。頭の上で翼が動き、日が陰った。


 ——レイ。


「外す。動くなよ」


 ティオにも、この子にも言った。


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