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捨てられた転生者、金色の竜と旅に出る〜時空間チートで巡る、帰る場所のある旅路〜  作者: mizu
第四章 北の森

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三枚の鱗と、袋に入れた爪

ルーチェに置いた印は、まだ感じられた。


 雪に置いた印は、三日経つと消えた。こちらは五日後にも飛べたし、そのあとも、そこに残っている感じがある。


 何が違うのだろう。


 その晩、ルームの食卓へ、ボックスの奥から出した布包みを置いた。港町でルーチェに見せた、金色の鱗が三枚入っている。


 一枚を手に載せた。親指の爪ほどしかない。灯りへ傾けると、薄い縁が光った。


 ルーチェの体を離れたあとにも、同じように魔力を残せるだろうか。


「これにも、印を置いてみていいか?」


 隣の椅子から、ルーチェが覗き込んだ。


「わたしにつけたのと、おなじ?」


「うん。取っておいた鱗でも、残るか知りたい」


 ルーチェは俺の手の上を見て、頷いた。


 雪へ置いたときと同じように、そこへ魔力を留めた。指を離しても、自分の置いたものが感じられた。


 俺は鱗を布へ戻した。試すときに分かるよう、印を置いた一枚だけは、ほかの二枚と分けて包んだ。


*


 翌朝、小屋へ出るとき、その一枚を持っていった。


 包みは寝床の脇へ置き、戸を閉めた。ルーチェと裏へ回り、人がいないのを確かめた。前に雪に印を置いて試したのと、同じくらいの距離だった。


 ルーチェは俺の隣にいる。鱗の印は、小屋の中にある。


 そちらを辿った。


 次の瞬間、小屋の中にいた。


 寝床の脇に、布包みが見えた。俺はその前へしゃがみ、息を整えた。戸が開くと、ルーチェが顔を出した。


「うろこのところに、いけた?」


「ああ」


 俺は包みを持ち上げた。中には昨日と同じ鱗がある。これへ向かって、俺の体が動いたのだ。


 試し終えた包みは、ルームへ戻した。三日後と五日後にも、小屋へ出してから同じように確かめた。


 どちらも、印は残っていた。


 雪と同じようには消えないらしい。生きているルーチェだけでなく、抜けた鱗にも残せる。そのことを、紙へ書き足した。


*


 鱗は、三枚ある。


 食卓に並べて見ていると、置いておきたい場所が浮かんだ。


 孤児院の庭。井戸のそばで、アリア姉が野菜を干していた場所だ。


 あそこへ一枚置けたら、ここからでも感じられるだろうか。辿れるだろうか。試した距離を思うと、あまりに遠かった。


 それでも、置かなければ確かめることもできない。


 鱗を一枚つまんだ。風にさらせば、どこかへ飛んでいきそうな薄さだった。庭の隅へそのまま置くわけにはいかない。土に埋めても、どこへ埋めたのか分からなくなる。


 杭の中なら、どうだろう。


 地面へ打ち込めて、雨が降っても流れないもの。その中へ鱗を入れれば、場所を決めて残せるかもしれない。


 俺は紙の端に、細長い形を描いた。


 俺に、木を削って金具を付けるような腕はない。庭へ打つ杭には、長く土に耐える木や金具が要った。


 トーマの作った鞄を見た。何度も背負い直してきたが、底も留め具も、まだしっかりしていた。


 あいつに、頼んでみようと思った。


*


「三枚とも、杭に入れてもらいたいんだ」


 ルーチェに絵を見せた。尖らせた下側と、平らな頭。それから、鱗を入れるところを大きく描いた。


「一本はうちの庭に。あとの二本は、俺たちが持って歩く。残しておきたい場所ができたら、使えるように」


「うちに、かえれる?」


「そうしたい。ただ、遠くから飛べるかはまだ分からない」


 ルーチェは鱗と絵を見比べた。


「トーマにつくってもらうの?」


「作れるか聞いてみる。中へ入れたら、鱗を簡単には出せなくなるかもしれない」


「うん。つかっていいよ」


 俺が顔を上げると、ルーチェは庭へ置く方の絵を指した。


「これでかえれたら、いいね」


「ああ」


 紙を引き寄せ、もう少し大きく描き直した。


*


 杭の長さは、俺の膝ほど。鱗は真ん中に入れ、口を閉じる。どう閉じれば雨や土が入らないかは、俺には分からなかった。


 そこは任せる、と書いた。


 ——杭を三本、作れるか聞きたい。同封する鱗を一枚ずつ中へ入れたい。長く土に打っておけるものにしてほしい。見た目は、普通の杭でいい。


 絵のそばへ、鱗の大きさも書き添えた。作れるなら、一枚ずつ確かめてから入れてもらう。


 ——一本は庭の井戸のそばへ。打つ場所は、アリア姉に相談してくれ。残りの二本は、俺が受け取れるところへ送ってほしい。


 宛先のところで、ペンが止まった。


 春には、俺たちはここを出る。トーマが作り終えるころ、どこで荷を受け取れるだろう。


 俺は次の行へ移った。


 ——送り先は、決まったら改めて知らせる。それまでは、そちらで預かっていてほしい。


 港町からアシェンへ荷を送れば、月が二度満ちるころになると聞いた。ここからなら、もっとかかるかもしれない。それに、作ってもらう時間も要る。


 紙を出したらすぐ帰り道ができるわけではなかった。俺は絵を見直し、雨を避けたいところへ線を足した。


*


 ルーチェが紙から顔を上げた。


「レイ、ほかにもつかえる?」


「鱗を?」


 首を振り、椅子から降りた。ルームの寝床の前で上着を脱ぎ、竜の姿へ戻った。


 前脚を持ち上げ、いちばん外側の爪を見ている。


 ——これ、ぬけかけてる。


 俺はそばへ行ってしゃがんだ。古い爪の根元が少し浮いていた。この子の体は、小さいころから何度も大きくなってきた。爪も、生え変わるものらしい。


 ——とってくれる?


