↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられた転生者、金色の竜と旅に出る〜時空間チートで巡る、帰る場所のある旅路〜  作者: mizu
第五章 竜の谷

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/90

谷で過ごす夏と、拾わない手

夏の谷は、日陰へ入ると涼しかった。


 日が底へ届くのは遅く、山の向こうへ隠れるのは早い。それでも昼の川原の石は熱くなった。ティオはその上へ腹をつけ、目を細めていた。


 ルーチェは、朝飯を終えると服を脱いだ。


 岩棚から川原の広いところへ下り、竜の姿へ戻る。谷へ来たばかりのころより、その姿でいる時間が増えていた。翼を一度広げてから、道の方を見る。


 人影も煙もなかった。


 金色が浮き上がった。谷を囲む山より低いところで大きく回り、川の上を通っていく。ティオが目を開け、その動きを追った。


 ここへ来て二か月ほどになる。暮らしている岩棚の周りで、人に会ったことはなかった。ルーチェはここではあまり人の姿にならず、竜のまま火のそばへ座ることも増えた。


 ただ、町へ行く布まで捨てたわけではない。山の別の道から人が来るかもしれないという、宿の主人の話も覚えていた。


 俺は空をもう一度見て、岩の上に広げた薬草へ手を戻した。


*


 谷の斜面には、細く硬い葉の草が生えていた。


 日の当たる岩の隙間で見つけたものだ。葉の形を見てから、鑑定を通した。


【イワヨモギ/高地の岩場に自生。葉をもんで傷に当てれば血が止まる。ハイマツヨモギに近い】


 ハンナ婆さんの袋を開け、粉を少し紙へ出した。採った葉を指でもみ、それぞれ匂いを確かめた。


 似ていた。けれど、今もんだ葉の方が鼻へ強く残った。乾かした粉と、生の葉の違いもあるのだろうか。


 婆さんの棚で教わったように、葉の裏も見直した。近いと出ても、同じ量で同じように使えるかまでは分からなかった。二つを混ぜず、採った方には名前を書いた紙を添えた。


 手元へ影が走った。


 顔を上げると、金色の下を赤茶が飛んでいた。ティオも寝るのをやめたらしい。ルーチェが曲がると、そのあとを追って翼を傾けた。


 俺はしばらく二頭を見ていた。谷へ入る前には飛ぶ場所を探し、何度も道を振り返った。今は、同じ岩棚からいつもの飛び方を見ている。


 ルーチェがこちらの上を通ったので、片手を上げた。首が少しこちらへ向き、またティオの方へ戻った。


*


 夏の盛りの、ハイラの月に、二度目の下山をした。


 今度も俺だけで行った。ルーチェは谷に残り、夜も竜の姿でティオたちと外で眠る。町へ下りて、買い物をして、戻るまで七日。出る前にその日数を伝えると、頷いて見送ってくれた。


