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捨てられた転生者、金色の竜と旅に出る〜時空間チートで巡る、帰る場所のある旅路〜  作者: mizu
第四章 北の森

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三度目の下山と、届いた三つ

初秋の、ヴァーガの月。三度目に下りてきた町の宿で、ようやく包みを受け取った。


 主人は俺の顔を見ると、帳場の奥からそれを出してきた。油紙の上から麻ひもで縛った、腕に抱えるほどの包み。ひもの結び方に見覚えがあった。籠の底を張り替えるときの、あいつの結び方だ。


「来たぞ」


「……はい」


「三日前だ。王都からの隊商が置いていった。預かり賃は届いた月からだから、ひと月ぶん。銅貨五枚だ」


 俺は五枚を帳場に置いた。主人は数えて、帳面に書きつけてから包みを押し出した。


「重いぞ」


 受け取ると、両腕にずしりと来た。


*


 泊まるところへ運び、戸を閉めてからひもをほどいた。


 油紙は二重で、その内側に布が巻いてある。布を開くと、革の匂いがした。いちばん上に、焼けた茶色の上着が入っていた。袖があり、丈は腰まである。


 頼んでいない。


 図面に描いたのは杭と、爪に柄をつけた刃物だけだ。上着のことは、自分で考えただけだった。


 内側に紙が一枚、糸で留めてあった。アリア姉の字だ。


 ——まだ背が伸びるころでしょう。少し大きめに作ってもらいました。内側には、トーマが何か細工をしています。何を入れるのか聞いたら、レイなら分かる、と。


 袖を通すと、手首が少し隠れた。肩にも余りがある。袖を折ってみてから脱ぎ、内側を広げた。


 胸と背中の革が二重になっていた。そのあいだがいくつかの袋に分かれている。口は開いたままで、縁には糸を通すためらしい穴が並んでいた。中に何かを入れてから、縫い閉じる作りだ。


 袋の一つに、もう一枚、紙があった。こっちはあいつの字だった。字より絵の方が大きい。


 上着の内側に鱗が三枚、描かれている。そこには線が引かれ、横に杭の絵があった。鱗は杭の中へ移っていた。


 下に一行。


 ——鱗は杭に使った。上着は自分で足せ。


 俺はしばらく、その絵を見ていた。


 上着に使うことは伝えていない。あいつも同じことを考えたのか。三枚では足りないから、入れ物だけを先に作ったらしい。


 ボックスの奥の布包みには、今、一枚ある。岩棚で拾って、ルーチェに聞いてから預かった金色の鱗だ。送った三枚より大きいが、胸の袋になら入りそうだった。


 戻ったら、並べてみようと思った。


*


 上着の下に、鉄の杭が二本あった。


 長さは俺の膝ほど。先がとがり、頭は平らだった。黒く焼いた鉄で、井戸の桶を掛ける杭だと言えば通りそうな形をしている。木を削るのは無理だと思って頼んだが、トーマは鍛冶に作らせたらしい。


 芯に鱗を入れ、雨が入らないように閉じてほしいと描いた。閉じ方は任せた。


 杭を回して見た。継ぎ目がどこなのか、すぐには分からない。指でたどると、頭に近いところで色の違う輪に触れた。鉛を流して口を閉じてあるらしく、爪はほとんど引っかからなかった。


 俺は杭を握ったまま、目を閉じた。


 小屋から送る前、三枚すべてに印を置いてある。そのときの感覚を探した。鉄の冷たさとは別に、指の先に引っかかるものがあった。もう一本にも、同じものがある。


 残っていた。


 あれから、ここまで運ばれてきても。


 ただ、近くで感じられることと、遠くから飛べることは別だ。俺が鱗まで飛んだのは、小屋の裏から寝床のそばまでだった。


 三本目の杭は、包みに入っていなかった。代わりに、孤児院の庭の絵がある。


 井戸と、野菜を干す台。その脇に杭が一本。台から杭までの距離を、線と数字で示してあった。これなら、庭に戻ればどこか分かる。


 井戸の縁に腰を下ろして、トーマがこれを描いているところが浮かんだ。俺は紙を折り直し、ほかの図と重ねた。


*


 最後に、細長い包みを開いた。


 布の中から出てきたのは、革の鞘に入った短剣だった。柄は鉄で、革が巻いてある。飾りは何もない。鞘と柄の革巻きは、縫い目でトーマの仕事だと分かった。柄の鉄は、杭と同じ鍛冶だろう。