「痛くないか?」


 ——もう、ぐらぐらしてる。


 指を添えると、爪が動いた。引っ張らずに支えているうちに、ルーチェが前脚を曲げ、古い爪が俺の手へ落ちた。


 指ほどの長さがある。先が曲がり、灯りを受けて金色に光った。


 ——レイにあげる。


 俺は爪を載せたまま、この子を見た。


 港町の男たちの声が浮かんだ。爪と牙は別口だ、と言っていた。あの箱のそばで、ルーチェの手が震えていたことも。


「これを、俺に?」


 ——うん。レイをまもるものに、つかって。


*


 ルーチェは前脚を下ろした。


 ——あのよる、つかまれたとき、なにもできなかった。レイがきてくれたけど、レイも、たたかうのはにがてでしょう?


「……そうだな」


 ——だから、これももってて。


 手の中の爪を見た。刃物にできるのだろうか。細い根元に柄をつければ、持てるかもしれない。


 けれど、形になっただけで、俺が人に向けられるわけではなかった。


「道具になっても、すぐ使えるかは分からないぞ」


 ——でも、まだおそわれるかもしれないでしょ?


「ああ」


 ルーチェが頷いた。俺はもう一度、前脚を見せてもらった。血は出ていない。触れなくても、普通に床へついていた。


「本当に、痛くなかったか?」


 ——はえかわりだもん。


 俺は爪を布で包んだ。


「ありがとう。どう使えるか、聞いてみる」


 ルーチェは包み終えるまで見ていた。


*


 翌朝、小屋で鞄へ移した爪を、鍛冶場へ持っていった。


 ルーチェも一緒だった。頭の布を巻き、俺の隣で待っている。


 鍛冶の人は、欠けた斧を台へ置いた。俺が短い刃物にできるか聞くと、まず見せてくれと言った。


 布を開くと、爪へ目が留まった。


 手に取り、明るい方へ傾けている。しばらくして、俺の前へ戻された。


「うちでは無理だ」


「形を変えるのが、難しいですか?」


「鉄と同じつもりでは打てん。これをどう扱えばいいか、おれは知らん」


 俺は爪を布へ載せた。


「試してもらうことも、できませんか?」


 鍛冶の人は俺を見てから、戸口へ目をやった。


「何の爪かは聞かん。ただ、うちでこれを刃物にすれば、どこから出たか聞きに来る奴もいるだろう。ここへ、そういう客を呼びたくない」


 俺は包みを閉じた。


「分かりました。見てもらって、ありがとうございます」


 頭を下げると、鍛冶の人は台の斧を取り上げた。俺たちはそれ以上頼まず、外へ出た。


 ルーチェは、俺が包みを鞄へ入れるところを見ていた。


「つくれない?」


「ここでは、難しいって。トーマにも聞いてみようと思う」


「うん」


 短い返事だった。俺は鞄の口を閉じ、二人で婆さんの家へ向かった。


*


 夜、ルームでトーマへの紙をもう一枚書いた。


 湾曲した爪の絵と、根元へ柄をつけた絵。爪そのものの形を変えずに使えるかどうか、俺には分からなかった。


 ——これも一緒に送る。短い刃物にできるか、見てほしい。難しければ、そのまま返してくれ。無理に削ったり割ったりはしないでほしい。


 書き終えると、鱗の残り二枚にも印を置いた。送ったあとでは、こちらから新しく置けるか分からない。三枚とも、一枚ずつ手を離して確かめた。


 紙を重ね、鱗と爪はそれぞれ布で包んだ。さらに油紙を重ね、外側を布でくるむ。中で爪の先が紙に当たらないように、何度か置き直した。


 封をする前に、ルーチェへ見せた。


「三枚と、一本。これで送る」


「うん」


 港町で、売らないと答えた鱗だった。手元からは離れる。それでも、売るために包んでいるのではない。


 ルーチェが布の端を押さえ、俺が紐を結んだ。


 包みはルームの中へ置いた。春の便が来たら、小屋で鞄へ移して持っていく。それまでは、ここで預かる。


「レイ、これは、トーマのところにとどくの?」


「春の便に頼む。そこからも、月が二度満ちるくらいはかかると思う」


 ルーチェは指を二本立て、包みを見た。


「じゃあ、わたしたちがあるいてるあいだも、ずっととどいてるとちゅうなんだね?」


「……そうだな」


 俺は紐の結び目をもう一度確かめた。今夜はまだ、食卓の端に載るくらいの包みだった。


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