 荷はまだ届いていなかった。


 手紙を出し、塩と粉を買い足した。宿の主人は、四人組も見ていないと言った。それ以上のことは分からなかった。


 帰りに谷の底へ下りたところで、水の流れが緩い場所を見つけた。


 川が大きく曲がり、その内側に石がたまっていた。流木や折れた枝が引っかかっている。その間に、薄いものが何枚も沈んでいた。


 鱗だった。


 岩と同じ灰色で、大きいものは手のひらほどある。爪ほどの小さなものも混じっていた。水が揺れると、縁だけが鈍く光った。


 俺は岸にしゃがんだ。


 乾いた泥に、靴の跡があった。端が崩れ、底の模様ははっきりしない。少し離れた石の間には、羽根のついた短い棒が引っかかっていた。折れた矢の後ろ側のようだった。


 人が来た跡だろう。けれど、いつ歩いたものかまでは分からなかった。


 周りを見た。川の音が続いているだけで、人影はなかった。


 鱗を拾いに来たのだろうか。四人組の跡なのか、ほかの人なのかも、俺には見分けられなかった。


*


 水の中に、何十枚もあった。


 港町で聞いた、金貨二枚という声が浮かんだ。目の前の鱗が同じ値段なのかは知らない。それでも、売りに来る人がいる理由は分かった。


 袋は持っている。浅いところのものなら、靴を濡らさずに取れそうだった。


 俺は水へ伸ばしかけた手を止めた。


 トーマへ送った三枚も鱗だった。ルーチェが落としたもので、杭へ使っていいか聞いてから包んだ。今ごろ、どこまで運ばれているだろう。


 目の前のものは、どの竜のものかも分からない。上流から流れてきたのか、その場で落ちたのか。持っていっても、誰も気にしないかもしれなかった。


 けれど、拾ってはいけない気がした。


 俺は袋の口に触れていた手を離した。立ち上がり、膝についた土を払って道へ戻った。


 鱗も、折れた矢も、そのまま残した。


*


 岩棚が見えるところまで来ると、空に金色と赤茶がいた。片手を上げると、ルーチェがこちらへ向きを変えた。


 先に岩棚へ上がり、鞄を下ろした。二頭は大きく回ってから、川原へ向かって降り始めた。


 俺は荷を下ろし、火を使う場所から落ち葉を払った。


 足元に、金色のものがあった。


 鱗が一枚。手のひらの半分ほどで、前に送った三枚より大きかった。岩棚の奥、ルーチェがよく腹をつけるところに落ちていた。


 拾い上げ、明るい方へ向けた。薄い縁に光が通る。ひとまず布の上へ置き、風で飛ばないよう包んだ。


 ルーチェがそばへ来た。ティオより大きな姿のまま、鼻先を俺へ近づける。


 ——おかえり。


「ただいま。荷はまだだったよ」


 ——うん。待ってるあいだ、ティオがまたお肉を持ってきた。


「そうか。あとで見せてくれ」


 首の付け根へ手を置いてから、布を広げた。


「ここに落ちてた。お前の鱗だと思う」


 金色の鼻先が近づいた。


 ——うん。わたしのだね。


「これも預かっていいか?」


 ——いいよ。また、杭にするの?


「まだ決めてない。服の内側へ入れられたら、身を守る役にも立つかなと思ってる」


 ——レイが着るの?


「ああ。使える形にできればな」


 ルーチェは鱗を見てから、俺を見た。


 ——じゃあ、使って。


「ありがとう」


 人が来ていないのを確かめ、ボックスから空の布包みを出した。三枚をトーマへ送ってから、何も入れていなかった包みだった。そこへ一枚を移し、包み直してボックスへ戻した。


 トーマに頼んだのは、杭と爪を使う刃物だ。上着は頼んでいない。鱗をどう留めるかも、俺にはまだ分からなかった。


 今は、折らずになくさず、取っておこうと思った。


*


 翌日も、ルーチェはティオと飛んだ。


 二頭が休みに降りるたび、俺は薬草を干す場所を少しずらした。風で葉を飛ばされたくなかった。ルーチェも覚え、岩棚から離れたところで翼を動かすようになった。


 夕方、金色が川原へ降りた。少し遅れてティオが着地し、そのまま石へ腹をつける。ルーチェは俺の方へ歩いてきた。


 ——レイ、今日は、ずっとこの形だった。


「朝から、竜のままだったな」


 ——うん。ティオの前でも、小さくしなくていい。


 首を下ろし、俺と目の高さを合わせた。


 ——隠さないの、楽。


「そうか」


 ——でも、なんか、足りない。


 俺は葉を包む手を止めた。


「何が?」


 ルーチェは少し考えて、首を横に振った。


 ——まだ、分からない。


 俺も、すぐに答えられることはなかった。空を飛びたいと言っていたこの子が、今日は好きなだけ翼を動かしていた。それでも足りないものがあるらしかった。


「飯にするか?」


 ——うん。


 ルーチェが人の姿に戻り、服を着た。俺は鍋を火から下ろし、椀を二つ並べた。さじを渡すと、この子は指の間で一度持ち直した。


「レイ、頭の布は、どこ?」


「鞄の底。預かったまま、しまってある。要るか?」


「ううん。今は、いらない」


 ルーチェは椀を受け取り、豆をすくった。


 布を出しかけた手を戻し、俺も隣へ座った。火の向こうでは、ティオが目を閉じている。


 布は鞄へ入れたままにしておいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。