 抜くと、窓からの光が刃を通った。薄いあめ色だった。小屋の灯りの下では金色に見えた爪が、昼の光では少し違って見える。


 指の長さほどの曲がりは、送ったときのままだった。鉄の刃のように平たく打ち延ばしてはいない。根元を柄に収め、握っても動かないように仕上げてある。


 俺は柄を握り直した。爪だけで持ったときより、ずっと手に収まる。


 ルーチェが、生え替わりだからと言ってくれた爪だ。俺が送って、トーマが作り、戻ってきた。


 ガレスさんにもらった短剣を隣に置いた。こちらの柄には、冬のあいだ何度も握った手触りがある。


 手入れを怠るな。無理に近づくな。


 譲ってくれたときの言葉を思い出しながら、爪を鞘へ戻した。新しい方なら使える、という気にはならなかった。それでも、ここまで仕上げて送ってくれたものを、包みの底には戻したくなかった。


 腰ひもを直し、二本ともつけて立ち上がると、新しい鞘がももに当たった。


*


 手紙は二通あった。


 アリア姉の手紙は長かった。春にまとめて送った六通への返事だった。


 孤児院での近況や、院長先生と孤児院のみんなの様子が書かれていた。


 読みながら、何度か同じ行に戻った。セルが背丈でカインに追いついた、という行だ。セルは、もうそんなに大きくなったのか。頭の中でカインの横に並べてみても、なかなか同じ高さにならない。


 最後の方に、庭の杭のことが書いてあった。


 ——トーマと相談して、井戸の脇に決めました。水を汲む邪魔にはならない場所です。あなたが頼んだものだそうですね。帰ってきたら、何に使うのか教えてください。


 帰ってきたら。


 俺は庭の絵をもう一度広げた。野菜を干す台と、杭のあいだに引かれた線を指でなぞった。


 リーナの手紙は一枚だった。


 ——縁者なら、いつか道が開かれる、と書いてありましたね。急ぐ者には開かない、とも。私は急ぎません。あなたが帰ってくるまで、ここで待ちます。母の文字のことを、忘れずにいてくれてありがとう。


 渡された写しを思い出した。返ってきても、読める文字が増えたわけではなかった。それでもリーナは、待つと書いてくれた。


 二通を畳み、上着の胸の袋に入れた。まだ鱗の入っていない袋が、紙の厚みで少しふくらんだ。


*


 その日は手紙を書き、塩と粉を買い足した。ルーチェは谷でティオと待っている。明日には山道へ戻る。


 夕方、荷から一本だけ杭を取り分け、山道の入口へ運んだ。


 道標の石積みは、初夏のデメテスの月に来たときと同じだった。根元には壊れた罠がまだ残り、さびが広がっていた。


 石積みの裏へ回った。道からは陰になる。雨で土が流れた跡も、踏み荒らされた跡もなかった。


 土と石のあいだに杭の先を当て、手で押した。入らない。近くの石で頭を叩くと、少しずつ沈んだ。半分ほど埋まったところで止め、ぐらつかないことを確かめた。


 鉄の杭が一本、石積みの陰に立った。鱗が入っているようには見えない。


 頭に手を置くと、宿で感じた印がそこにあった。新しく置き直す必要はなさそうだった。


 今は残っている。明日も、その先も残るかは、まだ分からない。北の森の雪に置いた印は、三日目には消えていた。


 手を離して、山を見上げた。


 白い尾根の向こうに谷がある。歩けば三日。もう一本は、あの岩棚のそばへ持っていく。


 雪で道が閉じても、この印をたどれたら。


 手紙を出しに来られるかもしれない。俺は杭の頭についた土を払い、宿へ戻った。


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